
ライター渡部のほうです。
上海の「高田唯潜水平面設計展」。レポートその2は、時系列&もう少し写真中心で。でもどれがもらった写真で、どれが自分の写真だったかが分からなくなってしまい、撮影者は混在してます。前回のブログと内容のダブりもありますが、ご容赦下さい。以下、敬称略、だ・である調、です。
■展示。準備から開場まで
「高田唯潜水平面設計展」のオープニングは8月25日。
高田唯と北條舞のオールライトチームと、渡部千春は別便で8月23日に上海入り。コーディネーター役の盛哲は中国の実家から新幹線2時間半で23日に上海入り。もう1人の日本在住コーディネーター戴勇強は24日に上海入り。台中展示のギャラリー綠光+marüte(8月27日まで高田唯個展を開催)の運営者木村一心も台湾から駆けつけてくれ、22日に上海入り。
海外での展示は、展示者が1人でぽーんと行って後はお任せ、というわけにもいかず、皆ほとんど手弁当なのだが「何か少しでも手伝う事ができれば」と集まった助っ人達。高田唯は本人がお願いする事がなくとも、助ける人を集めてしまう持って生まれた才能を持っている、ような気がする。
企画者の Neue Design Exhibition Project は上海在住のグループ。メインのメンバーは、
秦哲祺 (チン・ジャチ、プロジェクトリーダー、 キュレーター/Liang Project Gallery 共同運営者、視覚デザイナー )、
龚奇骏 (ゴン・ジジュン、キュレーター/デザイン事務所 K&C Office共同運営者、「上海活字」プロジェクト共同運営者)、
叶博驰 (イエ・ボウチ、プロダクト担当)。
彼らと高田唯は展覧会の前、6月7月と短い間に3、4回の打ち合わせを行い、Vice 中国の映像記事の撮影も行っている。
というような体勢で準備が始まったのだが、台風のためオールライトチームのフライトが遅れ、本格的な設営が始まったのは23日の夜から。昼間のギャラリーはこんな。
ゼロ状態。
オールライトチームが到着し、早速什器レイアウトや壁に貼る紙モノにテープを貼る作業など。小さい作品が多いだけに、時間が掛かる。ひたすら地道な作業の積み重ね。
上海に行くまで高田唯も見れなかった、オープニングインビテーションの現物。
見て「良い!」と Go サイン。
24日は早朝から深夜まで。設営と打ち合わせ。(私は自主研究のスーパーマーケットパッケージ観察で、展示準備には夕方出勤)オールライトチームと盛哲は、ぼろきれ雑巾並にぐったり。でも展示のディテール、打ち合わせの大事な所はちゃんと目がカッと開いてて、本当によく頑張ってた、オールライトチーム。
巨大ポスター。これはガタイのいい兄さん達の仕事。
後ほど聞いた所によると、到着後、急遽ポスターの1枚を変更したそう。出力は現地で行ったので、現物を見るのは到着してから。モランディ展のポスターを予定していたが、24日に確認した時、思ったような色が出ておらず、別のもので出力し直し。25日のオープニングにギリギリ間に合った、とのこと。
壁に貼るもの、レイアウトをおおよそ決めて、貼る。
台中の木村一心が一生懸命貼っている。壁や床のがたつきなども計算に入れなくてはいけないため、最初にざっくり水平器でアタリを着け、その後は目で水平感を整えていく。
こういう微調整は、さすが建築士、ギャラリー運営とで慣れている木村一心の技量発揮。
意外なところで困ったスポーツ新聞のトリミング。
アクリルケースの蓋を置く時、保護シートを剥がす時に静電気が発生して、小さい紙が動いたりアクリルにくっついたり。保護シートを慎重に剥がし、さらにその後、少しずつアクリルケースを上げて、ズレたものを直す。
さて、25日、できあがり風景。
ギャラリー外観。
ギャラリーはコの字型。時系列に作品がずらりと並ぶ。
入ってすぐの右側スペースには巨大ポスターが6枚。素材はターポリンだったような。
中間のスペース。書籍は手に取って読んでもらえるよう、吊した状態。
「潜水というキーワードから、会場を海に見立て、本をカモメのように飛ばした」と、高田唯の説明。
奥の窪みスペースにトリミングを集中。新聞のトリミングも落ち着いていた。
壁平面の最後の作品は今回のメインビジュアル。バイクの泥よけ(フェンダーフラップというらしい)をモチーフにしたフライヤーなど。
さらに奥の部屋は暗室になっており、Allright Music東郷清丸のヴィデオと、今回の展示のために Vice 中国が作った映像が流れる。
オープニングは4時から、のはずだったが、その前から人がどんどん入り始め、ギュウギュウに。造形大の中国人留学生卒業生も来てくれた。
オープニングの挨拶時。
一般公開の26日。高田唯はサイン攻め。
夜は別会場、衡山和集 THE MIX-PLACEという書店兼カフェでトークイベント。登壇者は高田唯に加え、渡部千春、张磊、Nod Young(グラフィックデザイナー
