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東京造形大学 山手線グラフィック展 その経緯
 ライターおよび東京造形大学教員の渡部のほうです。

 引き続き、東京造形大学 山手線グラフィック展について。

 おかげ様で東京造形大学のグラフィック作品を乗せた山手線は、毎日順調に走っているようです。

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 貼られたりぶら下がったりしている紙印刷ポスターは、制作者157名による作品総数約1100枚。とは言ってもすべて違うグラフィックではありません。種類数で言うと290種。同じデザインが複数枚印刷され、異なる場所に配置されています。

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 同じ作品でも時に中吊りだったり、フレームだったり、両隣は違う作品だったりするので、どんな風に見えるか、見た場所でも印象が違います。
 ちなみにサイズは B3(中吊りなどで2枚が横並びになるワイド版など若干の変形はあります)、紙はミセス B を使用。

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 車内のモニターに映る映像作品は、10人の作成者による19点。1作品は30秒以内、の作品です。
 グラフィックデザイン専攻なのに動画も作れるの?と聞かれましたが、動画作成の授業を選択する学生はかなり多いので、動画を作る学生は結構います。

 結果として並べられたものを見ると、きれいに収まって良かったというのもありますが、むしろ、無事運行できて良かった、と言うのが正直な感想。

 そもそもこの異例なイベント、企画側であるグラフィックデザイン専攻の教員にとってもびっくりな企画ではありました。
 
 事の始まりは秋口。大学内で「大学の活動がもっと社会的に見える企画を募集」という告知があり、グラフィックデザイン専攻の教員7人で、何ができるかアイデアを出し合っていました。
 展覧会でも他の露出にしても「意外性のあるところ」「普段ギャラリーなどに足を運ばない人でも見るところ」がいい、などなどと話していたところ、永井裕明教授の口から出た言葉が
「山手線はどう?」。

 これまで数多くの広告を手がけ、その中で山手線を使うアドトレインも経験済みの永井教授ならではの発言。

「できるんですかね?」から始まって、その場で色々調べて行くうちに「できるかも」「提案してみよう」と話が進んでいったわけです。
 私自身は雑誌や書籍をメインにした仕事をしてきたので、広告やイベントのような仕事とは勝手が違うものの、なんにせよ企画段階というのはすごい楽しい。それぞれがデザインの仕事をしている教員なので、自分たちの経験値やリサーチ力、そして発想力がぶつかる場で、色んなアイデアが出るし、その実現性や可能性を調べて行くのが何より楽しい。方向性が決まってくるに従い、ヒートアップしていくという言葉通りに「やりたい熱」(この段階では「やってみたい熱」)が上がっていったのを実感していました。

 とはいえ、結構な予算を使う案なので、ダメ元で、というのは7人とも感じていたこと。
 審査の結果、大学側も「やりましょう!」と提案が通ったという知らせを聞いた時は、正直驚いたと同時に「うちの大学って懐深いな」と思いました。

 驚いてばかりもいられないわけで、早速作品募集に。
 テーマは「TOKYO」。
 対象者は3年生(約100名)が必須、1、2年生と4年生、大学院生、助手は有志で。1人何枚でも応募可能で、シリーズ展開で見せる作品も多かったです。

 集まったところで、一斉に教員の審査。この時点では約350種類くらいだったと思いますが、ずらりと作品を並べたところは壮観。

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 審査といっても基本的には全員の作品を出したい意向なので、公序良俗、意匠権、商標権などの規程に掛かりそうなものに修正を掛けるためのもの。JR のほうでも同様な審査をします。学生に修正を依頼し、ダッシュで戻してもらいましたが、規定に掛かって審査を通過できなかった作品があったのは残念。

 最終審査通過作品が決まった所で、今度は1編成の11車両、それぞれに作品の配置を決めます。取り上げたテーマや手法の違いなどを全体のバランスを考え配置しています。

 あれやこれやの細かい作業があり、やっと初日運行を迎え、本当にほっとしたというか、できるものなのだなあ、と感慨深かったです。
 やはり大きなイベント、しかも学外で、とあって、準備は大変でした。特に外部と内部とのやりとり担当をしてくれた海士智也准教授とグラフィックデザイン専攻の助手3人が本当に頑張りました。

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 助手2人の写真があったので、最後に。(3人揃った写真がなかったのは惜しい!)

