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コンサートホール、オペラハウスでのマイク使用の問題に関しましてご質問がありましたので、今日はそのお話しを。この問題は非常に微妙な問題も含んでいますし、ある意味ではダークな部分もあるので、あまり大きな声では言えませんが、オペラ歌手がマイクを使うことがある、というのは紛れもない事実です。ブログで言っておいてあまり大きな声で、っていうのはおかしいですけど(笑)。
東京の場合、渋谷のNHKホール、有楽町の国際フォーラム等、巨大な空間でクラシック専用でないホールではマイクの使用率がグーンと高くなります。ただし、渋谷のオーチャード、赤坂のサントリー、池袋の芸術劇場、上野の東京文化会館、初台の新国立劇場、オペラシティー等、クラシック専用のホールでは基本的にマイクの使用はありません。しかし、歌手によってはそのような音響の素晴らしいホールでもマイクを使う人がいるのも全く無いことではありません。また、これは決して東京だけの問題ではなく、世界中どこの劇場でもあることで、私も必ずマイクを使う世界的に有名の歌手を何人か知っております。 doqnorahさんのおっしゃる通り、ヴェローナでは奇跡的に音響が良いことがあって、基本的にマイクを使いませんが、やはり使っている人もいます。ただし、野外劇場の場合にはマイクを使わない方が特殊であって、ヴェローナの他には南仏オランジュの古代劇場などではマイクを使いませんが、普通の野外劇場ではマイクは使っていると思って下さい。また、野外劇場だけでなく、本来クラシック専用である一流のオペラハウスと言われているところでもマイクが無い、と言いきれる劇場は少ないはずです。そして、主演歌手のうち1人がマイクを使うと他の歌手とのバランス、アンサンブルがおかしくなってしまうため、普段はマイクなど使わない歌手もマイクの使用を強制されたりすることもあるそうです。そうでないと、本来は声が小さくてあきらかにマイクを使っている人だけが声が大きいというおかしな現象も起きてしまいます。 この問題は歌手だけでなく、興行をする側にも問題があるのです。初台の新国立劇場が出来る際、1,800席程度の歌手が無理なく声を出せて音響の素晴らしいホールにするか、2,500席や3,000席の大劇場にするかで喧々諤々の論争が巻き起こりました。前者は歌手やその廻りの人たち、後者は興行主たちでした。興行主たちは、1席でも席が多い方が利益が増える訳ですから当然のことです。歌手のギャランティーはホールの大小によっては決まりませんので。結局、皆様ご存知の通り、前者の歌手陣営の意見が通り、現在の1,800席による音響の素晴らしいホールが出来た訳です。しかし、新国立劇場では貸ホールというシステムがあるにも関わらず、海外オペラハウスの来日公演などではほとんど使われることがなく、あれほど素晴らしい音響と舞台裏のハイテク機器を持っているのに残念なことです。 ところで、最近はマイクの性能が非常に進化していて、より肉声に近い自然な形で声を増幅することが可能になっているので、私もマイク使用の有無について判断がつかない場合もあります。また、形状もドンドン小さくて軽量のものが開発されているので、ごく近くに見ても全くわからなかったり、鬘の中に仕込んだり耳の後ろにちょっと貼り付けたりするようなタイプもあるそうです。 また、マイクというのは、歌手の声を拾うためだけでなく、TV放送や収録をする時にも使ったりします。そのような場合には、体に付けるマイクだけでなく、天井からぶら下げたり、舞台の下から拾う場合もあります。実際に修復工事前の天下のミラノ・スカラ座ではこのような時には舞台のセンターよりちょっと左のあたりだけマイクで拾ってしまい、明らかにPAを通した声になってしまうという、ちょっと考えられないようなおかしな現象も起きていました。声の小さな歌手はいつもこのあたりに立って、という笑えないようなステージも何度か見ました。しかし、スカラ座の修復工事は、舞台と舞台裏が中心でしたので、修復工事後はこの問題は無くなったようです。 さて、ここまでいろいろと申し上げましたが、私はマイクが絶対悪だとは決して思っていません。NHKホールなどはもともとクラシックのために作ったホールではなく、紅白歌合戦のために作ったようなホールですので、マイクを使うのはある意味では当然なのかも知れません。変な話ですが、マイクを想定して作っているNHKホールなどでは、マイクで歌った方が自然で、オケとうまく混ざり合うような場合もあるのです。また、声の大小が歌手の価値を決める唯一の価値判断ではないと思いますし、声が大きいだけで、技術が未熟なのに声を張り上げてすべてを解決しようとする歌手はあまり好きではありません。 