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今日は「フィガロの結婚」を。
この公演も祝祭大劇場ではなく、モーツァルトハウスで上演されました。 このプロダクションは、2006年のモーツァルト生誕250年のモーツァルト・イヤーの目玉として、祝祭小劇場がモーツァルトハウスとして全面改装され、そのこけら落とし公演され、絶賛を博したものの再演です。しかもその時のスザンナがアンナ・ネトレプコだったため、凄いプレミアのチケットになったことを良く覚えています。 演出は前回書いた「コジ・ファン・トゥッテ」と同じクラウス・グート。本来は登場人物にない愛のキューピット、天使のケルビムが舞台狭しと飛び回り、登場人物を操っているのです。もちろんセリフや歌は1つもありませんが、初めてこのオペラを見た人はこの天使が主役と思ったはずです。4幕のフィナーレでケルビムが死んでしまうとケルビーノも倒れてしまうことや名前から判断しても、ケルビムはケルビーノの分身なのでしょう。このアイディア自体は悪くはないと思いますが、彼が歌手たちの邪魔をするような演出はやはり許せません。特に2幕の伯爵のアリア「訴訟は勝ちと!」では、歌っている最中に後ろから羽交い絞めにしたり体当たりするなどとにかく歌を妨害し、良く最後まで歌いきったものだと感心するほどでした。 登場人物の人間関係は原作以上にドロドロしています。伯爵とスザンナは熱い接吻を何度も交わす仲ですし、フィガロとマルチェリーナも何だか怪しい関係で、伯爵夫人はケルビーノに激しいキスをしてしまい、スザンナまでがそれに加わってしまうというものです。 歌手は2006年に比べるとビッグネームは少なく、見る前は小粒な感じもしましたが、ほぼ全員が素晴らしかったと思います。まず伯爵はカナダ人バリトンのジェラルド・フィンリー。前述のように「訴訟は勝ちと!」のアリアはケルビムの妨害にも負けず見事最後まで歌いきって万雷の拍手を受けていました。伯爵夫人のドロテア・レシュマンは主役クラスの中では唯一2006年と同じキャストでしたが、現在ドイツ人最高のソプラノ歌手としての貫禄充分でした。スザンナのドイツ人ソプラノ、マリス・ペテルセン、ケルビーノのスウェーデン人メッツォ、カティヤ・ドラゴエヴィッチもとても良かったと思います。 そして、フィガロ役のイタリア人バス・バリトン、ルカ・ピサローニですが、彼の声にはもう完全にノックアウトされました。こんなに好きなタイプの声にはちょっと出会ったことがないほどで、はっきり言って惚れてしまいました。2002年や2006年の「ドン・ジョヴァンニ」にもマゼット役で出演していて、ずいぶん美声のマゼットで将来有望だな!とは思っていましたが、まさかここまでなろうとは。 簡単に言うと低音が良く鳴る美声なのですが、低音から高音までポジションがまったく変わらず、無理に鳴らしている感じがまったくなく、力が良く抜けていて、非常に密度が濃く、色気があり、耳に実に心地よいヴィブラートがかかり、アクートも非常に強く、とまあとにかく素晴らしいのです。生まれ変わったら彼のような声になりないものだと本気で思いました。これを読んだ方は、一体どんな声なんだ?と思われるでしょうが、バスティアニーニにやカップッチッリやヌッチなどヴェルディ・バリトンの鳴り方とはちょっと違い、ヘルマン・プライの音程が良くなってもう一ランク鳴るようになったという感じでしょうか。まだ34歳の若さですから、バリトン歌手としてはまだまだこれから円熟期を迎えることでしょう。 オケはウィーンフィル、もちろん素晴らしかったです。指揮はダニエル・ハーディングで2006年の「ドン・ジョヴァンニ」の時にはこんなに音がズレるウィーンフィルは聞いたことがないというほど酷かったのですが、今回は見事にオケと歌手を統率し、とても良かったと思います。彼もピサローニと同じまだ34歳、まだまだこれから成長してくのでしょう。
by hikari-kozuki
| 2009-10-30 17:56
| Opera
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![]() 【筆者のプロフィール】 上月光 (KOZUKI,Hikari) 株式会社ラテーザ代表取締役社長。音楽評論家。青山女声合唱団団長、指導者。六本木男声合唱団倶楽部バリトンメンバー。ロイヤルチェンバーオーケストラ相談役、評議員。武蔵野音楽大学声楽科卒業。バリトン。趣味ゴルフ、スポーツ観戦等。熱狂的なACミランのファン(ミラニスタ) 【リンク】 六本木男声合唱団倶楽部 株式会社ラテーザ ピアニスト一世オフィシャルサイト 加圧トレーニングジムスイートアズ カテゴリ
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