その1からの続き。
全体を見てみるとやさしい印象でぱっと見ダイニングを思わせる。簡単に言えばオフィステーブル/オフィスチェアっぽくない。
私の考えるオフィスチェアというと、ハーマンミラーのアーロンチェアに代表されるような人間工学に基づいた形の樹脂素材で、キャスターが付いているもの。
プライウッド、特にナチュラルカラーの椅子になると、イームズプライウッドダイニングチェア、アルネ・ヤコブセンのセブンチェアのシリーズ、坂倉準三デザインの天童木工の椅子など、家庭やカフェといったイメージがある。
「ダイニングチェアやラウンジチェアには見た目の軽さがある。オフィスチェアは座りやすく、長時間座っていても疲れないメリットがある。ELMARはそういったチェアの中間にあるものですね」と、今回藤森泰司アトリエと共同で設計を手掛けた内田洋行のデザイナー山田聖士さんは言う。
中間が求められるようになっている背景には、働き方、オフィスの在り方の変化がある。
「コワーキングスペースもかなり昔から作られていましたが、ただオフィス空間を分割してシェアというより、カフェやバーを併設したり、コンシェルジュがいて事務的な面のサポートサービスがある場所が主流になっています。図書館などの公共の場所で仕事をする、勉強するという人も多い。こうした場所にはオフィスとは異なる要素、居心地の良さが求められるようになっています。
大手企業のワーキングスペースも、一般的にダイニングチェア、ラウンジチェアとして売られている椅子を取り入れたり、簡易的なカフェを併設したり変化してきたわけです」
ダイニングのシーンを思わせる木素材の椅子とテーブルの写真を見て、藤森さんが内田洋行と新しいオフィスチェアを作りたいと言っていた事を思い出した。それもすごく前、2006年頃の話である。
当時内田洋行のデザイナーでありスギのプロジェクトなども進めていた若杉浩一さん(現武蔵野美術大学教授)と共に、色んな試行錯誤をしていた。
ELMARの前にもいくつかオフィス家具を藤森泰司アトリエと内田洋行で製作している。
2009年 RUTA
2009年/2016年 LEMNA
など。
RUTAもLEMNAも完成度が高く、藤森さんも愛情を注いで作っていた。他のブランドから出している製品や、セルフプロダクションで作ったWORK FROM HOMEのシリーズも、いつも藤森さんは全身全霊でそれぞれの目的に合わせて妥協しないデザインを作って来た。
一方で「まだ新しい形があると思う」ともよく言っていた。
ELMARは、挑戦を止めなかった藤森さんが到達した完成形、木素材を好んで使った藤森家具の真骨頂とも言える。
カタログとウェブサイトに寄せられた藤森さんの言葉を引用すると
「ELMARは、その家具としての表情によって多様な空間に入っていくことが可能です。 オフィスとダイニングの間をフレキシブルに行き来できること。 それは、働くという行為を、より自由にすることに繋がっていくと信じています」
野暮にも私感を加えれば、働くという行為を自由にすることで、生活も変わっていくだろう。
椅子は生活の色んな場に登場する。職場でがっちり集中して働いている時、会議、授業、家で仕事や勉強する時、ご飯を食べる時、喫茶の時、何かを待っている時。
大人の椅子が大きく見える子供の時、一人で自分の時間を堪能する時、親になって小さい子供を抱えながら一緒に座る時、身体が弱くなって椅子に捕まりながら立ったり座ったりする時、ベッドの脇で本を読んであげたり、その合間にPCで仕事したりする時。
勉強して仕事して作業して休んで、こうした状況はぶつ切れではなく一続きだったりする。その都度全部の家具が変わるわけではない。ELMARがすべてを受け入れるわけではないにせよ、続いて行く生活の中に共にある椅子に、こんな選択肢もあるよ、と見せてくれている。
ELMARのシリーズは春の発売を予定している。
藤森さんにはこのブログにも度々登場してもらった。以下、ポストのリンクを。
(↑執筆は宮後優子さん)
藤森泰司さん、ありがとう。
執筆:渡部千春