本来、オペラハウスというところは、広義でのベルカント唱法によって人間の声を最大限に引き出し、美しく滑らかな声を遠くまで飛ばす、というために音響を考えて作られた劇場でした。しかし、古い劇場などは今のような音響技術もなかったでしょうし、またオケの楽器などはドンドン、ハイテクで素晴らしくなることによって大音量になっていき、オケの編成自体も時代を追うごとに大きくなっていきました。つまりベルカントオペラの当時とオケと声のバランスも変わってきているのです。 とは言っても、まったくの肉声だけで勝負している歌手たちもたくさんいるわけですから、マイクの使用自体は決して良いことではないと思っています。
by hikari-kozuki
| 2006-10-06 21:08
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Comments(4)
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dognorah at 2006-10-07 00:05
詳しい解説をありがとうございます。やはり一流歌劇場でも全てPA装置が備えられているのは需要があるからなんですね。実はコヴェントガーデンでも時々「今日はPAを通した声じゃないだろうか?」と感じることがありました。しかし、一人でも使いたい人がいると全員がマイク装着を強制されるのは困りものですね。技術が進歩して使いやすくなるとますます安易に使う方向になるのが心配です。オペラもミュージカルも同じというのはちょっと寂しいです。技術の進歩が人々を幸せにしない好例かも知れません。
日本での引っ越し公演が決して新国立劇場で開催されない理由もよくわかりました。ビジネスだからしょうがないのかもしれませんね。今以上の入場料の高騰は避けたいだろうし、興行主がいなくなれば公演そのものがなくなりますものね。
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daimi
at 2006-10-09 20:08
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NHKホールでのトスカも・・・はやりマイクが使用されていたのでしょうか?
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hikari-kozuki at 2006-10-10 17:44
doqnorahさんのおっしゃる通り、天下のコヴェントガーデンも決して例外ではありません。ただし、私が前述致しました通り、録音、録画のためにPAを通しているということもあるので、一概に声のヴォリュームが足りないからマイクで拾っている、というケースだけではありません。
しかし、録音のためにPAの音が観客席に聞こえるようでは、劇場まで足を運んでくれたお客さんをバカにしていますよね。 これは私の個人的な意見ですが、 音量の著しく足りない歌手はオペラ歌手になるべきではなく、コンサート歌手や、CD等専門の歌手になるべきだと思います。 生の声でしかも1発勝負のLiveのステージでないと絶対に味わうことの出来ない感動ってあると思うのです。また、それを表現出来るのが真のオペラ歌手でしょう。
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dognorah at 2006-10-11 08:20
>Liveのステージでないと絶対に味わうことの出来ない感動・・・
まさにこれを求めて劇場通いをしてきました。そういう客の期待を裏切らない確固たるポリシーを持って運営して欲しいものですね。 何はともあれ現状の一端を伺うことが出来てとても参考になりました。感謝いたします。
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【筆者のプロフィール】 上月光 (KOZUKI,Hikari) 株式会社ラテーザ代表取締役社長。音楽評論家。青山女声合唱団団長、指導者。六本木男声合唱団倶楽部バリトンメンバー。ロイヤルチェンバーオーケストラ相談役、評議員。武蔵野音楽大学声楽科卒業。バリトン。趣味ゴルフ、スポーツ観戦等。熱狂的なACミランのファン(ミラニスタ) 【リンク】 六本木男声合唱団倶楽部 株式会社ラテーザ ピアニスト一世オフィシャルサイト 加圧トレーニングジムスイートアズ カテゴリ
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