編集宮後です。
今回はずっと書きたかったテーマ「海外の独立系デザイン誌」です。
特にタイポグラフィ関係の雑誌には、少部数ながら、
非常に凝ったつくりもの、自分たちで資金を集めているもの、
デジタルと紙媒体をうまく融合させているものなど、
これからの雑誌づくりのヒントになるような試みをしている媒体があります。
まず、ご紹介したいのは昨年創刊された新しいデザイン雑誌『Works that Work』。
https://worksthatwork.com/
書体デザイナーで、自身のタイプファンダリーをオランダで運営している
ピーター・ビラクさんが創刊編集長をつとめています。
雑誌のコンセプトは、「Magazine of Unexpected Creativity」。
日常にあるけど今まで知らなかったクリエイティブに目を向けて
丁寧に紹介しています。
デザイン雑誌というよりは、クリエイティブな視点から
身の回りのおもしろいことを伝える雑誌といったほうがあっているかも。
商業誌ではなかなかできないアプローチが新鮮です。
(ちなみに書体関連の記事はなく、いくつかタイプファンダリーの広告が入っています)
こちらがその雑誌の写真。
表紙は廃材?をひもでぐるぐるっと巻いただけの椅子なんですが、
「板をこんなふうに巻いただけで椅子にもなる」という
新しい視点を気づかせてくれるビジュアルとして象徴的に使われてます。
(ってここまで意味を読み解くのがむずかしくもあり、楽しい)
(Works that WorkのPress用画像を引用)
インドの都市、ムンバイで弁当を職場まで運ぶ人の話(毎日35万食が運ばれている!)、
戦場のシェフの話、ミラン・クンデラの翻訳者の話などなど、
内容はかなり多岐にわたってますが、興味深い話が多く、知的好奇心が満たされる感じ。
B5判80ページで、PDF版が8ユーロ、紙版が16ユーロ、両方買うと20ユーロです。
本文書体にはビラクさんのファンダリー「Typoteque」のフォントを使用し、
紙版では折ごとに紙を変えたりと、デザインにもかなりこだわっています。
私が興味をもったのは、新しい資金調達のありかた。
ビラクさんはこの雑誌制作資金約300万ユーロを募金で集めてます。
創刊前には特設募金サイトができていて、「いくらいくら募金してくれたら
あなたの名前を雑誌に載せます」とか「編集長とランチできます」とか
募金額に応じてさまざまな特典がつけられていました。
雑誌制作過程を紹介したプロモーションビデオもウェブで見られ、
読者と一緒に雑誌をつくっていこうという姿勢がよかったです。
(ビデオの最後にマジ顔で「need your help」って言うのがかっこいい)
「読者と一緒に」という姿勢は、
「ソーシャルディストリビューション」と名付けられた
雑誌の新しい販売方法にも表れています。
雑誌を応援したい、もっと広めたいと思った読者が
出版元から定価の半額で雑誌を仕入れ、近所の書店に7〜8がけで卸し、
売ってもらうという新しい販売のスタイルです。
次は、イギリスのデザイン情報ウェブサイトDezeenが創刊した
3Dプリンターの専門誌『Print Shift magazine』。
http://www.blurb.co.uk/b/4176869-print-shift
文字通り、3Dプリンターでつくられたアートやデザイン、建築などを
紹介するというクリエイター向けの雑誌で、オンライン版がメイン。
紙版を希望する人には、注文が来た分だけオンデマンド印刷で刷って送るんだそうです。
必要部数だけオンデマンドで印刷するというのは、ほしいものを1個からつくる
デジタルファブリケーションの思想を反映しているようで興味深いですね。
60ページですが、読み応えは十分。
雑誌ってこれくらい短くてもいいんじゃないかと思えたりします。
最後は、書体専門誌の『8 faces』。
http://8faces.com/
「8書体しか使えないとしたら、どの書体を選ぶ?」
という質問を書体デザイナーになげかけ、
彼らが選んだ8書体とインタビューで構成された本です。
こちらもデジタル版(PDF)と紙版、両方売っているんですが、
紙版は印刷加工にすごく凝っていて2000部限定販売なので、
毎回あっという間に売り切れてしまいます。
先日最新号がでたばかり。ウェブから購入するので
次号刊行のお知らせがメールで自動的に送られてきます。
そういえば、Baseline magazineも毎回、雑誌印刷時に出る
ヤレ紙(試し刷りした要らない紙)でノートをつくって売ったり、
いろいろ工夫してましたね。
これからの新しいデザイン雑誌は、英語+母国語のバイリンガル表記で、
PDF版はウェブから販売、紙版は限定販売にしてプレミア感をつけるっていう
売り方が読者ニーズにあっているような気がします。
先日も大学生がつくった独立系ファッション雑誌が話題になったように、
新しい時代や思想にあった新しい媒体が待ち望まれている気がしてなりません。
そういう雑誌をぜひ読んでみたいです。