「持ってきたで~モントローズや、デビューアルバム”モントローズ”とPaperMoney録音しといたで」
ギタリストロニーモントローズ率いるバンドでシンガーがサミーヘイガーだ。
実質サミーへーガーのデビューアルバムがモントローズでもある。
「どんな音楽やねん?」と坊主頭だった僕は聞いた。
「ハードロックやんけ!お前ハードロックって知らんのか?」シャラはちょっと失笑気味に言い放った。
「あぁハードロックか。」とその単語ぐらいは知っていたがまったく未知の音楽だった。
僕がロックを聞き始めたのは中学の頃の友人ハーモニカ君の影響が大きい。
彼が僕に紹介してくれた3つのアーティスト(バンド)は今の僕の根底に流れるものだ。
ビートルズ、LED ZEPPELIN、Pink Floyd
中学一年生にしては随分大人びているのは、実はハーモニカ君はお兄さんの影響が大きい。
要するに、ハーモニカ君のお兄さんの趣味がすべて僕に影響を与えたわけだ。
彼の紹介してくれたバンドはなんでもスポンジが水を吸収するように僕はすべてのバンドを受け入れ、夢中になった。
ビートルズ、そのメロディーやハーモニーが大好きだった。
RUBBER SOUL, White Album, Sg.Peppaers Lonely hearts club band, Abby Road, Let it be
ビートルズが実験的になってきた中期から解散までのアルバムを夢中で聴いた。
僕にとって燦然と輝く究極のロックの姿がビートルズだった
Pink Floyd, ロックミュージックのとりわけプログレシッブロックの魅力にのめり込んだ。
The dark saide of the moon,Atom Heart Mother 朝まで夢中で聞いた。
その後、Moody Blues,King Crimsonにのめり込んだ。
そして、LED ZEPPELINだ。
彼が僕に貸してくれたのは3枚目に当たるアルバムだった。
LED ZEPPELINⅢと題されたこのアルバムのImmigrant songのイントロの叫びを聞いたときの衝撃は忘れられない。
「これは女性なのか?なんだこの高音の叫びは!!!」
僕はこれは麻薬だと思った。
ジャケットを見てもいかにも不健康そのもののメンバーの写真を見て入ってはならない世界だと思った。
怖い、この人達は怖い・・・
触れてはならないものに触れた、開けてはならない扉を開いた、そんな不安を抱かせた。
それでも毎日、家の棺桶のようなステレオを大音量で聴いた、聴いた、聴き倒した。
母親が心配するほどに聞いた。
僕のロック唱法に決定的な影響を与えたシンガーはローバートプラントであるとその後20年経って理解した。
僕の潜在意識の中にあるロックボーカルの姿はロバートプラントの叫びなのだ。
僕はロバートプラントをプロになるまでコピーをしたこともなかったし、ましてや歌えるとも思っていなかった。
仮にロックシンガーに流儀や家元のようなものがあるとするなら、ロバート流プラント家元の弟子にあたるのだろう・・・。
潜在意識の奥深くに染み入るほどにロバートプラントを聞き込んだのである。
家に帰ってシャラからもらったテープを聴いた。
これがハードロックか・・・
ロックに対して十分大人びた耳を持っていた僕にはモントローズは少し単純なロックに思えた。
歌もロバートプラントほどダイナミックレンジが広くないと思った。
ただ、問題はこのバンドの曲を演奏する人間として聴く必要があった。
一応、ベースプレイヤーとしてこのテープを渡されたわけだ。
あかん・・・どの音がベースの音なのかさっぱりわからん・・・・
なにがどないなってんねん・・・・いったい。
そりゃそーだ、チューニングすら出来ないのに、ハードロックをコピーなんか出来るわけが無い。
足し算しか出来ないのにいきなり因数分解の問題を出されたようなものだ。
必死で探した。ベースのメロディー・・・はどこや・・・。
次の日シャラがまた僕の教室へ来た。
「どうや?聴いたか?めちゃ格好ええやろ!こんどI got the fireやろうや。コピーしといてや」
「教えてくれ、コピーってどうやんねん?」真剣なまなざしで坊主頭の僕はシャラに聞いた。
「え?お前ベース弾けんのとちゃうんか?」とシャラが聞き返した。
「聴いたけど、音全然分れへんねん・・・」正直に坊主頭は言った。
「なんやそうなんか!ほんなら俺が教えたるわ!」屈託の無い、腹が立つほどにさわやかな笑顔のシャラの優しさを感じた。
こいつとなら友達になれるな・・・
この日からハードロックとの格闘が始まったのである。
兎にも角にも、ハードロックベースプレイヤー二井原実が誕生した瞬間である。
