探検の総本山は日本にはない。それはイギリスや、アメリカなどの欧米にある。
もちろんわたしは日本語で本を書くわけだから、それは日本人に向けたものということになる。ここに乗り越えなければならない、ひとつの壁があった。
自らのプロジェクトの真価を問いかけようとする場合、日本語のままではなかなか探検家としての世界は広がらない。もちろん探検の本場には辛口な探検評論家はたくさんいるし、
ライバルも多い。しかしそこに自ら打って出なければ、存在さえ認めてもらえない。
ロビンソン・クルーソーのプロジェクトを進めていく上で、探検家としての試金石は
欧米をもフィールドとできるかどうかにかかっていた。
さらにロビンソン・クルーソーはイギリス人やアメリカ人にとってのヒーローでもあった。
欧米ではもちろん知らない人はいない。ところが実在のモデルがいたこと、となると
やはり知らない人が大部分。そんなわけでかの地で「ロビンソン・クルーソーのモデル、アレクサンダー・セルカークを追跡しています」と自己紹介すると、何とも怪訝な顔をされたりする。ロビンソンに実在のモデルがいた、という驚きもさることながら、イギリスの小説、それを東洋人のお前がなぜ・・・と皆思うらしい。
そんな2つの理由から、自分の本を英語に翻訳して出版したいと思うようになった。
そこでロンドン市内の出版エージェントに手紙を書き、売り込みを行った。しかし売り込みは茨の道。ましてやわたしは異邦人である。ところがロンドンの人たちは好奇なことにこの上もなく反応し、首尾よく契約へと結びついた。
ところがエージェントと契約をしたちょうどそのタイミングで、事態は急変した。
ハリウッドが、極秘裏に無人島漂流映画を製作している、との情報がもたらされたのである。
場合によっては、自身の出版にも影響を与える可能性がある。いい影響か、悪い影響か、未知数だ。いずれにせよ、風雲は急を告げたのである。(つづく)
(写真:ロンドンのエージントがブックフェアで私の本を出版社に売り込んでいる一コマ。ロビンソン・クルーソー島の写真を使ってポスターを作り、ブースに張っている。写真の上下にはIn search of Robinosn Crusoe Daisuke Takahashi と本のタイトルと著者名が見える)