 次回はメインビジュアルについて少し。

# by dezagen | 2018-02-24 10:00 | 展覧会
東京造形大学 山手線グラフィック展 貸切運行の日
ライター渡部と東京造形大学教員の渡部のほうです。

「東京造形大学 山手線グラフィック展」がいよいよ始まりました。
自分の勤務する東京造形大学の主催、所属するグラフィックデザイン専攻の企画について書くのは、なんだか難しい。ライター客観視で書けばいいのか、企画発信目線から書けばいいのか、目線混在中。

さておき。
16日(金)は展示運行に先駆けて、関係者のみの貸切運行、という特別イベントがあり、これはかなり気分の盛り上がるものでした。

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私の写真が下手なのはこれ誰読者の方がご存じのはずなので、許して、としか言いようがないですが。車体の電光掲示が「団体」。初めて見ました

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構内表示も「団体」で、英語表示は「PARTY」。
集団を意味するpartyですが、カタカナ的な「パーティ」に引っ張られ、グッと来てしまいました。

走り出してしばらくの後、学長による挨拶が車内アナウンスで!
挨拶を「それでは出発、進行!」で締めてくれました。

展覧会における内覧会的な貸切運行ですが、場所が山手線だけに外の景色にも目が行くし、人にも会うし、作品も見るし、しかも動いてるし、で、普通の内覧会とはやっぱり違う雰囲気。
作品1つ1つをじっくり見るというよりは、通常とはかなり違う場所に置かれたギャップに目が行きます。

中の様子。当たり前ですが、走ってる所により光の入り方が違う。
同じ作品が11車両の1編成の中で複数枚使われている物も多いので、場により時間により、見え方が違います。
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人がいるかいないか(こんなに↓空いてる山手線もないと思いますが)でも見え方が違う。
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全体を撮ろうとすると吊り輪が邪魔なんですけども、実際に乗った人はもう少し作品に寄って見れるはず。
とはいえ、忙しい人々の乗る山手線。これが展示だと気付かない人もいるだろうし、作品を全く見ないで降りちゃう人もいるでしょう。
中吊り広告だと思ったらグラフィック作品で、なぜ?これ何?と思う人も多いだろうなあ。というのも実際に乗って分かった事。

関係者のみの貸切ではなく、通常の山手線で乗客の人々がどんな反応をするのか、気になるところ。

高校生を対象としての作品説明も行われました。写真に映っているのはグラフィックデザイン専攻の福田秀之教授。
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全体で300余りの作品が展示されています。
テーマは「TOKYO」とかなり大きく来たので、東京タワーや浅草寺などの名所など東京全体を紹介するような作品が多く、そうなるとモチーフに引きずられて似た印象になりがち。むしろ、焦点を小さく絞って出していった方が、強い印象にもなるし、多様性を持つ巨大都市のリアルさが出て良いと思うのですが(というのは、教員の目線)。

その点、山手線も意識しつつ、焦点を目白と目黒に絞ったこの作品はいい(私の個人的な指向として)。
目なのか胃袋なのか、はたまた全然別のものなのか。
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学生の作品を外に出してみた事で面白かったのは、この作品↓
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下に映っている学生は、上の写真作品の被写体。
グラフィック画面において、被写体はグラフィックの1要素になって平面化、メディア化するわけです。
大学で見ていると「学生の作品だね」と見過ごしてしまうのだけれど、複数枚複製され社会に出してみると、この紙に印刷されたものは社会とのコミュニケーションツールとしての固定したメディアとなっている。一方、現実のモデルとなった学生自身はメディアではない。
という差が見えたのでした。

1時間ノンストップって長いのかな、と思っていたけれど、乗ってみたらあっという間でした。
降りた時はちょっと寂しくなってしまった、専用車両。
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シュー、バタン、ガタゴト、ゴー、と行ってしまいました。
さようなら、次はいつ会えるかな?

