サンフランシスコに続きこのLAの状況を目の当たりにして、今までのカリフォルニアのイメージがすっかり変わってしまった。
レイドバックしたロックの街、カーペンターズなどのポップスの街、そんな漠然としたイメージは吹っ飛んでしまった。
今、現実に目の当たりにしているLAはすっかりヘビーメタルの街であった。
1983年の時点で、カリフォルニアでもすっかりロックの新しい波、そうヘビーメタルのムーブメントが起こりつつあったのだ。
イギリスから始まったヘビーメタルのムーブメントである。
1983年のLAはこの新しい波、まさに灼熱の風が吹き荒れる前兆であった。
ただ、どこの世界でも同じで、カリフォルニア、いやアメリカのロック業界の大人達が「ヘビーメタルが金になる」と思い始めるにはメタリカの初期アルバムの成功まで待たなければならないのだが・・・。
いずれにせよ、若者たちのメタルに対する思いは熱く純粋だった。
日本、アメリカ、ヨーロッパで起こったこのメタルの台風。
今、その台風の目の中にLOUDNESSはいた。
「LOUDNESSがいったいどれほどのものなのか?」サンフランシスコ公演の噂を早くも聞きつけた地元のメディア、ジャーナリストが沢山集まり、今か今かとそのライブの瞬間を待っている。
「日本からギターの神が来た」と言う噂を聞きつけて、地元のバンド連中もこの目でしっかり確かめてやると厳しい批評家と化してビールを煽ってLOUDNESSの出番を待っている。
オーディエンスの多くは、LOUDNESSのことは知らないけれど、何やらこのバンドの噂で騒がしいのでやって来たと言うメタルキッズもかなりいるようだ。
LAのローカルバンドの中で、人気急上昇のスティーラーをオープニングアクトにするジャップメタルバンドが今その正体を現す。
カントリークラブの場内は異様な緊張と興奮に包まれていた。
一方、楽屋ではメンバーが幾分緊張気味ではあるけれど、サンフランシスコで一回ライブをやっているので多少の安心感はあった。
メンバーにとって、このライブがその後のLOUDNESSの運命を大きく変える重要なライブになるなんて、誰にも想像は出来なかった。
今までやって来た通りのライブをやるだけだ。
「日本でやってきたライブが出来れば充分だよ」と言うダニーの言葉を信じていた。
この会場でも、照明、PAすべてが必要最小限のものである。
日本で使っていたような大掛かりなセットも照明もPAも皆無である。
ステージにはマーシャルアンプ、アンペグベースアンプ、ドラムセット、しかない。
後はメンバーが全力でロックするだけだ。
夜10時半頃、“Hey! Boys! It’s show time!!”とクラブの人が楽屋に声をかけてくれた。
ローディーは走り回って最後の確認に余念が無い。
メンバーは楽屋から揃ってステージへと歩き出した。
楽屋の方まで歓声が聞こえた。
歓声はサンフランシスコで聞いた時と同じ、あの独特の響きでLOUDNESSを歓迎しているようだった。
歩きながら、メンバーはそれぞれ誰に言うでもなくつぶやいた。
「楽しみやな!!ここまで来てほんま良かったな!!」
タッカンが感無量のような口ぶりで言った。
「ほんまや、思いっ切りやったろうや!失敗しても気にせんと行こうや!」
いつも、ステージに登るぎりぎりまで、くわえタバコをしているひぐっつあんが言った。
「お客さんはサンフランシスコより多い感じやなぁ~」
マー君は笑顔で言った。
「今日は思い切って英語で色々喋ってみようかな?」
僕は自分を奮い立たせた。
ステージの横に来た。
ステージの横から客席が少しだけ見えた。
サンフランシスコでは、ステージ前までまさに鈴なり状態だったけれど、LAではそこまでお客さんが迫っている状態では無かった。
それでも各自が腕を上げて何やら叫んでいた。
BGMが切れた瞬間物凄い歓声が起こった。
彼らが皆、LOUDNESSのアルバムを持っているとは思えないのに、この盛り上がりはいったい?
