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昨夜、上野の文化会館で東京オペラの森のヴェルディのレクイエムを見てきました。「東京オペラの森」は、昨年から始まった東京の春の訪れを祝う音楽祭で、毎年1人の作曲科にスポットが当てられ、昨年はリヒャルト・シュトラウスでしたが、今年はヴェルディでした(ちなみに来年はワグナー、再来年はチャイコフスキーだそうです)。小澤征爾が音楽監督、ウィーン国立歌劇場総監督のホーレンダーが芸術監督を務め、ウィーン国立歌劇場が全面的に協力をしています。今年は「オテロ」と「レクイエム」の予定でしたが、「オテロ」を振る予定の小澤氏が倒れてしまったため、急遽、フィリップ・オーギャンが呼ばれました。一方、「レクイエム」の方は最初からリッカルド・ムーティで、しかも彼が日本のオケを指揮するの初めてということで、大きな話題となっていたのです。さらにソリストが凄い!ソプラノにバルバラ・フリットリ、メッツォにエカテリーナ・グバノワ、テノールにジュゼッペ・サッバティーニ、バスにイルデブランド・ダルカンジェロという豪華メンバーです。メッツォのグバノワ以外は、チーム・ムーティとも言うべきマエストロのお気に入りの歌手たちで、スカラ座を始めとする世界中で活躍中のビッグネームなので、期待は募る一方でした。
オーケストラは東京オペラの森管弦楽団、合唱は東京オペラの森合唱団というこのコンサートのための臨時編成なのですが、東京を中心に内外で活躍をしている優秀なアーティスト、ソリストたちを集め、まあサイトウキネンの東京版というところでしょうか。 さて、結論から申しあげますと、素晴らしい演奏会でした。リハーサルの時間が少なかったという話も聞いていますし、特別編成のオケ、合唱団なので、いくらムーティでも纏め上げるのは難しいだろうと思っていましたが、さすがはムーティです。彼の振る(振った)スカラやウィーンのようにピーンと張り詰めた1本の絹のような緊張感の中、とまでは行きませんでしたが、オケも合唱も彼のテンポに良くついて行ったと思います。ディーエス・イッレ(怒りの日)の畳みかけるような大迫力、良く揃いバランスの良いpp、合唱のラテン語の発音もなかなか良かったと思います。 このレクイエムは4人のソリストが大変重要になりますが、この中で最高だったのは、やはりバルバラ・フリットリです。このブログでも何度も言っていますが、彼女のテクニック、美しい声は現在の世界中のソプラノの中でも最高峰だと思っています。特に出だしのアクート(高音)の音をpやppであれほどコントロールしてしかもベルカントの美しい声で、というのは奇跡に近いとさえ言えるでしょう。4人のソリストの中で暗譜していたのは彼女だけで、あとの3人は楽譜を見ながら歌っていました。しかも単に暗譜しているだけでなく、あれだけテンポを振ってくるマエストロのタクトはほとんど見ることなく、正面をまっすぐ見ていました。それだけ完璧に彼女体の中にマエストロのテンポ感が入っているのでしょう。 サッバティーニなどはテンポを取るためにマエストロの指揮を食い入るように見ながら楽譜を見てかなり忙しそうでした。しかし、サッバティーニもダルカンジェロもそして(私は始めて聞く)グバノワもそれぞれに自分の特徴を出して、しかもヴェルディのレクイエムの感じも良く出ていて良かったと思います。 いずれにしても、フリットリは本当に凄い。彼女のリベラ・メを聞いて、嗚呼、柳の歌とアヴェ・マリアを聞きたかった!!というのは私だけではなかったでしょう。もちろん2001年のスカラ座オープニング公演の「オテロ」でのデズデモナを思い出して。あの時は、ムーティ、ドミンゴ、ヌッチ、そしてフリットリという本当に最高のキャストでした。 ところで当夜、演奏会自体はとても良かったのですが、非常に不愉快なことがありました。私のすぐそばのおじさんが足を何度も組み替えたり、浅く座って乗り出したり深く座って足を投げ出したり、プログラムを何度も開いてペラペラめくったりしていました。気が散ること夥しく、せっかくのレクイエムで敬虔な気持ちになるところをその度に邪魔されがっかりです。このようなクラシックのコンサートに全く慣れていないのか、周りが全く見えない超自己中心男なのか、頭がおかしいのか、理由は分かりませんが、2度とコンサート会場には足を運ばないで欲しい。寝ている方が100倍ましです(いびきさえなければですが)。この温厚な私が本当に腹に据えかねたので、厳しく注意をしようとも思いましたが、もしケンカなどになってしまったらヴェルディに対する冒涜になってしまうと考え、思いとどまりました。2階席のL側の4列目に座っていた暑苦しい顔でパンチパーマのおっさんです。ありえないと思いますが、万一このブログを読んでいたら猛省して欲しい。
by hikari-kozuki
| 2006-04-07 14:27
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Comments(16)
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昨晩のご感想、とても興味深く読ませていただきました。
わたしもフリットリに深い感銘を受けました。彼女ひとりで十分オーケストラと拮抗していた、いや、圧倒していたとさえ思えるほど、音楽的にも、声量面でもすぐれたものをみせてくれていました。 上月さんの評をわたしのブログで引用させていただきます。ありがとうございました。 ミランとバルサの試合、楽しみです。やっとインザーギがノッテきました!