山手線のアドトレインがどこで走ってるかを見れるサイトもあるので(どうやって調べているんだろう…)探して見て下さい。
東京造形大学 山手線グラフィック展は2月28日まで運行しています。

#東京造形大学
#山手線ジャック
#グラフィックデザイン
#tokyozokeiuniversity
#造形大
#美大


# by dezagen | 2018-02-17 11:08 | 展覧会
緑光+marute リノベーション計画と今後の展開について
 ライター渡部のほうです。

 田部井美奈さんが台中で個展 http://blog.excite.co.jp/dezagen/27455430/ を行った、緑光+marute (本来は緑は繁体字。 uは上に‥のウムラウト)。

 
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 住宅と店舗が入り交じる街の一区画、おおよそ80メートルほどの道の 旧水道局官舎をリノベーションしたエリア「緑光計画」の一部に入っている。近隣は土日ともなれば若者や観光客で賑わう、トレンドエリアになりつつある。

 
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 リノベーションはどうやってやったんだろう?ギャラリーってどんな人が来るんだろう?などなど、気になったので今年1月、再度遊びに行ってみた。

ギャラリー緑光+marute 

・緑光計画ができるまで

 話を聞いたのは緑光+marute の運営を手がける木村一心さん。運営を手がけるだけではなく、緑光計画全体に大きく関わっている人物だ。
 緑光計画のリノベーションを手がけた現地のデベロッパー「范特喜微創文化(英名 fantasy story)」に2014年から所属し、現在は半分范特喜に所属しつつ、2017年から台湾で会社「木村一心股份有限公司 」を設立し、ギャラリーの運営と設計の仕事を手がけている。
 リノベーション工事は木村さんが会社に所属する前の、201​2年から​​13年に行われたが、学生としてプロジェクトに参加していた。

 木村一心さんの HP

 緑光計画の元の建物は70年から60年ほど経っており、モルタル、レンガ、タイルなどを使用した外壁を残し、鉄骨を入れ強化、平屋部分の屋根を2階のベランダにし、隣接する建物とつながる屋外広場に変えた。


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 内部は、古く味わいの残る木枠やタイルなど、活かせるところは元の素材を使いつつ、補強。部分的に1つのスペースの壁全体をガラスにしたり、階段の手すりは黒い鉄骨で仕上げたり、と20世紀中旬の台湾家屋建築と現代建築の要素とが共存している。

 
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 緑光計画の中に入っているテナントは現在18軒。ハンドメイドや伝統産業など若い台湾ブランドを育てるという基準でテナントを募集し、現在は印花樂、 無藏茗茶、 臺虎精釀などが入っている。

 印花樂  台湾製のテキスタイルショップ。

 無藏茗茶  自社の茶畑、工場を持つ茶店。

 臺虎精釀 数十種類の台湾のクラフトビールを試飲しながら注文できるバー。

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・コンテクストを考えたリノベーション

 古い建築のリノベーション企画は日本でも増えているが、台湾では個人で一軒のレベルから、企業、自治体が手がける旧倉庫や工場と言った巨大施設まで実に幅広く行われている。

 リノベーションの際、その地域の活性化に力を入れているのも范特喜微創文化の特徴だ。台中だけでなく台湾の様々な地域でリノベーションを手がけているが、建物の成り立ちや建築構造はもちろん、地域的にどういう場所であるか、近隣ではどんな人々がどんな生活をしているか、前リサーチを十分に行う。
 完成後のテナント選びも手がけ、かつプロジェクト毎に范特喜微創文化のオフィスを作っておき、現地採用したスタッフを常駐させている。

