ライター渡部のほうです。
これまで布モノやグッズなどにグラフィックを応用し見せていた太公良君だが、今回の展示ではリソグラフを使いグラフィックそのものを見せる、という方法に挑戦している。
太公良君にとってこの1年はかなりキツいところもあったようだ。昨年の個展は緊急事態宣言のために中止となり、海外とのプロジェクトを多くこなしていたところに海外渡航が自由にできないフラストレーションも重なった。
改めて自分のやりたい事を振り返り、「もっと単純な感情で作った=書いた絵が愛おしくなった。自分にとってもっともっと単純に考えている世界を恥ずかしげもなく見せてもいい気分になっていた」と、今回の個展のために用意されたzineには書かれている。
ストレートにグラフィックを見せよう、と、リソグラフに起こりがちな版ズレも極力避けた。版ズレをさせてしまうとそこに余計な味がでてしまい引っ張られてしまうからだ。極力、形と色の組み合わせを楽しんでもらう、ストレートに表現された世界が広がる。
アレクサンドル・ロトチェンコ(+ヴァルヴァラ・ステパノヴァ)の「おしゃぶりほどよいものはない」というポスターを思い出した。和えて書くまでもないような気もするが、ロトチェンコはロシアアヴァンギャルドのデザイナー、ロシア構成主義を代表するグラフィックを作った。
この作品では直線、幾何学形態のみで構成され、それだけにダイナミックな表現を可能としている。余計な要素を省き、いかにストレートにメッセージを伝えるか、という意味ではロトチェンコと太公良君の作品には共通するものがある。
むろん違いもあって、太公良君の作品は黄色や赤、ピンクといった明るくポップな色使いで、楽しさ、幸せ感といったものが前面に出てきている。
リソグラフのグラフィックのみで表現したことで、太公良君の目指すものがよりシャープに伝わるようになったように思う。
切り紙でのコラージュのシリーズは展示品ではないが、ファイルで見る事ができる。約1000セットという物量。こちらもみごたえありだ。
5月11日(火)まで。