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「イラストレーターになりたい」について思うこと
ライター渡部のほうです。

大学の先生を始めて8年目。
大学説明会にも慣れてきたけれど、常に相談者(受験生)と一緒に悩んでしまうのが
「イラストレーターになりたい」ので、どの専攻で勉強するのがいいのか、
という相談。

「イラストレーターになりたい」という美術系大学や教育機関受験者は昔から多いし、おそらくこれは永遠に続くのだろうなあ、と思う。
今年も新潟市だったり学校内だったり、一昨日は名古屋で説明会と、何度か説明会をやっていて、やはり今年もイラストレーターになりたいという相談者が多かった。

思うところが理路整然とまとまっていないので、箇条書きに。

1)美術教育機関で学ばなくてもイラストレーターにはなれる。
 実際、数多くのイラストレーターがいる中、かならずしも美術教育を受けている人ばかりではない。絵は紙と鉛筆でも、パソコンでもスマホでも、どこでも描ける。描けば描くほど上達はする。
 昨今はネットでの発表媒体も多いので、アマチュアでもイラストを人に見てもらう機会もある。

2)プロのイラストレーターの仕事は厳しい
 美術教育がなくても、絵を上達させる方法はある。人に見てもらう機会もある。無料で仕事をするのであれば難しくはない。
 イラストでお金をもらいます、つまりプロになる、という場合は事情が異なる。クライアントの仕事内容を理解し、適切なイラストレーションを適切なサイズで、締め切りに間に合うように書き、都度やってくる修正にすぐに対応できるようにしなければならない。
 スピード勝負でもあり、体力勝負でもあり、特に仕事をやり始めの時はギャラがそんなに良くないけれど、それで生活できるような基盤を持っていることが大事。

3)美術教育を受けてイラストレーターの道に進むと幅は広がる(と、思う)。
 この辺は個人差があるけれど、例えば大学で4年間何らかの美術教育を受けて、その4年の間もしくはその後イラストレーターになった場合のメリットはある。
 うちの大学、東京造形大学、はイラストレーション専攻というのはないので、何らかの専攻に入りながら、ということになるのだと思うのだけれど、例えばグラフィックデザインを勉強していると、ポスターや冊子やウェブなど作りながら、どういう仕組みや流れで完成物が出来ていくかが把握できるので、その中でイラストレーションがどう活きるか、逆に言えばイラストレーションの活用法を理解できる。
 アニメーションであれば、キャラクターデザインや背景をどう使うと、どう動かすと魅力的になるのか、理解できる。
 メディアであれば、例えばゲームを作る時にどんなキャラクターや世界感が活きるのか、あるいはウェブサイトだったりスマホアプリだったり、さらにはもっと先を行くテクノロジーの中で、イラストを使うと効果的なのかそうでないのか分かる。
 テキスタイルではイラストを含めた図、パターンを布にプリントし、それがインテリアファブリックや衣服や小物など、他の応用物に変化する楽しみが分かる。
 絵画であればとことん突き詰めて考え、表現する作業を通して、表現力、画力を上げる事ができる。
 など。他の専攻でも色々応用発展能力が付くはず。

3-2)上の話はなんとなく説明会っぽい。
 大学教員という立場から言ってしまうとこうなる。

4)美術系教育機関に行くのに「イラストレーターになりたい」という動機はいいと思う。
 イラストレーターになりたい、という気持ちを持っている人はすでにイラストレーションを描いた事がある人であって、また、多くの人はすでに他の人に見てもらったりしている。イラストレーションのスタイルは様々だろうが、なんらかの図像でコミュニケーションを取れる人だ。
 好きなものがあって、それをすでに実現している、さらにその能力を活かしたい、できればそれを仕事にしたい、という希望を持っている人は強い。それが実現できるかどうかは誰も保証できないけれど、やりたい事があればそれに付随するもろもろを耐えて行くことができるだろう。

5)では何を勉強すればいいか。
 あくまで美術系教育機関に限った話で言えば、自分のイラストレーションに何を付加させたいか、になると思う。
 まだプロになっていない人のイラストレーションには何かが足りていないはず。例えば人間のプロポーション作りに変化が足りない、そこを重点的に突き詰めたい、となれば、これも例えばだけれど、彫刻で徹底的に人間塑像を作って骨格を理解する。バックの世界感が作れないのであれば、建築系でパース感や環境を理解するのもいいだろう。イラストレーションをもっと応用したいとなれば、3)で書いたような応用力を付けて行く。

 「イラストレーターになりたい」ので、どの専攻で勉強するのがいいのか、という相談。に対しての答えとしては、こんな事が考えられるのだけれども、イラストレーターを育成するために大学の教育があるわけではないので、入ってみたら考えていたものと違っていた、ということはあるだろう。そんな時は「違ってる」=「知らなかった事」として未知の世界を楽しめる能力があるといい。なかなか難しいことではあるけれど。


by dezagen | 2018-07-03 01:32 | その他
『これ、誰がデザインしたの? 続(2)』
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