ライター渡部のほうです。
今回はなぜ高田唯展「形形色色」を台湾で行ったのか、その背景となる台湾、近隣アジアのデザイン状況についても絡めて書きます。
ほぼ自分のメモ用です。
今回は「だ・である」調で、高田唯は敬称略です。
今回、台湾台中で高田唯の個展企画(というか、言い出しっぺ)を手がけた私の順番からすると、以下のような理由がある。
高田唯のグラフィックデザイン、特にここ数年のもの、は直感的に響く人にはすぐ響くのだが、一般的に分かりやすいデザインというわけではない。にも関わらず、外国人が楽しそうに見ていたのはなぜなのか疑問に思った事。
高田唯が「海外で個展を開いてみたい」と言っていたのは、この前からずっと言っていたような気もするが、G8での展示を受け、より一層口に出していたような気がする。
2018年1月は家具デザイナー藤森泰司の展覧会が台北の田園城市生活風格書店内ギャラリーで行われ、ここでも多くの台湾人が訪れたのを目にした。
私が実際に足を運んだのは数が少ないが、個人レベル、ギャラリー単位でかなり多くの日本人デザイナーの展覧会が台湾で行われている。アートブックフェアやデザインイベントなどの出展者もカウントすると、相当数の日本人デザイナーやイラストレーター、アーティストが頻繁に台湾で作品を発表している。
2016年に遡れば『単位展』(2015年に21_21 DESIGN SIGHT で開催)が台北に巡回展を行っている。『単位展』は展覧会規模も大きく、台湾での会場(松山文創園區 五號倉庫)も有名スポットではある。とはいえ、大御所(もしくは超有名)デザイナーの海外展覧会のような「メディアでよく見るものの本物を見に行く」「お勉強のために」と言ったコンテクストとはやや離れたものではある。「美術館レベルのメジャーさではないけれど、好きな人は見に来る」という展示だ。
今度は若干先走りして、会期中にギャラリーで取っているアンケートの中の質問「好きな日本人デザイナーは?」の回答は幅広い。
現状集まったものから見ると、田中一光、原研哉、浅葉克己、仲條正義、長友啓典、佐藤可士和、葛西薫、KIGI、 色部義昭、水野学、立花文穂、田中義久、服部一成、祖父江慎、寄藤文平、脇阪克二、矢後直規、吉田ユニ、長嶋りかこ、中村至男、佐藤卓、大黒大悟など(順不同)。
日本人の美術系大学の学生でもこんなに出て来るのかどうか。台湾人のデザイン好きな人々はかなり日本のデザインも勉強していることが伺える。
受け入れ側である台湾がかなり大きく変化している。綠光+marüte のある台中は台湾の首都台北ではない場所で、主に日本人のアーティストを紹介しているギャラリー、とかなり珍しい場所ではある。
「ユニークな立ち位置が台湾で注目されることも事実で、毎回かなりの来場者があります。毎回の展示に足を運んでくれる方や作品を購入してくれる方が徐々に増えてきています」
と運営者の木村一心は言う。首都圏でなくとも受け入れる層があり、確実に増えている。
少し話を変えて、近隣アジアの変化も考えてみる。
例えば10年前であれば、近隣の東アジア圏で大御所とまではいかない日本のデザインを展示する場としては、香港が多かったように思う。デザイン文化のレベルが高く、かつ中国語と英語というメジャー言語を使用している事もあり、国際的にも通用するデザイン感覚を持ち合わせているため、香港=東アジア圏でのデザインハブ地という印象だった。
日本や韓国もデザインの感度は高いが、固有文化と固有言語があり、他国には理解されずらい難点があった。
ところが昨今、近隣アジア圏全体で優秀なデザインが一般レベルに普及してきている。また、個人規模での展覧会(個展やグループ展参加)は、東京、ソウル、台北、上海、北京、香港など、至る所に分散してきている。
言語が通じなくとも、グラフィックデザインという視覚言語、プロダクトデザインなら体験(同時に視覚的な効果もある)と、日本語、韓国語、中国語などを完全に理解せずとも理解できる別の「言語/コミュニケーションツール」がある。これはデザインの強みでもある。
このような近隣アジアのデザインを介しての交流は、デザイナーにとってチャンスとなりうる。行動範囲を広げる事で日本国内ではできなかった、思いつかなかったような仕事、考え方、作り方に出会える大きな機会になる。
高田唯も「海外で個展を開きたい」と思っていた。展示オープニングを終えた時、改めてなぜ海外でやりたいと思っていたのか聞いてみた。
「自分は言語能力がなくて、英語も喋れないような状況なんですが、そんな自分のデザインがどこまで通用するのか、どう見られるのかが気になった事。少し自分を苦しめるという、アーロンさんの考えと近い。また、そういった場所に身を置くことで、自分が何を思うのか知りたかった」
という答えが返ってきた。続けて、
「また日本のグラフィックを見過ぎて、少し飽きてきているのも理由の一つ。もっと目に刺激が欲しい。SNS で海外のグラフィック事情が見れるようになって、外に出てもっと見たい、という欲が出てきた。同時に、オリンピックも近づいて来ている。大学でも中国人が大勢いる。抗えないグローバル化の状況が身近にあるというのも理由としてある」
高田唯が言及したように、留学生に関する課題も今回の目的の一つだ。
高田唯も私も現在東京造形大学教員という職務にも就いている。うちの大学に限らず、アジアからの留学生は年々増している。現状は主に中国本土、韓国、台湾が多い。
それぞれの土地でデザイン精度が上がっているにもかかわらず、あえて日本で勉強したいと思う理由は何なのか。彼らは何を求めているのか。どのように指導すれば彼らの期待に応えられ、才能を伸ばす事が出来るのか。疑問は尽きない。
高田唯と私の希望と疑問を解消させるのに、他力本願では進まない。ここは一つ自力でやってみよう、と考えたのが、今回の高田唯展「形形色色」という結果になった。
自力とはいえ、全部自分たちの資金でやるには無理があり、今回は大学を通じて桑沢学事振興資金を使わせてもらった。このことで随分資金的には随分大きなサポートとなった。
場所として台湾台中を選んだのは、上記したように台湾と日本のデザイン交流が増している背景があり、近隣アジア及び他諸外国の中でも親和性が高い土地であり、綠光+marüte が既知のギャラリーで日本人の運営というやりやすさから。また同時に中国語圏、世界に広がる華人の中国文化圏へのアピールにも繋がりやすいためである。
展示はあと2週間ある。その間の反応も追い続けている。さらに高田唯は8月26日からは上海での個展も控え、ここでの反応も見てきたいと思っている。
次回はオープニングとトークイベントを終えた後の高田唯取材をまとめたものをアップします。