ライター渡部のほうです。
台中高田唯の展示企画中、6月頃だったか正確に覚えていないが、高田唯から衝撃的なニュースが。
「実は…、上海のギャラリーからも声が掛かってて」
時期的に大学が休みになる8月にやる事になり、高田唯としては初旬に台中、下旬に上海、と8月に二つの海外展示を行うことになった。
上海の展示は私の関わるところではないのだが、中国語圏での高田唯、及び日本のグラフィックデザインの受容を知りたいと思っていた私には大変なチャンスである。まあ、その分高田唯にとってはかなり忙しい夏となったわけだが、いつも動き回っている回遊魚のような人なので、忙しさは変わらないのかもしれない(ちなみに高田氏、9月は銀座の老舗画材店月光荘
http://gekkoso.com が持つギャラリー3箇所同時の個展が控えている)。
上海での個展の特設サイトが出来ていたので、参考までに URL を。
かなり規模の大きい展覧会になるようだ。
さておき。
(以下、ギャラリー周辺のものなどの写真は後藤洋平さんの撮ってくれたものから)
2つ目の海外個展も控え、国外での仕事(展示も含め)がますます広がりそうな高田唯に、1つめの海外個展、つまり初めての海外個展となった台中での展示と今後の展望について聞いてみた。
— 初日とアーロン・ニエさんとのトークイベントも終えて、ひとまず初めて海外で展示を行った感想を。
高田「台湾の人は、割と作品のコンセプトを聞きたがりますね。なんでこういう形が生まれて、こういう色を使っているの、とか。
何かキャプションとか解説を付けたほうが良かったのかとも思います。でも、トークでも言いましたけど、コンセプトを説明してしまうと、そのまま解釈されてしまうのがつまらない。見てくれる人、それぞれの想像力をかき立てたいと思っているので、あえてほったらかしにするというのもアリかな、とも思うんですけれど、そこはいつも悩みどころなんです。ちゃんと伝わったかな、と不安になることもある。
トークでは伝わったと思うのですけど、聞いていない人には分からないので、作品の解説ではなくても、働き方とか、何を意識して生きているかとか、周辺の解説はしても良かったかもしれない」
— すごく多くの人から話しかけられたり、質問されたりしてましたよね。どんな事を聞かれていたんですか?
高田「コンセプトの事とか、使ってる紙とか印刷技術とか。あと台湾の印刷技術が良くない、コントロールが効かないって言っている人もいましたね。」
— どう答えたんですか?
高田「僕自身、日本で印刷屋さんにはこういう風にして欲しい、ということを伝えてる。ただ不満を言うだけではなくて、チームとして一緒に作る、一緒に向上していくようにしたらいいんじゃない、というアドバイスをしたつもりだけど、伝わったかどうか分からない(笑)」
— 次は上海と続いて、国外、言語や慣習が異なるところ、に続いて行くんですけど、やりたいこととか、見つけたいこと、何かありますか?
高田「とりわけ具体的にあるわけではないんですけど、依頼してくれた相手の国だったり、気持ちだったり場所だったり環境だったり、そういうところから何かを見つけたい。全部僕の仕事ってそうなんですけど、相手ありき。僕がいるようでいない。結構カメレオンみたいなタイプ。その時、その人、その場所の求めている事に答えたいというのが根っこにはあって、そこから自分がやりたかった事も引っ張り出して乗っける、みたいな感じですかね。
だから、もしヨーロッパだったらその場に行って、見て、感じて、ギャラリーの人や美術館の人と話して、そこから求めている事や、逆にその国にあまりない事、自分の一生で経験したいい事、面白い事、自分の価値観をまぜながら表現したいです」
(綠光+marüte facebookページで当日の動画が見れます)
— 会期は終わってないけど、台中の個展は展示にもトークイベントにもすごく沢山の人が来てくれて、ひとまずスタートとしては成功だったと思います。これからもっと他の国や地域に行くと、これまで蓄積してきた経験だったり、常識だったりが通用しない事もあるだろうし、思いがけない障害もあると思います。これは国外に限ったことではなくて、国内でもあると思うんですが。そんな時はどうします?
