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さーて、まずはウィーンの「ウェルテル」から、と思っていましたが、サンカルロ来日公演の「トロヴァトーレ」を書いていませんでした。ウィーン、ミュンヘンのヨーロッパラウンドに入る前にこちらの感想から。
私が見たとは来日公演最終日の6月22日でした。「ルイザ・ミラー」の時には空席もちらほら見えましたが、「トロヴァトーレ」はほぼ満員。やはり演目のメジャー度で集客状況は大きく変わってきてしまうのでしょう。 このオペラはまずは何はなくてもマンリーコ。スカラのオープニング公演の「トロヴァトーレ」にもムーティから大抜擢されたサルヴァトーレ・リチートラでした。 その際にもそこそこの評価は受けましたが、しかしムーティの厳格な原典主義のため、3幕フィナーレのかの有名なC-dur(ハ長調)のカバレッタ「見よ、恐ろしい火を!」の最後はハイCではなく、4度下のGで終わってしまいます。聴衆の95%は血沸き肉踊るこのハイCを楽しみにオペラを見に来ているので、スカラの時もムーティの原典主義は百も承知していてもブーイングが止まりませんでした。リチートラは、オペラの後のインタビューで、もちろんハイCは出るけれども、マエストロの指示なので仕方がありません、と答えていました。また、マエストロは「オペラはサーカスではない!」と言う名言を残しました。 さて、当夜はどうだったかと言うと、上に上げることは上げました。しかし、冒頭"Di quella~"の直前でオケ全体がH-Durに半音下げ、最後はHで伸ばすという手法だったのです。実はこの反則技、非常に一般的で、私はこのオペラを何十回も見ていますが、C-Durのままで、しかも上げるというシーンは数回しか見たことがありません。しかも最後のCの前の合唱との絡みはほとんど歌わず、リピートもせず、まるでCのような顔をして伸ばすというのが通例になっています。 しかし、私はそれが大嫌いなのです。私はマエストロ・ムーティのような原典主義ではありませんので、最後はぜひCに上げて欲しいと思っていますが、半音下げて上に上げるというのは作曲家への冒涜に思えてなりません。たとえ調子が悪くCが伸ばせない感じだったらGでいいじゃないですか!しかしその前の合唱のと絡みや2番はぜひ歌って欲しいのです。もちろんかのフランコ・コレッリでさえ安全策を取って、録音では空前絶後の素晴らしいCを伸ばしていても、ライブではいつもこのカバレッタはHで歌っていたということも良く知っています。 当夜のリチートラは、2番もなく合唱との絡みもほとんどなく、しかも半音下げて転調させたにも関わらず、大して伸ばすこともせず、しかもあまり良い声ではありませんでした。 そう考えると合唱との絡みはほとんど歌いませんが、2番までたっぷり歌ってしかもC-DurのままハイCを限界でも伸ばすフランコ・ボニゾッリが懐かしいです。もちろんパヴァロッティの輝かしいCも。 ちなみにボエームの1幕のかの有名な「冷たき手」でもこの半音転調させるという手法は良く使われますが、私はもちろん嫌いです。Cが出ないのだったらロドルフォは歌わないで欲しい! さてさてすっかり話が長くなってしまいました。 このカバレッタは置いておいて、当夜のリチートラは、決して悪くはなく、及第点を上げられる出来だったと思います。時々パヴァロッティを彷彿とさせるブリランテな声もありますし、アクートも決して弱くはありません。しかし、フレージングのスムーズさ、透明な声の持続性、安定感等といった点ではまだまだ偉大なテノールという訳にはいきません。 レオノーラは美貌のソプラノ、フィオレンツァ・チェドリンス。この役は得意の役ということもあって、とても良かったと思います。ドラマティコな美声は魅力です。ただ、1幕の音程が少々悪かったのが気になりました。 ルーナ伯爵はアンブロージョ・マエストリ。輝く声を持ちアクートに強いハイ・バリトンですが、低音も良く鳴り、ヌッチ、ブルゾンの後継者がなかなか出てこないバリトンでは久々の逸材です。しかし、当夜のルーナはあまりに一本調子でただ歌っているだけ。ルーナらしさはまったく出ていませんでした。しかし、この翌週に見たミュンヘンの「ファルスタッフ」は素晴らしい出来だったので決して表現力がないのではなく、ルーナという役をこなしきっていないだけでしょう。ほとんどのレパートリーをヴェルディの諸役に絞ってヴェルディ・バリトンを目指しているのであれば、もっと奥の深いルーナをぜひ聞いてみたいものです。 合唱やオケも決して悪くはありませんでしたが、「ルイザ・ミラー」に比べると幾つか不満な部分がありました。指揮者のカバレッティと、「ルイザ・ミラー」の指揮者のベニーニとの経験の差かも知れません。
by hikari-kozuki
| 2005-07-07 18:18
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【筆者のプロフィール】 上月光 (KOZUKI,Hikari) 株式会社ラテーザ代表取締役社長。音楽評論家。青山女声合唱団団長、指導者。六本木男声合唱団倶楽部バリトンメンバー。ロイヤルチェンバーオーケストラ相談役、評議員。武蔵野音楽大学声楽科卒業。バリトン。趣味ゴルフ、スポーツ観戦等。熱狂的なACミランのファン(ミラニスタ) 【リンク】 六本木男声合唱団倶楽部 株式会社ラテーザ ピアニスト一世オフィシャルサイト 加圧トレーニングジムスイートアズ カテゴリ
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