『我々の身近にも、こんなダークな世界があることを知って欲しくて、この映画を作った』
映画「ロード・オブ・ウォー」の監督
アンドリュー・ニコルは、静かに語った。
理知的で、クールとも思える静けさを漂わせた男。
まさに「ガタカ」な人という感じだ。
丸っきり通じなかった、私の英語での自己紹介で始まったインタビュー。
『武器商人の多くは、自分たちのこと「死の商人」ではなくビジネスマンだと思っている』
『武器商人たちは、自分が引き金を引いているわけではないので責任感や葛藤は感じない』
あくまで静かに、私の質問に答えるアンドリュー監督。
一番びっくりしたのは、映画の中で登場している50台の戦車や
AK47カラシニコフなどの銃器の一部を、本物の武器商人たちから買ったり、借りたりしたというエピソード。
『イエローページには載っていないが、武器商人にコンタクトを取るのは、それほど大変ではなかった』
と、クールに言われた私は、開いた口がふさがらない。
えっ!、そんなに簡単なら、昨日私が執念で見つけた主人公ユーリのモデルと思われる実在の大物武器商人にも会えるということですか?
意を固めた私は、早速、監督に投げかけてみた。
「この映画の主人公のモデルになった武器商人の名前を教えてください」
が、その一瞬、クールなアンドリューの顔がややこわばったのを、私は見逃さなかった。
数秒後、『それは言えない』。
私は納得した。
彼は、ニュージーランド出身とはいえ、ハリウッドで生きる映画人。
41歳にして、
女房(彼の前作「シモーヌ」の主人公、良いなぁ) 、子供のいる身。
私と同じではないか、ハリウッドから資本が出なかった映画を作ったとはいえ、これ以上、自分を危険な目にさらすはずがない。
そして、私は決意した。
自分自身の手で、映画のモデルになった大物武器商人を探し出し、そのインタビュー内容を監督に送って、モデルだと認めてもらおうと。
監督は、クールに戻って、最後にこう告げた。
『武器商人たちは、消えては生まれ、存在し続けるだろう。なぜなら、世界で2番目に古い職業なのだから』
私が主人公ユーリのモデルだと目星をつけた武器商人。
その男の名は、ビクトル・パット。