ずっと赤坂のコロムビアスタジオでバンドリハーサルが行われて来た。
最後の数日はゲネプロと言って本番通りやる通しリハーサルである。
ゲネプロではリハーサルスタジオも広いスタジオになった。
ここは普段は芝居やミュージカルなど大人数でも対応が可能なスタジオだった。
広いスタジオの壁はすべてが鏡になっていて、自分の動きが確認できた。
そこにメンバーのフル装備の機材を持ち込んでのリハーサルだった。
PAもライブで使うような大きなPAとモニターシステムも本番で使う本格的なものを持ち込んだ。
音響、照明、舞台監督などスタッフも総動員された。
スタッフは審査員さながら長いテーブルに座ってリハーサルの一部始終を見ながらメモを取ったりしていた。
それぞれがその道のプロらしく眼光鋭く怖かった。
アマチュア時代には考えられないスケールと緊張感の漂うリハーサルだった。
ゲネプロ初日。
「メンバーを紹介します、ヴォーカルの二井原、ギター高崎、ベース山下、ドラム樋口です。これからリハーサルを行います。よろしくお願いします」
マネージャーがスタッフにメンバー紹介をした。
スタッフは軽い会釈程度はしたけれど殆ど反応は無かった。
リハーサルはメンバーの登場から始まった。
メンバー登場のSEが流れてそれぞれの立ち位置までの出方の練習から始まる。
「もうちょっとゆっくり歩こうか・・・」
舞台監督がアドヴァイスした。
再びメンバー登場のSEが流れた。
メンバーは言われたままもう少しゆっくり歩いたりした。
その時点ではまだ照明は暗転である。
タッカンが1曲目のイントロ部分を弾き始めた。
ここで初めてタッカンにスポットが当たる。
スタッフ全員LOUDNESSを初めて見る。
その表情は(このバンド、いったいどんなもんかな?どの程度ライブ演奏できるのかな?取りあえずお手並み拝見するよ。)と言っているのが手に取るように分かる。
オープニングナンバーは"LOUDNESS"だ。
タッカンのアームダウンイントロでスタジオの空気が一変した。
そのイントロからひぐっつあんとマー君が激しいアクセントをつけ、そして僕の雄叫びで1曲目が始まった。
地を這うようなヘビーなシャッフルリズムがスタジオを大きく揺らした。
リハーサルと言ってもすべての楽器にマイクが取り付けられて、PAからは爆音で素晴らしいサウンドが爆発していた。
“ふさぎ込むのはやめにしようぜ~~~~!!”
僕が歌いだしたとたん無表情だったスタッフの目の色が変わった。
それまで、メンバーに目を合わすことも無くずっと下を向いて冷めた表情で様子を伺っていたスタッフが全員顔を上げ”LOUDNESS”の爆演にあっけにとられ目の色が見る見る変わった。
舞台監督は座ってられなくなって、ついに立ち上がってリズムに乗って全身が揺れ始めた。
照明のスタッフは信じられないと言う表情でバンドに釘付けになった。
音響のスタッフはあまりの爆音とパワーでスピーカーが飛ぶのではないかと走り回った。
すっかりスタッフが慌しくなった。
ギターソロの突入部分のマー君の短いベースソロではマー君が一層激しくアクションをつけて存在をアピールした。
ひぐっつあんとの絶妙なコンビネーションが重戦車の如きうねりを上げた。
タッカンのソロが始まった時にはスタジオが最高潮に達した。
まだ1曲目だというのにスタジオ内は生まれたばかりの”LOUDNESS”の熱演で火がついた。
壮絶な幕開けだった。
1曲目が終了したら間髪いれずに2曲目に突入した。
2曲目はデビューアルバには無い曲だった。
スピードナンバーで僕のハイトーンがスタジオを駆け巡った。
頭の2曲が終わった。
“YEAH!!!!!”
スタッフの中から歓声があがった、全員が立ち上がった、スタンディングオヴェーションである。
スタッフはこの2曲で未知であった"LOUDNESS"と言うバンドを理解した。
スタジオ内はスタッフとメンバーが一つになってリハーサルは一気に熱くなった。
さっきまでの眠そうな顔のスタッフの顔が高潮した。
彼らの中で様々なアイデアが溢れ出てきた。
“LOUDNESS”はスタッフをノックアウトすることが出来た!
スタッフとバンドの信頼関係を築く大事な瞬間であった。
リハーサルは内容の濃いリハーサルになった。
演奏中の動きは当然として、特に僕は歌っている時の目の動きや表情、目線は会場内のどこを見るか、腕はどう動かせばよいかなど細々としたアドヴァイスを受けた。
大きなステージの経験が無かったので一つ一つのアドヴァイスが貴重だった。
「二井原君、3000人クラスの会場ではとにかく大きく動くこと。歩くときも大きく歩くイメージで。とにかくステージを広く使うこと。一つの場所にとどまっては絶対ダメ。腕も大げさに動かすこと。目は会場の隅々まで見ること、特に一番後ろの人を見るように。目の前の人ばかり見ながら歌っては絶対ダメ・・・・」
「バンドはずっと固まって演奏することの無いように。ステージ上に空間を作らないように。例えば、ベースが上手(舞台向かって右側)にいれば、ギターは下手(舞台向かって左側)、ヴォーカルはその間に立つ、ライブ中は常にそれぞれの立ち位置を確認しながら、自分のベストポジションを意識しながら・・・・」
僕にとって学園祭の野外ステージは別として、自分のライブでは400人のお客さんを相手にしたのが最大だったので3000人程の大人数を相手にするのは想像がつかなかった。
「二井原君、ステージのMC・・・お喋りはどうする?」
(あぁ~~そうやった~~!!!いったい何をしゃべったらエエねん???ライブハウスで喋ってたようにしたらエエんか?まさか喧嘩腰MCでは通用せんだろう・・・)
まったくどうして良いか分からなかった。
大阪弁禁止令の身。
これは最大の難題であった。
眠れない夜が続いた・・・・