「地域活性化のためのリノベーションは様々行われています。台北のように人口の多く新旧の入れ替わりが常に激しい都市では成功しやすいのですが、台中、高雄、あるいはもっと小さい町などでは成功しにくいのが現状です。

建物だけを直しても地元の人にすぐに受け入れられるとは限らない。また、成功してもその地域の地価が上がったり、突然変わってしまって、それまで住んでいた人達が入っていけないようなエリアになってしまうこともあります。

范特喜微創文化は、テナントなどの中身を作り、イベントなどもからめていき、極力地域の人が入って行きやすいプロジェクトを意識しています。例えば雲林県斗六市でのプロジェクトはリノベーションだけでなく、今後20年間の運営も含めた仕事で、随時アフターケア、メンテナンスを行ができるようにしています。このためスタッフの常駐、特に現地採用して地域の事を分かっている人を入れることが重要なんです」(木村さん)

・ギャラリーの役割

 2つ目のトピック。ギャラリーとしての緑光+marute について。
  前回のブログでも説明したが、現地での運営は木村さん、キュレーションは香川県高松市の書店 BOOKMARUTE  http://book-marute.com を営み、イベントを行っている小笠原哲也さんが行っている。

 ギャラリーがスタートした2015年からこれまで、山口一郎、田部井美奈、平野甲賀、宮脇慎太郎、若手写真家のグループ展、妖怪造形大賞展の巡回、台中在住のイラストレーター Fanyu(林凡瑜)など、イラストレーション、グラフィック、写真、立体など幅広く日台のアーティストを紹介している。
(これまでの展示リストはこちらで https://www.isshin-taiwan.com/gallery

 気になっていた事の1つが、台中で日本のアーティストを紹介して、ギャラリーとして儲かるのだろうか」。

 図々しい質問だとは思いつつ、木村さんに聞いてみると、
「給料が日本の約三分の一程の台湾で、高価な作品を売るのは日本より難しい。それだけに僕らのようにストイックに日本の作家さんを紹介している台湾のギャラリーはあまりありません」という。
「ですが、むしろそのユニークな立ち位置が台湾で注目されることも事実で、毎回かなりの来場者があります。
観光客の人達が作品を買うことは稀ですが、台中で一番日本の芸術家が集まる場所というコンセプトが受け入れられ、毎回の展示に足を運んでくれる方や作品を購入してくれる方が徐々に増えてきています」

・日台だけでなく、世界に広がる基点

 概して日本のアーティスト(デザイナーやイラストレーター含む)は、なかなか海外展示のチャンスを持たない。国内の優れた才能が国内だけで、悪く言えば身内だけで「いいね」と言い合っている状況のように見え、文化の異なる場での評価を受ける機会が少ないのは残念な事ではある。とはいえ、現実的な問題とし移動や搬入搬出の手間が掛かること、言語などは大きなハードルだ。

 緑光+marute は宿泊施設や通訳などは現地の友人知人からサポートしてもらったり、日本の作家と交流したい学生にイベントスタッフのボランティアを募るなど、負担を軽減する努力を行っている。

「日本から来るアートやカルチャーは、国際交流に繋がりまちづくりを促進します。建築を作るだけのリノベーションではなく、地域の活性化を促すという意味でも、ギャラリーというのは良い場になっています」という木村さん。ギャラリーを通して建築の運用を体験し、設計士としての新たな役割を見つけていきたい、と今後の意気込みを語ってくれた。 
 
 緑光+marute の可能性は、日台の関係だけに留まらない、ということも加えておきたい。
 昨今、台湾は急激に海外からの観光客が増えている。中国語で書かれるプレビュー、レビューや観光客からの個人発信の情報は、台湾と同じ繁体字を使用する香港を始め、中国本土、華人の多い東南アジアやその他の地域に広がっていく。そこからまた次のステップアップに繋がっていくことだろう。
 緑光+marute のような日本人アーティストが展示をやりやすい環境は、確実に展示者の視野を広げてくれるに違いない。