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早速の書き込みありがとうございます。
いやいや本当にフリットリは凄いですね。ネッツァーさんのブログもぜひ教えてください。 ピッポに関しては、今の調子を維持できれば6月のアッズーリもトーニとピッポの2トップになるでしょうね。バルサ戦は本当に楽しみです。 ![]() ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
ムーティでヴェルディのレクイエムというのは魅力的ですね!うらやましいです。
ところで私もよくコンサート会場で不愉快な思いをします。私は昨年、オペラ、バレー、コンサートを合わせて110回以上会場に足を運びましたが、回数が多いし会場には何千人も入っている場合もあるしで、いろいろな経験をします。つい先日も、内田光子さんのリサイタルのときに、左隣が空席でその左に座っていた白人の太った女性が上月さんの経験されたのと同じような感じでガサガサと一刻もじっとしない人で、とても気が散りました。私も心の中で上月さんと同じ台詞を吐いていましたよ(苦笑)。 ![]()
一昨日は、当然のことですが、Holenderも来ていましたね。どうして来シーズン、マエストロ・ムーティの《コシ》がないんだ!!、と質問したかったです...。
わたしのブログは、ブログとは名ばかりのものです。マエストロ・ムーティの情報を紹介するだけの、ほとんど反響のないサイトです。 http://il-figlio-del-sud.cocolog-nifty.com/bravomuti/
上月さん、ムーティのレクイエム素晴らしかったようですね。うらやましいです。フリットリは僕も大好きなソプラノです。
そういえばこの歌手最初に教えてもらったのネッツァーさんだったんじゃなかったかな(笑)数年前やはりスカラ座のレクイエムで、ばったりお会いしたこともありましたね。 テムズ川のほとりのdognorahさんのブログもいつも拝読させていただいております。 オペラ村のコミュニティは狭いですね(笑) ![]()
しんいちろうさん、ムーティは歌手をつぶす指揮者だなど、いろいろ言われていますが、そういう批判を有無を言わせず黙らせたにちがいないほど、圧倒的な演奏でした。ファンであるわたし自身、これまで畏敬の念が如何に欠けていたかを、深く恥じました。
ウィルスや故障が原因でパソコンを別のものにするたびに、それまでおつきあいのあった方々のメールアドレスやサイトの記録を失って、不義理を重ねてきた10年間超でした。 でも、こうして、また思いもよらない形でしんいちろうさんとめぐりあえましたし、走ることも続けていらっしゃることがわかりましたし、ネットっていいところもあるなあ、と思っています。 上月さん、ありがとうございます。
shinichirowienさん、はじめまして。先ほどブログを拝見しました。マラソンとオペラですか!目標があるというのは人生が楽しくなっていいですよね。これからもよろしくお願いします。
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ああ、やっぱり行きたかった。でもやっぱり行けなかった・・・
因みに、たまーに「せっかく」東京まで足を運んで見た演奏会でそのような事件に遭うこともあり×××。「へ~、東京でも、かぁ」と妙に感心?してしまいます。
急にいっぱいの書き込みがされていてびっくりです。でも、このように皆さん同士がお話しになったりお知り合いになったりというのは、とても嬉しいことです。これからもドンドン書き込んでください。
ネッツァーさん ブログ拝見しましたが、凄いですね。きっとカメラータの方々は毎日チェックをしていることでしょうね。 しんいちろうさん 例の中丸さんと樋口くんのカルメンは如何でしたか? doqnorahさん 年間110ステージですか。凄いですね。内田光子さんの時の太ったおばさんは最悪でしたね。私の場合、大きな通路を挟んでいたので3mくらいは離れていたのでまだ我慢できました。本当の隣だったら、絶対に我慢できなかった自信があります。ははは。 daimiさん ラヴォーチェの椿姫まで我慢しましょうね。 ![]()
上月さん、お名前を誤ってしまって、申しわけありませんでした。本当にすみませんでした。
聴衆でこれまでいちばんびっくりしたのは、座席に正座する人でした。 ご本人はステージがよく見えていいでしょうが、平土間(NHKホールでした)で彼女の後ろにいたわたしは、ずっとからだを片側に傾けて見ていました。たぶん、わたしの後ろの人も、別の視覚的隙間を見つけるべく、苦心していたことでしょう。 でも、非難はできません。正座しなくとも、背の超高い人が前に座れば同じですし、平土間とはそういうリスクのあるところなのですから。
