ある日突然、彼女は姿を消した。行き先も別れの理由も告げず「さよなら」の痕跡すら残さずに…。空っぽの部屋、置き去りの携帯電話...しばしの間 時間が止まる。やがてそれが永遠の「さよなら」である事を知らされ僕の躰から全身血の気が引き、なす術も無く床に崩れ落ちる。しかし彼女の行方を知る術も探す手段も持たない自分に気付いた。長い間一緒に居たのに僕は彼女の事を何ひとつ知らなかったのだ。希薄な関係、薄氷上の虚構の愛だった。
僕の頭は思考を止め体も言う事をきかず動かない。ただ、狼狽し止め処なく涙が溢れ出て来る。僕は本当に独りきりになったのだ。死にたい気持ちと‥しかし死ぬ勇気も無い自分がそこに居て葛藤する。彼女の本心も二人の真実すらも知らなかった…僕は浅はかで愚かだった自分を激しく叱責し裁く。罪と罰の報い。
しかし泣いてもわめいても後悔してももう全ては戻らない、、現実とはそういうものなのだ。slow down‥僕の全てがゆるやかに残酷に終わって行く。テレビも音楽も‥食事も飲み物すら要らない。躰は何も欲っさない。本当の悲しみに墜ちた時 人はそうなるのだと知った…。
でも僕がどんなに悲しみに暮れ涙枯れるまで泣いても時間は無情に、まるで何も無かったかの様に過ぎて行く、昨日までと何も変わらずに…。容赦なく時は流れ仕事や生きて行かねばならい「現実の壁」だけがそこにはあった。
生きる為に現実と向かい合わなければならない。涙を拭いて起き上がり前に進まなければならない。どんなにもがいても明日はやって来るのだから。。彼女が残して行った物や二人の思い出を一人で片付けながら軋む胸の痛みをこらえ僕は現実を思い知らされる。僕らはいつしか別々の道を歩いていたのだ。楽しかった夢の時間は夢でしかなかった…。
いつの日か、、僕は本当の愛や本当に必要なものに出逢えるのだろうか?その資格があるのだろうか!?様々な思いを抱き、想い出も哀しみもここに置いて僕もこの街を出よう。明日すら解らないけど、でももう二度と大切なものを失くさない為に、本当の真実を見付ける為にも僕はまた新たな道へと歩き出す。奇跡なんて言葉を遣う歳でもなくなったけれど…。
外は凍てつく冷たい雨。彼女は僕の知らない場所で新しい暮らしを始めているだろう‥それを知る事ももう会う事も二度とない。僕もこの雨に全てを洗い流し、そしてその雨に打たれながら行こう。こんな僕には似合いの旅発ちかもしれない。車に最後の荷物を積み込みキーを差し込んだ。先も見えない土砂降りの雨…きっといつかは哀しみの轍も消え雨もあがり晴れると僕はそう想いたい…。
『slow down ~Ⅱ』the lyrics by jyosei nagatomo