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追加情報:
 台湾、台中に馴染みのない方に、基本情報を。
 台中市は台湾の西側、真ん中よりちょっと上に位置する。人口約278万人の、人口では台湾第2の都市。首都からの距離は異なるが、日本の感覚で言うと大阪市のようなところだ。

 台北から一番行きやすいのは台湾新幹線(台湾高鐵)。
 台北駅から台中駅まで約1時間。普通指定席で700元(約2700円)
 ただし高鐵台中駅が市内から離れているので、ギャラリーのある地区へは高鐵台中駅から公共バス、もしくはタクシー(20分くらいで約300元(約1100円)くらいだった記憶)。
 ウェブサイトに日本語もあり、また台湾内でのコンビニからチケット購入も可能。

 台湾鉄道の在来線で行く方法もあり。特急、急行、普通などにより所要時間が異なるが約1時間半から3時間半ほど。この場合の台鉄台中駅は街中にある。
 高速バスは台湾桃園駅から台中市内まで約2時間、台北市内からだと約3時間ほど。

と、チケットの買い方さえ分かってしまえば、簡単に行ける。
(他にも高雄、台南から入って行く方法など様々あるので、詳しい情報は各鉄道バス会社のサイト、もしくは台湾旅行ガイドのウェブサイトやガイドブックをご参照を)

# by dezagen | 2018-02-17 01:32 | インテリア
東京造形大学 山手線グラフィック展
ライター渡部のほうです。
というよりは、東京造形大学教員の渡部千春です。

今回は展覧会の告知です。

東京造形大学の、(私が所属している)グラフィックデザイン専攻の主催による展覧会、
学生の作品、ポスター、動画を約300点展示。

東京造形大学 グラフィックデザイン専攻 https://www.zokei.ac.jp/academics/undergrad/gd/

と、聞くと割と普通に聞こえるかもしれませんが、割と普通じゃないです。

場所が山手線。

ホームじゃないです。山手線の11車両の1編成全部。
それが12日間、朝から晩まで、ぐるぐる回ってます。

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メインビジュアルはN.G. Inc/永井裕明教授。

「東京造形大学 山手線グラフィック展」
実施期間:2018年2月17日(土)〜2月28日(水) 
会場:山手線 外回り
(すいません、先の投稿で2月16日(金)からと書いてしまいましたが、17日(土)からの運行の誤りでした)

今回はこんな感じで。
次回(あるいは次々回)は、展示作品例やプロジェクトの裏話なども書きたいと思います。


# by dezagen | 2018-02-15 14:10 | 展覧会
観察の樹×藤森泰司 Kino Stool 後編
 観察の樹×藤森泰司 Kino Stoolの記事、後編です。

 改めて、台湾の高齢者向け家具を日本から発信していく、という点に振り返ってみたい。


・助け合い+自立の社会に

 日本と台湾は近い国/地域ではあるが、先に書いた玄関まわりしかり、気候風土もろもろ、かなり事情が異なる。ボコボコの歩道、滑りそうな段差や階段、杖代わりにも使われるショッピングカートの作りも貧弱だったり、と、悪条件が目立つ。

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(台湾 メンテナンスが放置されてボコボコな歩道。撮影渡部千春)

 ところが「台湾には定年がないんだろうか?」と思うほど働く高齢者は多い。買い物や散歩、屋外のお喋りなど普段の生活でも近隣の人々が常に近くにいて、困った時には助けあうコミュニティの力が条件の悪さを補っている。

「台湾は儒教思想が色濃く残っており、ボランティア精神も高いので、条件の悪さをマンパワーで補っているように僕も思います。日本では失われてしまったかもしれない“向こう三軒両隣”が台湾にはあります。とても良い文化だと思います。
しかし、その反面「やってあげすぎること」が必ずしも良いとは限らないと思っています」と観察の樹の黒坂氏は言う。

