ライター渡部のほうです。
このブログでは、宮後優子さんと私、共々、何度かmt(カモ井加工紙のマスキングテープブランド、言わずもがな、だけど)を取りあげている。私達だけでも何度取材したかきちんと数えられないので、検索してみた。なんと31記事。思ったよりもリストが長くなってしまったので、下に。
それ以外にも見本市などで見たmtの事を書いたりもしているので、かなりの追っかけ度だと思う。
今回は、2月16日にmtの初の路面店「mt lab.」がオープン、というビッグニュースを聞き、宮後さんと共に見せてもらいに行ってきた。http://www.masking-tape.jp/event/2017/01/mt-lab.html
場所は蔵前。間口2.7m、奥行15.7m、延床面積: 47.65平米の小さなスペースだ。
感覚としては、少し大きめの1人暮らし用マンションの1室、くらいの大きさ。やはり正直なところ「小さい」。しかしこれには意味がある。これまでmtのアートディレクションを務め、ショップのトータルディレクション及びグラフィックデザインを手がけたイヤマデザインの居山浩二さんに聞いてみると
「mt exなどテンポラリーなイベントでは幅広い層に向けたものになりがちで、よりコアな層、もしくは全くのビギナー向けといったトライが難しいのですが、固定した場所で店舗を持つことで、限定された小さな場ならではの振り幅のある展開が可能になります。テンポラリーなイベントと路面店、双方を運営していくことで、より豊かなブランド像を描けるのは、と考えています。元々は5年前に国立新美術館での「mt lab.」という企画展の名称としてあったものです。ショップのベースにある考え方は、その時と同じように「mtの新たな可能性を探っていく」こと。その思考と実践を更に深めていく「実験室」という意味で「mt lab.」と名付けました。」
つまり、ここは店舗であると同時に実験室でもあるわけだ。通常の商品に加え、他の店舗、イベントでは出ない実験的な商品も扱う。
カモ井加工紙の本社(倉敷)から運んできた、小型のテープ巻き取り機と断裁機。
業務用のマスキングテープ。色ごとに粘着の用途や強度が異なり、主に建築施工現場などで使われている。
右手の紫のテープは、塗料がつかないよう半透明のビニールがついたタイプ。左の白いテープは型抜きされていて、ステンシルの型紙として使うことができる。
右のクラフト色のテープは、昔のテープによく使われていた技術を応用したもので、mt lab. 限定販売。
さらに壁を使い、ミニギャラリーを併設している。

常に多くのお客さんが出入りする場所では、実験的な試みもやりにくいだろう。まずは小さな場所から可能性を探る、ということを大事にする、というわけだ。そのため、当面は予約制。木金土日の週4日で、1日15組までのお客さんを4回交代で受け入れる仕組みを取っている。
物の可能性を探るという点は立地選びにも表れている。路面店オープンの話を聞いた時に、すでに世界的にも認知度のある人気ブランド「mt」の路面店としては地味な(蔵前にお住みの方、すいません…)場所だと感じた。渋谷、青山、銀座などでもいいのでは?との質問には
「トレンド感が少なく、ものづくりを感じさせる町を意識していました。メーカーのカモ井加工紙さんの実直で真摯な存在感は、中心地的なエリアには似合わないとも考えていました。」(居山さん)
柄がきれい、かわいい、と言われるmtだけれども、これだけ発展してきたのも、もともとはマスキングテープを作り続け、その技術を磨いてきたカモ井加工紙のものづくり精神が根底にある。そうした意図も反映し、ミニギャラリーでのオープン第一企画は「養生展」。マスキングテープの原点に還り、mtではなくカモ井加工紙から出ている養生用テープを紹介したり、養生用テープを貼るのに長けた職人さんがmtを使って作る技などを見せている。
インテリアデザインを手がけたのはトラフ建築設計事務所。
イヤマデザインからのリクエスト「「実験室」であることが核。ショップ全体がラボラトリーのようなギャラリーのようなフレキシビリティを備えた場に」を受けて、床壁天井を白く。ただの四角い箱を均一に白く見せているのは、照明の技。「天井面の間接照明が奥行のある細長い空間を均質に照らし、空間全体をショーケースのように見せている」(トラフの店舗説明より)
店に行った方には是非注目してもらいたいのが、入って左側にずらり300種類以上並ぶ、筒型のディスプレイ。

「商品ディスプレイ側の壁面には、アクリルパイプとステンレスの受け皿を組み合わせて製作。実験器具のようなmt専用の筒型ショーケースで、豊富なラインナップを見せる。」(トラフの店舗説明より)
mt専用の筒型ショーケース、コレクターは欲しくなってしまうかも。。。(実際、私が欲しい)

ショップオープンも楽しい話なのだが、もっと楽しみにしているのは、固定したショップ/実験の場を持つ事によって、産まれてくる今後の製品や新しい考え方。最初、地味、と書いてしまったが、ものづくりの町蔵前にあることでこれまでにない素材や技法が産まれてくるかもしれない。期待は膨らむ。
なんだか盛り盛りの内容になってしまった。
mtに関する話は、聞く度、見る度、面白く、つい全部を伝えたくなってしまう。