高田「何か困った事が起きたときこそ、オールライトの中で、自分たちは何が得意で何が苦手か、(態度として)何が美しくて、美しくないかを判断するために、僕たちが大事にしているのはそもそも何だっけ?というのをみんなと共有して対応するようにしています。そうすることでスキルアップしている。そこは一番大切にしていることかも。かなりポジティブにやってます。
ネガティブにはいくらでも考えられる。でもポジティブに考える事もいくらでもできる。だったら無限にポジティブに考えて行くほうが人生楽しい。そういう風に斜めから、あるいは裏側からとらえようとする考え方にさせてくれたのが「デザイン」でした。いい学問だと思います。「柔軟学」と言っても良いかもしれません。先輩達の文章や言葉、態度を参考にしながら今に至ったので、感謝しています。今の自分には大学という側面もあるので、僕も若い世代にバトンタッチできたらいいなと思っています」
— 大学でそういう高田先生の考え方って伝わってきている?
高田「僕は言葉で伝えるのは苦手なので(もちろん言葉にはしますが)、背中を見せるのが一番伝わるかなと。仕事を楽しんでやっている姿や、個展をやっている事を見せるのが一番早いと思う。展示やイベントに学生も手伝ってもらったり、巻き込んだりとかもしながらやっています。
学生も含めて周りを信用しているし、安心して楽しんでいる。いい味方を付けていくのがオールライトの得意なところなんだと思う。計画性があってやってるわけではないけど、やりたい事を周りに言う事で、意外にそれが計画的に進んでいるのかも」
— 今後、仕事をしてみたい所、具体的な場所や分野などはありますか?
高田「誰もが知っているようなビッグクライアントの仕事もしてみたいです。仕事の振り幅を作りたい、考え方を広げたいから。
アーロンさんのような仕事の仕方が理想のスタイルなのかもしれない。台湾の蔡総統の選挙キャンペーンを手がけたり、セブンイレブンの商品を手がけたりしながらも、CDのジャケットも小さい出版社のブックデザインもパッケージデザインも丁寧にやっている。
意外にこういう人って日本では実はあんまりいない。何らかの専門になっていく傾向がある。周りもデザイナーもこれが得意だから、他はもう踏みこまないようにしていこうというような、カテゴライズする国民性があるんで、そこもぐちゃぐちゃにしたい。
まだオールライトの仕事はこじんまりしているんで、そういう意味でもメジャーなところでも普段やっている丁寧さを見せたいし、ビッグクライアントに持って行ったらどうなるのか自分でも見てみたい。世界にビッグクライアントはいっぱいいる。これも海外に出していきたいと思っている理由なのかもしれないです」
イベントなどで話を聞いたりした事はあったけれど、ライターとしてデザイナー/アートディレクターの高田唯をきちんと取材する機会がなかったため、今回話を聞いたことは新鮮だった。
大学では同じ教科を教えていたり、学内で作っている冊子を共同で担当(渡部が文章担当、高田唯がデザイン)したり、と、打ち合わせはもちろんするものの、基本的には分担をしっかりと分けていて、お互いの仕事にあまり口を出さない。むしろ、完全にお任せ状態である。
なぜかと言えば、高田唯が出してくるデザインに驚きたいから。
高田唯(オールライト、というべきか)の仕事はほとんどルーチンワークではなく、これまでにないもの、をどかんと出してくる。時に斬新すぎて私のような中高年では理解の範疇を超えることはある(笑)。どこからアイデアソースがやってきたのか分からない得体の知れなさ、それでいて、どうしても目が行ってしまう魅力がある。
本人は計画性がない、と言っているが、あえてしっかりとした枠を設けない事で、その時に出て来る瞬発力という力が表現として出て来るのではないだろうか。状況を、歴史を、常識を理解した上で、出してくる突破力は他に類を見ない。
瞬発力、突破力が効果的に出てくるのも、これまでの蓄積はもちろん、オールライトの社員を始め周りの理解や協力がある事も大きいとも感じた。周囲環境に合わせ力を溜めて出す方法は高田唯の言う「柔軟学」という言葉に集約されるのかもしれない。
今のオールライトの活動を見ると、ビッグクライアントの仕事が来るのも時間の問題のような気がする(とはいえ、どんなクライアントだろう)。さて、次の上海ではどんな展開が待っているのだろう。

トーク終了後、左から通訳の楊曇硯、渡部千春、アーロン・ニエ、(ポスターを挟んで)高田唯、オールライト代表取締役北條舞、綠光+marüte 運営者木村一心)

8月5日に手伝ってくれたスタッフの皆さん。東京造形大学のオープンキャンパスのTシャツを着てもらいました。