上月さん、ネッツァーさん、dognorahさん、みなさん、こんにちは
白石でのカルメンは、私のブログに感想を書きましたが、樋口さんのホセは素晴らしかったですね。三枝さんもおっしゃっていましたが、これからの成長がとても楽しみなテノールですね。中丸さんはこのコンサートがカルメンははじめての挑戦だったそうです。 ところで上月さん、たいへんあつかましくて申し訳ないのですが、ちょっとお尋ねしたいことがあります。今度、ウィーンマラソンに参加する際に、国立オペラ座5月10日のNETREBKOとVILLAZONの「ロメオとジュリエット」を、なんとか聴きたいと願っているのですが、やはりチケットを入手するのが相当難しそうな気配です。CULTURALLのSTAND-BYに申し込んではおきましたが、この正規ルートでは取れるかどうか・・・かなり不安です。 こういう入手困難なチケットの場合、上月さんやみなさんはどういう方法でチケットを入手されますか?これまでの経験でなにかいい方法あったらご教授願えればと思ったのですが・・・。
しんいちろうさんへ
もちろん弊社(ラテーザ)は、これがメインの仕事ですから方法はいろいろと持っていますよ。また、社内にラテーザ・ワールドブッキングという海外専門のプレイガイドのセクションもあります。 こちらは、弊社のHP(www.lattesa.co.jp)の”海外コンサートチケット手配”をクリックして頂ければ、webで申し込むこともできます。システムは成功報酬形で、取れましたら仕入れ値(入手額)の20%を頂くということになっております。 もちろん各劇場の事務局やボックスオフィスともコネクションがあり、それらに頼むことが常ですが、その表ルートだけでは取れないこともままあります。弊社の場合、少なくとも、ウィーン、ザルツブルク、ミラノ、ロンドン、パリあたりには日頃から付き合いのあるエージェンシーやブラックマーケットが幾つもあります。プラチナチケットや難易度の高いチケットはそれらを通じてチケットを確保するのです。何だか弊社の宣伝みたいになってしまいましたね。(笑)
さてウィーンの「ロメジュリ」ですが、現地でも人気爆発で、凄いプラチナチケットになっているらしいです。もちろん言うまでもなく、ネトレプコとヴィラゾンの人気です。「椿姫」に続いて「ロメジュリ」で世界中の一流歌劇場を廻る模様です。先日もオーダーががあって手配したようですが、券面額の100%、つまり2倍の料金を提示されました。しかもそれでも取れればラッキーという状況のようです。
ウィーンも大スターが出演する1部の演目はこうなってしまうことが多々あります。昔のドミンゴやパヴァロッティとか、現在のアラーニャやネトレプコとか。こうなってしまうと、当日に朝からプレートを持って劇場の前に立っていても入手できないことの方が多いようです。 特に5月10日は「ロメジュリ」の初日なので、難易度が高いのでしょう。 このような条件でも宜しければ、どうぞ弊社のワールドブッキングをご利用下さい。どうぞ、上月から言われた、とおっしゃってください。
上月さん
上月さんの会社は海外オペラチケットの手配なども手がけていらっしゃったのですね。これはたいへん心強いです。さっそくラテーザのサイトから申し込ませていただきました。 やはり今が旬、ヴィラゾン、ネトレプコにかんしては、向こうに行ってからでも何とかなるだろう・・・というわけにはいかなかったようですね。 こういう事情には疎く、とても不安だったのですが、たまたまお知り合いになれた上月さまにいろいろ教えていただきとても助かりました。ありがとうございました。 チケット手配宜しくお願いいたします。良い知らせを祈ってお待ちしております。
はい、担当者の山中に頑張ってやるように指示しておきました。吉報をお待ち下さい。
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![]() 【筆者のプロフィール】 上月光 (KOZUKI,Hikari) 株式会社ラテーザ代表取締役社長。音楽評論家。青山女声合唱団団長、指導者。六本木男声合唱団倶楽部バリトンメンバー。ロイヤルチェンバーオーケストラ相談役、評議員。武蔵野音楽大学声楽科卒業。バリトン。趣味ゴルフ、スポーツ観戦等。熱狂的なACミランのファン(ミラニスタ) 【リンク】 六本木男声合唱団倶楽部 株式会社ラテーザ ピアニスト一世オフィシャルサイト 加圧トレーニングジムスイートアズ カテゴリ
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