https://www.nodyoung.com)。私が入って何をやってたわけでもないんだけども…。
こちらも定員50人で立ち見の状況。満員(すぎ)御礼。
トークイベントの会場写真はうまく撮れず。下は张磊、Nod Young。

27日。ギャラリーで取材を受ける高田唯。通訳は戴勇強(ペン2本使い。達人だ)。
オールライトチームは27日の午後までギャラリー在廊、その後帰国。木村一心は27日の台中展示最終日のため、26日の昼に一足早く台湾へ。私はトークイベントの後、深夜便で日本に帰国。盛哲と戴勇強は中国の実家へ。
近隣の東アジア各地から人がそれぞれバラバラと集まって、プロジェクトの中の自分の出来る事をやって、また各自帰っていく、というスタイルはなかなか良いと思う。
■展覧会カタログ
今回の上海展示では、展覧会カタログが作られた。G8の「遊泳グラフィック」でもカタログが作られなかったが、さすがスピードのある上海だと感心。
(写真、Neue Design Exhibition Project提供)
デザイン:ALL RIGHT GRAPHICS+盛哲、印刷:上海艾登印刷
A4変形 64ページ
展示作品の一部が赤い表紙の中に綴じられ、外側の黄色いページは寄稿文。Neue Design Exhibition Project(秦哲祺、龚奇骏)、 張磊、沈浩鹏(デザイナー、アーティスト)、谭沛然(グラフィックデザイナー、インタラクティブデザイナー、字体愛好者)、NodYoung、邵年(グラフィックデザイナー)がそれぞれ、デザイナーからの視点、学術的な分析などを書いている。(以下、抜粋文は意訳。翻訳協力:戴勇強)
例えば Nod Young は
「高田唯の作品からはある種少年のような単純さや衝動が感じられる。だから僕は彼のことを「小唯(唯ちゃん)」と呼ぶ。主催者が送ってくれた資料の中に高田唯のスナップ写真があった。(北京ダックで有名な)全聚德レストランでココナツジュースを飲んでいて、財布はテーブルに置きっぱなし。なんだか長年の友達のような気にさせる。だから僕は彼のことを「小唯」と呼ぶ」
「彼に対して「アンチデザイン」「デザイン界のダメな子」などのコメントも聞こえてくるが、これは正しい判断とは言えないだろう。彼はデザインの境界線を突破し、さらにパワフルなものにさせている。ただし彼自身のきっちりとしたデザイン能力がなければ、ここまで作る事は無理だろう。/印刷工芸(例:活版印刷)にしても、80年生まれの若者らしい今の時代の考え方で探求し、この知識経験をベースにデザインを作る。彼の作品に若い人々はすっと入っていける。それゆえ他から飛び抜けたものとなっているのだ」沈浩鹏
「今日のグラフィックデザインにおいて高田のアグリーは重要である。新世代の人々は新しい視覚言語を求めている。高田の作品はグラフィックデザインがルール化し束縛してしまった美醜の境界、その幅を広げている」邵年
「「逸脱者」これが高田唯の作品を見た最初の印象である。/高田の作品は見る、討論する価値がある。重要な事は「今見る」「今話す」事だ。多くの人は高田唯の作品を前に言葉を失い、文字にも書き表せない。過去の評価基準から判断するのは意味がないからだ」Design Exhibition Project チーム
分かりやすいところを抜粋したが、寄稿文はそれぞれかなり長くおおよそ日本語で1600字から長いものでは6000字ほどの訳文になっていた。
彼の作風が一部で「ニューアグリー/新醜/New Ugly」と呼ばれているため、アグリーなのか、それとも新しい言語か、という問題を解くのに、現代思想や、特にポストモダンを例に取った歴史的解釈など、様々な観点から論じられている。
高田唯自身「ニューアグリーって何!?」と言っているくらいだし、私自身も高田唯の作品が醜いとは思わない。誰が最初に高田唯を「ニューアグリー」と呼び始めたのか調べてみたが、はっきりせず、どうもネット上のコメントから出てきたようだ。ちなみに、他にニューアグリーに分類されるのは、服部一成、澁谷克彦、北川一成などが挙がっていたのを目にした。
観点としては同意しないものの、こうした見方が出て来るのは興味深い。こうした新しい視点に出会えるのも、日本という小さな国から離れた、距離感のお陰かもしれない。
最後に、今回のスタッフ写真を。
左から盛哲、北條舞、秦哲祺、高田唯、雅巢画廊/Yard Gallery運営者(すいません、名前分からず)、龚奇骏、叶博驰
■展覧会概要
「高田唯潜水平面設計展」
場所:雅巢画廊(Yard Gallery) 上海 普陀 莫干山路 M50芸術区 4-B
期間:2018年8月25日〜9月9日 11:00〜18:00 (月曜休み)
企画運営:Neue Design Exhibition Project
学術アドバイザー:張磊
協力 雅巢画廊、上海艾登印刷、竹尾(上海)、VICE 中国、国際交流基金 北京日本文化センター