“nez(ネ)”というフランス語をご存知でしょうか? 日本人にはあまり耳慣れない言葉ですが、フランスでは “一流の調香師(パフューマー)”のことを指す語として知られています。
“nez”はフランス語で“鼻”の意。要するに「一流の鼻を持っている人」という意味で、彼ら流の尊敬と親しみをこめてそう呼んでいるのです。
調香師は、人並みはずれたセンスと嗅覚を持っていることはもちろんのこと、香りと強い結びつきの深いファッションをはじめ、世相、経済、社会的な傾向など、時代の気分を左右するさまざまな情報にバランスよく精通することが求められます。才能と努力と、職人魂なくして成立しない職業なのです。
それでは、シャネルの香水に栄光をもたらした“nez”はどんな人物たちなのでしょうか? シャネル フレグランスの栄光の歴史を築きあげた3人の“nez”をご紹介しましょう。
まず1人目は「N゜5」を創造した初代調香師エルネスト ボー。ロシア出身の天才調香師で、ロシア時代は宮廷御用達の香水会社で調香師を務めていました。フランスに亡命後、マドモワゼル シャネルにその才能を買われて初代専属調香師となりました。
エルネストは当時開発されたばかりの合成香料、アルデヒドを初めて香水に配合したことでも知られています。「N゜5」のほかにも、「ガーデニア」や「ソワール・ド・パリ」など、多くの名作を世に送り出し、現代の香水史に革命をもたらした人物といえます。
2人目は、マドモワゼル シャネルがもっとも愛した、「N゜19」を創造したアンリ・ロベール。「N゜19」のほかにも、マドモワゼル シャネルが交流した男性たち(ピカソやストラヴィンスキー、コクトー、ウェストミンスター公爵など)に贈ったといわれる香水「プール・ムッシュゥ」や、「クリスタル」のオー・ドゥ・トワレを生み出したパフューマーでもあります。マドモワゼル シャネルの精神をもっとも色濃く反映させた香りを生んだ調香師としても知られています。
3人目は、シャネルの3代目専属調香師であるジャック ボルジュ。なんといっても彼は「エゴイスト」、「アリュール」、「チャンス」といった現代の名作を次々と世に送り出し、マドモワゼル シャネルの精神を現代的な新しい魅力に置き換えて表現する才気あふれる調香師といえるでしょう。
マドモワゼル シャネルの完璧なセンスに衝撃を受け、その精神を現代へと繋ぎながら、まったく新しい香りの創造者であることも自負。彼女が生涯求め続けた“真のクリエーター”を体現している人物でもあります。
開催中のイベントで、これら3人の“nez”たちの奥深い世界を想像しながら、あたかも彼らと対話をするように、自分の香り探しを体験してみてはいかがでしょうか?
文・松浦明
シャネル フレグランス ミュージアムとは?