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高田唯の中国語ウェブサイト
 ライター渡部のほうです。
 
 もう1年以上も日本から出ていない。さすがに国内にいて日本の常識に沿って生活をするのが当たり前になり、心地よさと同時に何か大事なものを見逃しているのではないかと不安になったりもする。

 そんなところに、高田唯(以下、人名敬称略)の中国語ウェブサイトを見て、ここ数年中国に行っては刺激を受けて帰って来た感覚を呼び起こされた。

 高田唯の中国語ウェブサイト https://takadayui.com が公開されたのは3月3日。高田唯の所属する事務所オールライトグラフィックス http://www.allrightgraphics.com から、中国語版が出来たとお知らせが来た。

 オールライトグラフィックスのウェブサイトも表紙が常に違うものに溢れ刺激的だが、高田唯の中国語ウェブサイトはもっとストレートで、言ってしまえば荒削りな印象もある。

高田唯の中国語ウェブサイト_b0141474_22173662.jpg

 表紙はまず大胆な色のバーが目に飛び込んで来る。時系列にプロジェクトの新しいものが上に、古いものは下に。新しいプロジェクトができるたびその記録が積み上がっていく積木のような方法だ。
 プロジェクト名をクリックすると解説画面に行き、1つのプロジェクトに対し解説の文章と画像もしくは動画が1つか2つ、と極めてシンプルな構成だ。
 
 制作チームは高田唯始め、オールライトグラフィックスのプロデューサー高田舞、東京造形大学の院生陳文亮(チェン・ウェンリャン)、学部生の王睿宇(ワン・レイユ) の4人。

 このサイトでは見てすぐ分かる直球さだけでなく、中国に行ったときに感じたような大胆さ、スピード感も感じさせる。日本から発信されたウェブサイトで、グラフィック全体を監修しているのは日本人の高田唯なのだが、どこかしら中国を感じさせる。
 恐らくそれは、色の大胆さ、色のバーのどこを押せばいいのかすぐには分からずうろうろさせるちょっとした曖昧さ、かと思うとクリックするとすぐに、はい、これですよ、と1枚で見せてしまうあっけらかんとした感じ。こうした細部の積み重ねが日本のサイトっぽくなさを作っているのだと思う。

 また、制作スタッフが若いというのも、私の考える中国イメージに合致している理由なのではないか。

 オールライトのプロジェクトはグループワークがものを言う。高田唯がADとして立つのだが、高田唯が決めた事に沿って皆が従って働くという方法ではない。チームそれぞれが意見を出し合い、自由に発言、提案する。最終的に決定するのは高田唯にしても、その間にあったプロセス、その中に含まれるニュアンスを大事にしながら最後の決定へと進む。

 陳、王の日本のデザイン観、中国のデザイン観、そして個々に持つデザイン感覚は高田のそれとは当然違う。彼らの中国デザインに対する印象はネガティブとも言えるが、それに対するチャレンジも忘れていない。

「日本のデザイン環境は既に成熟していると思います。一方で、中国はまだスタートしたばかりですね。まだ道が長いですが、中国のデザイナーたちは歩いていくどころか、もう勢いて走っているようです。こうしたデザインの発展経緯もあって、中国と日本のデザイン生態は若干異なっていると思います。
デザイナーが言うコンセプトも理論的で難解なものが多く、一般の人びとが理解できない。今回のウェブサイトはミーティングを重ね、作品の説明は硬い文章ではなく、高田先生がリラックスした言葉でコンセプトを説明する言葉になっています」(陳)

「中国のデザイン歴史は実は短く、社会全体にアートやデザイン教育の意識がないため、多くの人が望むデザインは贅沢で豊かで目まぐるしい。多くやればやるほど派手にすればするほど、デザインの価値を表現でき、ますます目を引くことができると思っている傾向があります。ただ、中国の現在のグラフィックデザインは新しいものをどんどん吸収して受け入れていく段階にあると思います」(王)

 陳、王は中国のデザインに対してややネガティブだが、その成長発展の様は、成熟したと彼らが言う日本のデザインから見ると新鮮でパワーに溢れ、うらやましさすら感じるのだ。

 高田唯のアートディレクションはこうした中国の傾向も理解しつつ、人びとに訴えやすい分かりやすさ、大胆さを持ちつつ、とはいえ走りすぎないほどほどのところを押さえている。
 私が中国語の高田唯ウェブサイトに感じるのは、日本と中国の程良いハイブリッド感だと思う。

 また、実際のスピード感もある。サイトを作る案が出たのは今年の2月で、3月の公開、と速い。このスピード感もやはり陳と王の若い二人の動きの速さに依るところが大きいだろう。

 蛇足だが、若さについて触れた亀倉雄策の言葉がある。
「歴史に残る作品というのは全く別な、文化的角度から評価したものである。デザインそのものの経済社会的評価は今現在が問題なのである。だから新鮮な感覚が評価を左右する。デザイナーは常に若くなくてはならない。つらいことである」『毎日新聞』1977年

 世界の亀倉と言われ、自らのスタイルを確立し、それに満足していたかのように見える亀倉雄策も、常に新鮮な感覚を模索していたのだ。そして、それを「つらい」と言う。常に感覚を若く持つのは容易な事ではない。

 


by dezagen | 2021-03-21 22:21 | グラフィック
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渡部千春著、デザインの現場編集部編
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