 家族、近隣の人々のマンパワーはまだ健在だが、徐々に日本とあまり変わらない生活スタイルになって来ているように思える。

 例えば台北などはここ10年ほど急激に都市化が進み、中心部で見る高齢者の数は減った。住宅地は郊外に延びているが、タワーマンションや車社会を前提とし近隣に商店街も市場もなく、軒下で近所の人々と語らう場がない住宅街も目立つ。
 こうなると近隣の人々との助け合う機会も減ってくる。今後はこうした傾向が増えていくだろう、と黒坂氏は考える。そのためにも高齢者が自主的に使いやすい什器、家具、機器のデザインが求められている。

「高齢者が自分できるところは積極的にやってもらう。そのバランスが重要だと考えているので「尊厳と自立支援」を伝えていきたいと考えています」(黒坂氏)

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(靴屋兼靴修理店で働く男性。手仕事は一生の仕事 撮影渡部千春)

・機器ではない家具を

 年を経て行くにつれ安定を求める感覚はあるのだが、危険ともなりうるガタガタのカートや家具でも長年の使い慣れといった、記憶や経験、愛着と相まって共に暮らしているものだ。急にツルピカの「絶対安全衛生的」がやってきたからと言って、すぐに使えるとは限らない。
 これは世界的に言えることだが、日常使いの家具でも家庭用、公共用の什器、機器でも、「高齢者向け」となると途端に医療機器のような味気ないものになりがちだ。そこから脱して愛着の湧くようなデザインが施されることがあるが、「やさしい」という感覚が、高齢者向けと乳児・幼児向けが同じような「やさしさ」の色合いや形状で処理されてしまうこともある。

 突然のパステルカラー、突然のまるっこいプラスチック家具。
 これはさすがに勘弁して欲しい(気にしない人は気にしないようだが、私は遠慮させていただく)

 そんな中で、ある日家庭に入ってきた新しい家具や機器でも、違和感を持たずに接することができれば理想的だ。こうした家具と共に暮らす感覚を大事にした Kino Stool は1つの理想型を提示しているだろう。
 藤森氏が展示に寄せた文章で今回は締めたい。

Kino Stool に寄せて

高齢者向けの家具は、きちんと目的を持った機能性が必要です。
ただ、どうしてもその点に固執するあまり、
家具ではなく"機器"のようになってしまいがちです。
私たちは、ただ目的をこなす器械とは暮らしていけません。
日常生活を共に過ごす家具には、常に一緒に居たいものかどうか、
つまりはパートナーとしての"表情"が必要なのです。
その"表情"こそがデザインであり、使い手と道具との関係性を作り出すのです。
「Kino Stool / キノスツール」にはそうした思いが込められています。

藤森泰司


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・商品詳細

Kino Stool
素材:フレーム:アッシュ合板、アッシュ無垢材/座面:布張り
サイズ: 幅564×奥行370×高580(座面高407) mm

カラーバリエーション  *は受注生産 
ナチュラル NTD $12,800 (48,167円)
ダークブラウン NTD $13,800 (51,931円)
ブラック* NTD $14,800 (55,694円)
ホワイト* NTD $14,800 
ダークグレー * NTD $16,800 (55,694円)

台湾での参考価格。()内の日本円は発表日1月12日のレートで計算
日本での販売は4月目処。価格はなるべく台湾の価格と同じくらいにしたいとのこと。

シートの色:ブリック(レンガ色)、ネイビー、シトラス、ワイン、グレージュ
(展示に合わせて作られた受注ファブリックは、花布、屏東の少数民族の手織り布、の二種)
(花布は布団や農作業着などに使われている伝統的な柄の布。花布に関しては以前このブログで書いておりました。ご参照まで 
「台湾 傳統花布」  http://blog.excite.co.jp/dezagen/12450986/ )

問い合わせ先:観察の樹 http://www.kansatsunoki.com/contact/


# by dezagen | 2018-01-26 19:24 | プロダクト・パッケージ