街の空気がとってもしっとりと落ち着いている。
同行している雑誌のフォトセッションも交えての散策だった。
小さな観光用のボートに乗ってアムステルダム運河を巡ったりした。
本当に街の風景がデズニーワールドであった。
この初ヨーロッパ公演以降、北米ツアー、ヨーロッパツアーなどで色んな国の市町村に行くことになるのだけど、結局しっかり観光らしいことをしたのはこのアムステルダムの時だけだった。
ワールドツアー中のオフ日は移動の疲労やドンチャン騒ぎの二日酔いでホテルのベッドで寝ることが多かった。
クレイジーなR&Rバンドそのままである。
それにしても、オランダ人の背の高さには驚いた。
男性は平均で180cmはありそうだ。女性は170cm前後という感じか?
身長の差を痛感したのはトイレである。
僕は165cmなんだけど、用を足す時に若干背伸びをしないと僕のオティンティンが便器に触れてしまいそうだった。
アムステルダムでは古城を巡り、教会を巡り、異国情緒をたっぷり満喫して楽しかった。
このヨーロッパの伝統的な古城を見ていると、あまりにヘビーメタルの持つイメージにぴったりで、ヘビーメタルはヨーロッパのものであると納得。
だって、街の空気が、雰囲気が伊藤正則氏のライナーノーツで描くヘビーメタル(どんなんや?)しているんだもんあぁ~(笑)。
若者はみんなヘビーメタルファンなのか?
勿論、そんなことはある訳無いけど・・・。
1983年8月19日 オランダ@PARADISO
この日はLOUDNESSとして初めてのヨーロッパでのライブだった。
会場はもともと教会だったそうだ。(と言っていたような・・・)
ステンドグラスがバルコニー席にあり、メタルライブをやるにはいささか荘厳すぎる会場だった。
きっと弦楽四重奏などを聴けば最高かもしれない。
会場に入ると夏だと言うのに、ヒンヤリとした空気と幾分カビっぽい匂いがした。
地元のスタッフと日本人スタッフが入り混じり楽器セッティングやサウンドチェックが進む。
日本とヨーロッパでは電圧の違いがあるのだが、ヨーロッパではマーシャルの鳴りが凄い。
タッカンが「これやんけ!!」と言ってこのマーシャルの音に聞き惚れていた。
会場は音楽用に作られた会場ではないせいもあり、ヘビーメタルのような爆音を出すとワンワンと響き渡り凄まじい音の洪水である。
ライブにはこの方がむしろ良いのかもしれない。
オランダのオーディエンスがいったいどんなノリでライブを楽しむのか皆目想像が付かないが、イメージ的にはこのぐらいうるさい方がヨーロッパのメタルファンの歓声に負けない気がする。
結果から書くと、その思惑は大当たりだった。
オランダのメタル野郎は野獣であった・・・・。
サウンドチェックを終えて食事に出るため外にでた。
(ふんぎゃ~~!!なんじゃ~~~こいつら!!!)
外はゴリゴリのメタルファンッション、いやこれはファッションではない、この人たちの生き方そのものなのかも知れないが、年季の入ったボロボロで鋲の付いた革ジャン(背中には”SAXON” “METALICA” “MOTOR HEAD"と言ったバンドのロゴをあしらっていた)を着た人があちこちにいた。
油でぎっとりとした金髪の長髪に髭、細いジーンスにどう言う訳か靴下の中にジーンズの裾を入れていた。
皆背が高く、恐ろしいほどに足が長い。
彼等の多くが、肌は透き通るような白で、目が吸い込まれそうなブルーだった。
少女マンガに出てくるような格好の良いルックスのメタル野郎達だった。
ただ、カリフォルニアのメタル野郎のような人懐こい、友好的な雰囲気はあまり感じなかった。
どちらかと言えば、若干クールと言うのか、彼等の外の表情からは何を考えているのか判断しかねた。
良く海外の人が日本人の表情は分かりにくいと言うが、お互い様ではないかと思った。
恐らく、彼等としても東洋人のロックバンドなんて会ったことも無かっただろうし、どう対応してよいのか分からないのだろう・・・。
それでも数人のゴリゴリのメタルファンと思われる人がサインをくれと言ってきた。
僕が拙い英語で喋ったら、以外にも外見からは想像もつかないほどの純朴で素直で人の良い感じを受けた。
人は外見だけで判断するのは良くないと改めて思った。
そしてとても訛りのある英語で「ルードネス!!遠いところまで良く来てくれたね!」と言ってくれた。
ちなみに、この時初めて英語にも訛りがあることを知った。
耳に入ってきたオランダ人の英語は米語のアクセントと明らかに違ったのだ。
あんなに英語が不得意だった僕が、英語のアクセントの違いを聞き分けられたのは物凄い成長である!!
会場の外で見るオランダのメタルファンとカリフォルニアのメタルファンとを比べると、オランダのメタルファンは物静かであり、なんだか厳しい批評家の面持ちだ。
結局、オランダ、ドイツ、ベルギー、ノルウエー、イギリスのメタルファンはみな同じような雰囲気を持っていることが分かった。
フランス、イタリア、スペインのラテン系のメタルファンはちょっと違った感じでもあった。
とは言うものの、愛するものは皆同じなのである。
世界各国のメタルファンの愛し方の表現は違っていても、皆メタルを愛しているのだ。
そう言うことを目の当たりに出来ただけでも素晴らしい経験であったと思う。
夜、オランダのPARADISOには既に入りきれないほどの生粋のヨーロッパメタルファンのオーディエンスで埋まった。
地下にある楽屋にいると会場の雰囲気が手に取るようにわかる。
僕はサッカーファンでなかったけど、テレビで見るヨーロッパチームのサッカーの試合前や中に時折起こるあの大合唱。
あの大合唱が何の曲なのか分からないけれど、あの大合唱が楽屋に聞こえてくるのだ・・・。
それも見事に一致団結した大合唱なのである。
メタルライブでもあの合唱をしているのを知らなかった・・・・。
怖いぐらいの大合唱が「LOUDNESS早く出て来い!!」と訴えているようだった。
バイキング、ゲルマン民族のメタルの雄叫びである。
これぞヘビーメタルの聖なる夜なのだ!!
この雄叫び大合唱を聞いていると、(うりゃうりゃ~~~~日本からヨーロッパにやって来たぜ~~~!!!おりゃ~~~!!)と言う気分になってきた。
別にヘビーメタルは戦いではないけれど、LOUDNESSは戦闘モードであった。
LOUDNESSの若い日本人4人組が、今まさにヘビーメタルの聖域、巨大なゲルマン族のメタルファンの前にその姿を現す時が来た。
会場の歓声とあの大合唱はまさに最高潮に達していた・・・。
(大阪におるお母ちゃん、ほな、行ってくるわ~~~!!)
ステージへ向かう階段で、どう言う訳か母親の顔が目に浮かんだ。