メンバーはその歓声を聞いたとたん、一気に盛り上がり自然にお互いハイタッチをした。
「イェ~~!!これは盛り上がるで~~!」
メンバー全員が興奮状態になった。
オープニングSEが流れ、照明が落ちた。
「お前ら!力むなよ!いつもの調子でガツンと行けよ!!」
マネージャーが檄を飛ばした。
その激と共に、メンバーは「ヨッシャ~~!!」「オリャ~~!!」と気合を入れてステージに歩き出した。
ついに、LOUDNESSは初めてLAのステージに立った。
LAのオーディエンスは、始めてみる東洋人のヘビーメタルバンドに一瞬沈黙した。
赤いランダムスターに黒髪のカーリーヘアーのギターリスト。
銀色のベースギターにこれまた黒髪のカリーヘアーのベーシスト。
切れ長の目にストレートな黒髪のドラマー。
ステージ真ん中に髪をツンツンにおっ立て、顔にはメークアップを施しているグラムロック風の背の小さなシンガー。
全員が大人のような、子供のような、年齢不詳・・・。
ステージの上に、女の子のような華奢で背の小さい子供のようなメンバー4人が、得体の知れないオーラを発しているのだ。
場内オーディエンスの動きが止まったようだった。
東洋から来たメタルバンドだ、彼らにとっては始めての出来事であっただろう。
まさか、日本人のメタルバンドが存在するなんて・・・・。
彼らの表情は友好的でありながら、興味津々と言う感じだった。
オーディエンスが一瞬静まり返ったけれど、タッカンのギターのワンフレーズでオーディエンスの目が覚めたようだ!
ひぐっつあんのキックドラムがオーディエンスを煽る。
僕はマイクに向かって思いっ切り雄叫びをあげた!
“Hello!!! Los Angeles!!!!! Are you ready???????”
そのシャウトでタッカンがインザミラーのイントロを弾きはじめた。
その一撃でオーディエンスが瞬時に激しく揺れた!
インザミラーのイントロが、これほど攻撃的に演奏されたことがあっただろうか?
激しいリズムに印象的な泣きのギターリフ、これぞLOUDNESSの世界である。
16小節の怒涛のイントロが、カントリークラブの場内を圧倒した。
LOUDNESSの鋼鉄の爆音が、ライブハウスのオーディエンスの心をがっちりと捉えた瞬間だった。
何百回と演奏したインザミラーだけれど、この日のインザミラーはまるで大きな怪獣が暴れまわっているような勢いとスピード感で一杯だった。
オーディエンスの多くは演奏中まったく身動ぎもせず演奏に釘付けになっていた。
要所要所で歓声が上がるものの、バンドの一挙一動に見入っている感じだった。
曲が終わるとしばらく”Wow!!!”と驚きの表情で呆然として、その後、割れんばかりの歓声が起こった。
ライブが進むうちに、場内はサンフランシスコと同様素晴らしいエネルギーで一体となった。
みんなが笑顔になった。
僕は歌いながら何度も感動で鳥肌が立った。
LOUDNESS結成から日本でのライブ経験が実を結んだ渾身のライブだった。
サンフランシスコのメニューと同じで、スピードチューン連発のハイパー選曲ライブ。
時間にして1時間弱のステージは、あっという間に終わった。
“ THANK YOU SO MUCH!!! WE LOVE YA ALL!!LOS ANGELES!!”
最後の曲が終わって、僕がそう叫んだ途端地鳴りのような歓声が返ってきた。
僕たちは全員、ステージの前まで行って腕を繋いで大きくおじぎした。
"LOUDNESS!“と叫ぶ声が止まなかった。
オーディエンスは、初めて見た日本人メタルバンドを心底楽しんだ様子だった。
そんな興奮したオーディエンスの中に、我々の運命を変える重要な男がいた。
Atlantic RecordsのA&R Man Nick Loftがその男だった。
彼はLos AngelesのLOUDNESSライブの成功を観てすぐさまNew Yorkのボスへ連絡、そしてLOUDNESSとの契約獲得に動いたのである。
こうしてLOUDNESSの歴史は、また一歩大きく動き出したのである。
見えない偉大な存在が僕に、「お前のショータイムはまだまだこれからだよ!」と囁いた気がした。
まさに運命のLAライブ、僕は楽屋で生きている喜びに包まれた。
