ライター及び東京造形大学教員渡部のほうです。
「東京造形大学 山手線グラフィック展」について、今回はメインビジュアルの説明です。
前回、前々回と「です・ます」調で書いてましたが、どうも感想文っぽい感じがぬぐえないので、今回は客観的に書けるよう「だ・である」調です。
メインビジュアルは
車体(外側)に貼られるものが「山手線、お借りします。東京造形大学」のコピー、「山→手→線→色→形⇄造→山」がループしているもの、の2種。
車内では「山→手→線→色→形⇄造→山」の左に9種のコピーを加えた B3サイズ、左右にコピーを加えた B3ワイド1種。のバリエーション。
いずれも、薄いベージュを地色に、淡いグラデーションの掛かった円を起用している。
「この企画のステートメントポスターを作るにあたって、シンプルでやや抽象的な表現が良いと思いました。このメインビジュアルを作成した時は学生達の作品を募集段階で、おそらく百花繚乱なイメージがやってくるだろうと。そうした場所にはベージュがとスミだけのシンプルなポスターが合うと考えました。
円のイメージは、私がデザインを手がけた金子親一氏の写真集『TORSO』の中の球体表現から来ています。シンプルでかつ、東京の中心で円を描きながらグルグル回る山手線にはピッタリな気がしました」(永井教授、以下「」内はすべて永井教授)
シンプルなればこそ細部の造りが問われるもの。
このポスターにおける「シンプル」は単なる簡略化ではなく、要素を削いだ上で残された要素に力を入れている。その最たる部分はコピーの文字部分だ。
印刷物では分かる人にしか分からないのだが(その実、私は聞くまで分かってませんでした)、コピー文字の部分は活字を使用。とはいえ、活版で組んだのではない。いかにして出来たのか?
「文字に関しては、当初から活字で行くと決めていたのですが、関係者に確認を取るデザインを作る際に時間がなかったため、取り急ぎ自分の考える活字のイメージがあるフォント(ZENオールド明朝)で作りました。最終的にオーケーを貰った時には、活字を組んで貰って清刷りする時間がなく一旦は諦めていたのですが、最後の最後にどうしても活字の力が必要だと思ったのです」
という「最後の最後」という時間が、実は本当に最終入稿の前日。永井教授含め事務所のスタッフ4名総出で、過去に使った活版の清刷り(きよずり。写真製版された文字や図記号などのこと。手貼りの版下を作る際には切り貼りして使う)から、コピーに使う文字を、全てほぼ同じサイズの文字を、一文字一文字探していき、スキャン。そこから Photoshop で組み直した。
同じ書体の活字を、しかも同じサイズの文字を一文字一文字探していく、という想像するだけでも恐ろしい作業だが、実際に永井教授はこの作業が「戦いでした」と言う。
「終わって眺めてみると、明らかに堂々とした(もちろんコピーが良いからですが)ものに生まれ変わっていました」
先に書いたように、DTP用フォントと活版文字の違いは、分かる人には分かるのだが、分からない人には全く分からない。とはいえ、意識して見てみると、均一的に仕上がるデジタルでは感じにくい深さ、厚みが感じられてくるから不思議なものだ。
活版も極力均一に整然と組まれているわけだし、活字だからデコボコガタガタしているとかそういうことではない。恐らく、機械任せではなく、人の手が入ったことにより、意識的なのか無意識なのか人間の目の感覚に近い読みやすさを考えながら組んでいったからだろう。