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この「連隊の娘」は、当初ファン・ディエゴ・フローレスとナタリー・デッセイという美男美女の実力派コンビで2007年1月のロンドン・コヴェント・ガーデンに始まり、ミラノ・スカラ座、そしてウィーン国立歌劇場とツアーのように廻る予定でした。しかし、なぜかスカラ座だけ、マリー役がデッセイからデジレ・ランカトーレに換わってしまったのです。デッセイがまた音声障害になってしまったのか、と心配しましたが、ウィーンの方は予定通り出るようなので原因は分かりません。契約で揉めてしまったのか、もともと契約が合意していなかったのか、マエストロや演出家と意見が合わなかったのか、スカラ座の意向でどうしてもランカトーレということになったのか、まああれこれ勝手に予想しても仕方ありませんが。
ともあれ、私はスカラ座で3月1日にフローレスとランカトーレによるこのステージを見ました。パレルモのマッシモ劇場で初演されたプロダクションで、演出はフィリッポ・クリヴェッリ、舞台と衣装はフランコ・ゼッフィレッリ、豪華で美しいステージです。 直前に読んだ新聞では「ファン・ディエゴ・フローレス74年ぶりの奇跡」(以降、新聞の内容の箇所はちょっとうろ覚えです)という見出しが躍っていました。何かと言うと、2月20日が初日で、23日、25日と来て、3月1日は4回目の公演だったのですが、23日の公演時に1幕の例のアリア「友よ、今日は何て楽しい日」の後、”Bis”が鳴り止まず、アンコールで歌ったというのです、しかも2回も!この23日の公演を見に行った方は本当に幸せでしたね。しかし、なぜこれが奇跡かと言うとスカラ座だからです。ご存知の方も多いと思いますが、スカラ座ではトスカニーニ以来、アンコールを歌うのはタブーとされていて、ムーティなどはアリアへの拍手すら許さず(すべてのアリアではありませんが)、世界一厳格でうるさい劇場だったからです。私の知っている限り例外は、「ナブッコ」の合唱曲「行け、わが思いよ、黄金の翼に乗って」だけだったと思います。新聞には1933年、シャリアピンの「セヴィリアの理髪師」以来と書いてありましたが、シャリアピンのセヴィリアだったら「陰口はそよ風のように」だったのでしょう。そして、更にはカラスもフレーニもドミンゴもパヴァロッティも成しえなかった快挙!とありました。まあ、ムーティの退任以来、観客席へのプレッシャーはかなりゆるくなっているので出来たことでしょうが、フローレスが本当に素晴らしかったことも事実なのでしょう。 という長い前振りをしてしまいましたが、残念ながら当夜のアンコールはなかったのです。もちろん例のアリアでは全てのハイCを完璧に決め、ガレリアからは”Bis”の声がたくさん飛んでいましたが、拍手の収まるのをいつまでも待っていたのです。そもそも当夜のフローレスはやや元気がない感じで、ちょっとお疲れモードかな?という感じでした。ボローニャ歌劇場の来日公演の時の方が調子が良かったような気がします。いずれにしても、アンコールがないのは残念でしたが、彼の歌唱に関しては、当代一のトニオ歌いというのは間違いありません。 さて問題はランカトーレです。 このパレルモ生まれのコロラトゥーラ・ソプラノは、1997年にザルツブルク音楽祭の「フィガロの結婚」のバルバリーナ役でオペラデビューというシンデレラ・ガールです。次々に超一流のオペラハウスにデビューを果たしました。まずまず恵まれた容姿を持ち、無尽蔵のアクートを誇るコロラトゥーラという触れ込みでヨーロッパを席捲しました。私も2004年12月のスカラ座リニューアル・オープンの「認められたヨーロッパ」では共演のディアナ・ダムラウの向こうを張って素晴らしい声を聞いたり、ジルダやコンスタンツェの好演も聞きました。 しかし当夜は、軽いブーイングが起こるほど安定感が無く、中低音はまったく響かず、どうしちゃったのかな?と思うほどの出来でした。それでもCより上の声は楽々出ますし、特に調子が悪いという感じでもありません。発声の基礎が出来ていないために安定したフォームが保てない、という印象でした。要するに素晴らしい素質だけを持っているために華々しいデビューを飾ったものの、フォームが固まっていないのに歌いすぎてドンドン悪くなって行く、というあまたのソプラノが消えていったパターンなのでしょう。もしそうだとしたら、しばらく休むなり、良い先生につくなりしないと、潰れていってしまうことが心配です。喉が優れているだけで、20年、30年は一線で歌い続けることは出来ません。特にコロラトゥーラは。デヴィアやグルベローヴァは本当に特別なのです。 他には、シュルピス役のアレッサンドロ・コルベッリがなかなか渋い声を聞かせ、ベルケンフィールド侯爵夫人役のフランチェスカ・フランチが達者な演技を見せていました。しかし、フローレスの次に拍手が多かったのは、芝居だけの役ですが、クラッケントルプ公爵夫人役のアンナ・プロクレーマーでしょう。イタリアを代表する往年の名女優が達者な演技を見せてくれました。素晴らしい存在感で、とても83歳とは思えません。 指揮のイヴ・アベルはベルカント・オペラを得意とする中堅どころのマエストロですが、まあ可もなく不可もなく、というところでしょうか?スカラ・フィルはもっともっと良いアンサンブルの音を出すはずですが。 最後にとても気になったことがあります。2001年の「オテロ」でクローズする前のスカラ座は、舞台中央からやや左にマイクか何かで音を拾ってしまい、変な響き方をする立ち位置がありました。声の響かない歌手は意識的にその位置で歌うようにしているのでは?と思うことも何度も ありました。1999年の「セヴィリアの理髪師」を聞いた時のフローレスも何だかとても変な感じだったことを覚えています。2004年のリニューアルオープン以来、その変な響きはすっかり無くなったと思っていたのですが、今度は舞台中央からやや右手に同じようなスポットがあるのです。しかし、この現象はいつも起こる訳ではないので、おそらくTV局等の録音が入ってマイクを設置した時などに起こるものと思われます。それとも調子の悪い歌手の声を拾っているのでしょうか?はたまたRAIの録音技術が酷いのか?いずれにしても私の耳が壊れているわけではないと思うのですが。。。。
