愛したものは、みんな消えてく。
(布袋作詞:アップ・サイド・ダウン。より)
2006年9月21日
記憶の中で今も生き続けているけど、もうなくなってし
まったもののひとつにカリブ海。モンセラット島にあっ
たエアー・スタジオ・モンセラットがある。このスタジ
オはビートルズのプロデューサーだったジョージ・マー
ティンが所有していたスタジオで、スタジオエリアには、
プールもありバーもダイニングもあり、夕暮れ時にオー
プンテラスのバーから眺める景色がなんとも開放的だっ
た。バーテンダーの名前はデズモンド。島には仕事が少
なく彼の家族はとっくにイギリスに移住していたが、デ
ズだけは生まれた島・モンセラットに残っていた。なぜ
家族と一緒にイギリスに行かなかったんだい?という質
問には、だって寒いもんと明確だった。デズモンドのつ
くるピナカラーダが世界最高の1品だった。畑でとれる
パイナップルを切りミキサーに放り込む。ココナッツに
穴を開けミルクといわれるジュース流し込む。氷をひと
かけふたかけ入れミキサーでシェイクし、冷やした大き
めのグラスに注ぎ、ラムを混ぜステアーする。このラム
が地元の工場で作られるラムで、すこし甘みがきつく荒
っぽい洗練されっていないラムだったが、パイナップル
&ココナッツジュースとの相性が絶品で何杯でも飲めた。
このバーで、ジョージ・マーティンと二人で酒を飲んだ
ことは、生涯最高の思い出となった。
「センジ。君はなぜこの仕事を選らんだの」
「ジョージ。あなたに憧れてこの仕事を選びました」
こんな会話をしながら、サージェント・ペイパーのレコ
ーディングの時のジョンやポールのエピソードをおだや
かな口調で話してくれた。
キッチンのチーフシェフはカリブ海一帯では知らぬ人が
いない有名シェフのキング・ジョージ。大男だった。
羊のリブステーキとバカっ辛い緑色したペパーミント・
ソースが絶品だった。この緑のソースは初めて口にした
ときはあまりの辛さに飛び上がったが、次からはどの料
理にもかけずにはいられないという魔法のソースだった。
キング・ジョージはエアー・モンセラットでレコーディ
ングしたローリング・ストーンズのお気に入りで、ツア
ーシェフとして世界ツアーに同行している。島にはスト
ーンズの逸話がどこにも転がっていた。君の席はキース
のお気に入りの席だったよ。ミックはいつもここ。とか。
或る年の夏。島を襲った巨大ハリケーンでスタジオは壊
滅した。傷心のジョージ・マーティンはスタジオを再興
しなかったが、エアー・モンセラットは僕の心の中で今
も生きつづけている。