I got everything on my side
I got you real love, baby
I wanna keep you satisfied”
「ミック!もう一度!」
明らかにマックスは苛立っていた。
“I got you real love, baby
I got everything on my side”
「ミック、最初の一行だけ歌ってくれ・・」

“I got you real love, baby”
「ミック、RealだReal!! Realって言ってみて!」
“Real..”
「違う!Realだ!!Real!何度やったら出来るんだ!!」
“R・・e…a…l…real….”
「Yeah!man! That’s better!」(お!良いぞ!)
“Real..”
「じゃ~もう一回歌ってみて!」

“I got you real love, baby・・・♪”
「ミック!!違うって!!real loveだよ!!!real love!!realのLとloveのLを別々に発音するんじゃない!realoveと発音してみて!」
“realove♪…”
(この一行にもう数時間かかっている・・・!これでは1曲に一週間はかかりそうだった。
絶望的だ・・・もう・・・うんざりだ!!
俺には無理だ・・・英語で歌うのは不可能だ・・・。
何がダメで、何がOKなのかもう分からない・・・
今までに、こんな事できた日本人がいるのか?
いるのなら会ってみたい・・・
どうやって英語の歌を克服したのか教えてほしい!)
僕はもう泣きそうだった。
いや・・・泣いていた。
マックスの容赦ないダメ出しについていけなかった・・。
「ミック、もう一度ゆっくり最初の一行を読んでみて!」
“I ・・・got ・・・you ・・・real ・・・love, ・・・・baby・・・♪”
「ミック、OK!朗読では発音は悪くない・・・英語に聞こえるよ!その調子で歌ってみて!」
読む時は何とか口や舌のフォームが正確に出来たけれど、歌ったらすべてのフォームが見事に崩れる・・・。
シャウトするとそれが顕著だった。
こればかりは慣れるしかなかった。
何度も何度もやってコツを掴むしかない。
時間は掛かるが慣れるまでマックスも一緒に辛抱だった。
スタジオで見守っていたスタッフやメンバーも、いつの間にか一人減り二人減りした。
気が付けば、僕とマックスとエンジニアのビルだけになった。
「少し休んで良いかい?」
この初めての体験に僕は戸惑った。
先の見えないこの録音作業に発狂しそうだった。
歌っていて疲れたのではない、心の整理が付かないのだ。
「ミック、少し休んで良いよ!」
僕は暗いスタジオに佇むしかなかった。
(どうしたらエエねん!ホンマに発音が悪いんか?俺をイジメているだけなんちゃうか?)
マックスの顔を見るのもイヤだった。
もうこれ以上・・・歌う気になれなかった。
結局、その日は一行も録音出来ずに部屋に戻った・・・。
「ミック、今夜もう一度部屋で歌詞を練習して、明日もう一回やろう!」
マックスは笑顔で言ってくれたけれど・・・。
(俺は荷物をまとめて日本に帰る!日本人には無理じゃ!やってられるか!)
その日の夜、僕は本気でそう思った。
悔しくて、悔しくて、でもこの思いをどこにぶつけて良いか分からなかった。
(明日ダメなら俺は荷物をまとめてもう日本へ帰る・・・)
苛立ちが最高潮に達した・・・。