by hikari-kozuki
| 2007-03-29 18:22
| Opera
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Comments(8)
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ギュンター・ネッツァー
at 2007-03-29 21:40
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セルティック戦のお話もあるかな、と思っていたのですが。
ランカトーレ、心配です。
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shinichirowien at 2007-03-30 04:32
来月28日、ウィーンでの「連隊の娘」が本当に楽しみです。マラソンの前日なのですが。
ところで、ウィーンはほんとうにチケットがとりにくくなりましたね。
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hikari-kozuki at 2007-03-30 19:37
セルティックス戦ですか、遠い昔のような気がします。
カカのゴールは見事でした。ただ、延長になる前にもっと早く決めなければいけませんでしたね、あれだけボールをキープして押し捲っていたんですから。今はバイエルン・モナコ戦のことで頭がいっぱいです。いえいえいえ、その前に明日のローマ戦がありました。Forza!
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hikari-kozuki at 2007-03-30 19:57
しんいちろうさん、ウィーン・マラソンの前夜に”連隊の娘”ですか。翌日はきっと良いレースが出来ることでしょう。私の見ることが出来なかったデッセイのマリーがどうだったかを教えて下さい。
なお、ウィーンのチケット状況ですが、どんなチケットでも取れないことはありませんが、ニューイヤーを始めとしてプラチナチケットが高騰してしまっていることは事実ですね。悪徳ブローカーを排除しなければなりません。
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dognorah at 2007-04-15 05:17
コヴェントガーデンでは演出と衣装がローラン・ペリーでしたが、スカラではまったく違った舞台だったのですね。
マイク問題は相変わらずあるようですね。
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hikari-kozuki at 2007-04-17 10:01
コヴェントガーデンのローラン・ベリーの舞台はどのようなものでしたか?
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dognorah at 2007-04-19 22:54
ローラン・ペリーの舞台は、まず舞台と背景に一繋がりになった大きな地図を敷き詰め、山岳を表すかのように皺も作ってあるところでマリーが洗濯物を干したりアイロンがけをしたりしながら歌い続けます。第2幕ではトニオがとても精巧に作られた戦車に乗って登場して大受けでした。
今調べたら、このプロダクションはコヴェントガーデン、ヴィーン、METの共同制作で、ミラノは参加していないようです。
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hikari-kozuki at 2007-04-24 10:30
面白そうですね。そちらもぜひ見てみたかったです。
ミラノがこのプロダクションに参加していないから、デッセイがキャンセルになったんですね。
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【筆者のプロフィール】 上月光 (KOZUKI,Hikari) 株式会社ラテーザ代表取締役社長。音楽評論家。青山女声合唱団団長、指導者。六本木男声合唱団倶楽部バリトンメンバー。ロイヤルチェンバーオーケストラ相談役、評議員。武蔵野音楽大学声楽科卒業。バリトン。趣味ゴルフ、スポーツ観戦等。熱狂的なACミランのファン(ミラニスタ) 【リンク】 六本木男声合唱団倶楽部 株式会社ラテーザ ピアニスト一世オフィシャルサイト 加圧トレーニングジムスイートアズ カテゴリ
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