松本零士氏、腕時計私感



「25歳の時、とにかく文字盤がごちゃごちゃしているクロノグラフが欲しくなり、原稿料を叩き全財産の5万円を持って新宿から各時計店を回りました。
ようやく銀座の天賞堂で、ブライトリングのナビタイマー1stモデルと2ndモデル、24時間表記のナビタイマー・コスモノートにオメガ・スピードマスター・プロフェッショナルを見つけました。
ベゼルが好みでなかったり、時間が見にくかったりで、ナビタイマーの2ndモデルRef.806(写真左)を買いました。
オメガも欲しかったけれど、持ち合わせの倍したので無理でした。この時に10万円持っていたら、どちらを選んでいたかわかりません。
とにかくナビタイマーを買えたのがうれしくて、それから15年間は寝ても覚めても着けっ放し。バイクの激突事故で風防ガラスが割ってしまっても天賞堂〈銀座の時計店〉で修理しました」〈エキサイトism/特集/Vol.84 腕時計の現在地。より〉
年末でご多忙の折、昨日〈2008年12月29日 月曜日〉、本年の締めのご挨拶と、来年度の打ち合わせで、漫画家の松本零士さんにお時間を頂きました。
余談ですが、松本さんのアトリエから最寄りの大泉学園駅構内では、〈銀河鉄道999〉の車掌さんの大きなオブジェが出迎えてくれ、駅前商店街〈大泉ゆめーてる商店街〉では、至る所で松本さんのイラストを堪能することができます。
その際に、松本さんは、最初に購入された上記のナビタイマーも含む、手巻き式の腕時計が好きな理由について、補足してくれました。
「手巻き時計の場合、リュウズを巻いたところまでが、自分の人生になります。このため私は、手巻き式時計に、より深い愛着に感じます。父が亡くなったとき、父の手巻き式時計は、父が巻いた分まででストップさせました。第三者がゼンマイを巻いてしまったら、その時計は巻いた人、新しい主人と共に別の人生を刻み始めてしまうからです」と話してくれました。
ご覧のように、昨日、松本さんの腕に輝いていたのは、オメガ〈スピードマスター・プロフェッショナル・ムーンフェイズ〉。往年の限定モデルで、20年ほど前に、ご本人が都内を駆け回って、何本か入手したうちの1本。
オリジナルのメタルブレスから、ステッチ入りの革ベルトに替えているのは、海外に出たときの防犯上の理由と、「むかし、山手線に乗っているときに、ベルトの糊が熱か何かで溶けて2枚に分解し、時計がダラーンとなったことがありましてね。それ以来、両サイドにステッチ縫いのあるベルトを選ぶようにしています」と話してくれました。