ライター渡部のほうです。
実家の母もなかなかモノを捨てないが、自分自身も結構捨てない。捨てないで持ってばかりいると、モノがボロくなり、生活がボロくなってくる。これはいかん、と最近、自宅のソファと椅子を修理に出した。
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金額的に言えば、古いソファと椅子を粗大ゴミに出し、新しいものを買った方が安い。それでも、50〜60年代に作られた家具のフォルムが気に入っていたし、同じものを買おうと思ってもない。頂き物で、自分のところにやって来たのは十年程前でしかない上に、ほとんど使っていなかった家具でも愛着は湧く。モノを捨てるのは簡単な事だけれど、愛着を捨てるのは難しい。
かなり前から修理を考えていたのだが、プライウッドの修理ができるところがなかなか見つからず、しばらく放置していた。そんな所にこの自粛生活で、家の中ばかり見ていると色々気になってくる。これを機会に紹介してもらった所に修理をお願いした。
代表の西原弘貴さんが2003年に始めた会社で、9年ほど前からは目黒区柿の木坂でショップを開いている。
ここでは布貼りも木の椅子の塗装修理も欠けや折れ、サビなどの修理も、あるいはヴィンテージ感の復元までも、修理全般を1箇所でできるところが強み。布貼りなら布貼りの工房、木加工なら木加工の工房と分かれていないので、どんな修理でも一括でお願いできる。
私の椅子の場合、全体的な洗浄、プライウッドの割れ欠けをパテ埋め、座面を張り替え。
錆びまくっていた金属パーツも磨き直され、再利用されていたのがすごい。もっとすごいのは、新品同様なピカピカさに戻すのではなく、ある程度経年感も残しつつきれいに仕上げたところ。プライウッドの欠けを埋めたパテの上は周囲と違和感のないよう木材らしい絵画表現を施してある。
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ソファは全体的にヘタれていたものを張り替え。中を開けて見たら背面の芯材が頼りない状態だったそうで、背面にテープと木材の芯を足してよりパッドが安定して入るように加工。
剥がしてみたら中の詰め物が藁だったのには驚いた。
詰め物など取った枠だけの状態。かなり華奢な作り。
ベルト数を増やして補強。
さらに枠を増やした。
座面のベルトとスプリングを吊るテンション紐。
新しくなったソファ。
修理するというのは機能を復帰させる事だと思っていたのだが、これほど美しく変身してくると、モノへの気持ちも変わってくる。ソファのぱりっと張られた座面は見目も良いが、触り心地がいい。むろん座り心地は快適だ。椅子もこれまでプライウッドのささくれが気になり、100%信頼して座れなかったのが、安心して座れるようになった。椅子への信頼感がこれまでと全く異なる。
大袈裟なようだが、生活に対して前向きになったようにも思う。制限の多い今の状況は正直辛い。後ろ向きになってもしょうがないが、少しずつ目に入るものを整備していくことで次に備えていけるような気がしてきた。モノに依存しすぎといわれればそれまでだが、日常をダレないようにさせる、普段をボロくさせないようにするには、共に生きる日用品をおざなりにしないことが重要なのだ。そのための捨てる行為なり直す行為なり、あるいは新しく買うなり、モノを見つめていく事が必要だと感じている。
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(写真 ※付きは渡部撮影、それ以外はフィズリペアワークス提供。)