Hollywood BlvdとHighland Aveの交差点を少し北に行くとFranklin Aveがあって、その近所にHoliday Innがある。
そのHoliday Innから5分ほど北へ歩いたところの某安モーテルがLOUDNESS初のLos Angels滞在場所となった。
メンバーは相部屋で僕はマー君と同じ部屋だった。
僕はどちらかと言うと片づけが凄く苦手ですぐに部屋が散らかってしまうのだが、マー君は非常に几帳面で小奇麗に荷物を片付ける。
ある日、シャワーを浴びて目の前にあったバスタオルを無意識に使ったら、烈火のごとくマー君が怒り出した。
そのバスタオルはマー君が使っていたのだ。
(おぉ~そうか、マー君は結構神経質なんやな)と思った。
まぁー確かに他人が使ったバスタオルを使うには抵抗があるわな!
それ以来、人と相部屋になると気を使うように心がけるようになった。
Los angelsはサンフランシスコよりかなり暑かった。
暑かったと言うより、灼熱に近い日差しの強さだった。
滞在していたモーテルの近所はあまり治安が良い印象では無かった。
僕たちが滞在していたホテルの目の前の通りもあまり人が歩いている様子も無く、何となく殺伐としたイメージ。
空気もサンフランシスコより明らかに乾いていて、小学校の頃によく発令された光化学スモッグの時を思い出した。
明らかにホームレスと思われるアフリカン・アメリカンがウロウロしていて少し怖かった。
ましてやメタルキッズとおぼしき人間は皆無だった。
当然ながらLos Angels全域を見たわけでもなかったけれど、少なくとも滞在していたモーテル近辺がなんとなく人工的な街だなと思った。
まぁー元々砂漠地帯だったところに街を作ったようなものだから仕方ある無い。
当時、Los Angelsと聞いて思い浮かべるバンドはEaglesとビーチボーイズ、カーペンターズと言ったメタルとは程遠いバンドばかりだった。
まさかLos Angelsでメタルが受けるとも思っていなかったし、この地にメタルバンドが沢山存在するとも思っていなかった。
ましてやここが80年代メタルのメッカになるなんて想像だにしなかった。
その上、LOUDNESSがここでライブをすることに若干の違和感を抱いていたぐらいだった。
1日オフ日があったのでメンバーで観光がてらハリウッド通りを散策。
ウインドーショッピングしたりしていると、ヘビーメタル専門店を発見。
店のショーケースにはアイヤンメーデンやモーターヘッド、サクソンなどのメタルTシャツが飾ってあった。
「おぉ!こんな所にこんなマニアックな店があるで!」
マー君が微笑みながら叫んだ!
店内には鋲のついたベルトやリストバンド、沢山のヘビーメタルのグッズが所狭しと並んでいて驚いた。
ひとしきり店内を見学して他の店へ移動。
土産物屋さんが多く、Los AngelsやHollywoodの文字をモチーフにしたTシャツがメインで売られていた。そんなTシャツの中に、どう言う訳か変な日本文字をあしらったTシャツも売っていたりする。
文字が逆さだったり左右が逆だったり、まったく意味不明の文字さえあった。
そんな意味不明日本語Tシャツの横に、これまたどう言う訳か分からないけれど、日の丸をあしらったTシャツもあった。
(なんで日の丸のTシャツやねん?どういう訳やねん?)
そんなことを考えながら、そう言えば日本ではあんまり日の丸のTシャツは見かけないなぁ~と思った。
そこでひときわ目を引いたのが旭日旗(きょくじつき)だった。

(うわ~!!これ派手やなぁ~!センスが良いのか悪いのかは分からんが、これならステージで着たら目立つだろうなぁ~)
こんなTシャツ日本では見たことも無いし、珍しいと思った。
軍艦旗、海軍旗、旭日旗など特別な場所か団体でしかお目にかかることが無いので尚更である。
僕は迷うことなく数枚ステージ用に購入した。
日本のライブで着るのに相応しいデザインかどうかは分からなかったけれど、少なくとも海外で着る分には良いアイデアだと思った。
そう言えば、デフレパードのヴォーカルJoe Elliotも自国の国旗デザインのTシャツを着ていることを思い出した。

僕は早速LAライブで着用することにした。
お陰で、このTシャツが海外のメディアに余程のインパクトがあったらしく欧米の様々なロック雑誌など紙媒体で旭日旗を着ている僕がでかでかと紹介されることになって、瞬く間にこのTシャツが文字通り「有名」になった。

LAはカントリークラブと言うクラブでライブをやった。
サンフランシスコのWolfGangを一回りほど大きくした感じの小屋だった。
機材は現地スタッフと共にサンフランシスコから車で夜走りしてLAまで来た。
LAライブでは機材の到着も搬入もすべて問題なく時間通りに進んだ。
手元資料によると、前座バンドにイングヴェイが在籍していたスティーラーやウィッチというバンドが出たらしいけれど、僕は彼らと会話した記憶が無い。
多分、彼らと会話をしたとは思うけれど、英語がまったく分からない上に、顔が皆さん同じに見えたので誰が誰だかさっぱり分からなかった。
スティーラーは地元LAではかなり人気があるバンドらしく、彼らのファンも沢山来ていたようだ。
彼らのサウンドチェックを少しだけ拝見したけれど、やはりアメリカのロックバンド独特の明るいメタルだった。
小難しい楽器アレンジなどはあまり無く、AC/DCのようなザックリとした大味な楽曲で印象に残る大合唱サビメロディーが楽しかった。
こういうロックって日本人のDNAには無いと実感した。
スティーラーは素晴らしいバンドだと思った。
夜10時を回った頃だろうか?
いよいよLOUDNESSにとって始めてのLos Angels公演が始まる。
楽屋にはサンフランシスコで聞いた同じような歓声が聞こえてくる。
この歓声は前座のズティーラーに対してのものだろう。
彼らのパフォーマンスも物凄い受けようだった。
「おぉ~スティーラー受けてんなぁ~。俺らのライブ、どんなことになるか楽しみやね~~」
ギターのウォームアップをしながらタッカンが不敵に微笑んだ。
(お前ら待っとれよ~~~俺が驚かせてやるから!)
そんなオーラがビンビンしていた。
客席には普通のオーディエンスに混じって有名ミュージシャンやマスコミ関係者、各レコードレーベルのA&R(スカウトマンみたいな人)が大勢来ているという報告を受けた。
「二井原、ロニー・ジェームス・ディオの奥さんウエンディー・ディオが来ているらしいぞ!」
マネージャーがこっそり教えてくれた。
僕 「えっ??ほんならDioも来てんの?」
マ 「多分・・・・」
僕 「フンギャ~~~~#$&‘&$“ハリホレホ~~~!!」
マ 「Dioは確認できてないけれど、結構な有名ミュージシャン来ているみたいやで・・・」
(アホ!!そんなことはライブ終わってから言えっちゅうねん!!)
僕はマネージャーの一言で緊張のあまり全身の血が引いて吐きそうになった・・・。
