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アジアのメンタリティに則したデザインのありかた
先日、元日経デザイン編集長の勝尾岳彦さんと打ち合わせ中の話。
会話を要約すると以下のような話である。

「バウハウスを基礎とするデザイン教育を受けて(ちなみに勝尾さんは東京芸術大学卒。美術系大学の教育方法は身をもって体験している)、ドイツのような洗練されたプロダクトがよし、と学んだデザイナー達がとても多いのに、デザイナーの美学(それが美と言うのであれば。あるいは習慣化してしまった思考方法、信念とも言える)を好むのはほんのごく少数で、実社会のエンドユーザーが選ぶのは異なっている。
花柄の家電(中国や東南アジア圏で健在)、走り出しそうな炊飯器、ボタンが複雑な電子レンジ、要らないところにカーブのあるプラスチック製品もろもろ、そしてキャラクター付き○○といった製品群。」

これらのものが買われていくのは、それらが安価であるから選ばれている、という説もある。飽きやすいデザインを安く売っていくことで、製品のサイクルを早く回そうというメーカーの魂胆、という説もある。
だが、それだけではないだろう。
同じ予算を持っていても、ピンクでパール仕上げのカメラを選ぶ人もいるだろうし、キャラクター付きトースターを選ぶ人もいるだろう。むしろ、そのほうが多いような気がする。

会話要約の続き。
「シンプルな、言い換えればバウハウス的な、冷蔵庫を買ったとしても、そこにマグネットが付きシールが貼られ、ユーザーはカスタマイズしていく。ドイツやイタリアの超洗練されたキッチンが、(よほど優秀なお手伝いさん、メイドさんがいるか、潔癖症でもない限り)1年後、2年後同じ状態であるのを見たことがない。
キッチンユニットと調和しない電子レンジやトースター、鍋釜、キッチンウエア、洗剤、スポンジ、その他もろもろが浸食してくる。
こうした傾向は世界的なものではあるが、不調和でも新しい調理機器やその他の道具類を持ち込んでいく、製品に装飾をし自分だけのカスタマイズ化していくのは、アジア圏に圧倒的に多い。
人口が増えていくアジアのメンタリティに則したデザインのありかたを、今一度見直すべきではないか」
云々。

むろんアジアといっても、東西南北の気候風土の違いや、国・地域ごとの宗教・政治、生活習慣の違い、収入による層の違いは様々ある。
ただ、傾向としてヨーロッパは比較的システム化された、規格化された、グリッド的なところに従順であるのに対し、アジアはそれ以外の何かに魅力を見いだしている、とは言える。
(南北アメリカ、アフリカ大陸に関してはまだリサーチ不足。中近東はまだリサーチが必要だが、工業製品に対する考えとしては概ねヨーロッパに近い

経済が急速に発展したがゆえに、中産階級層が増え、生活用品や家財は伝統、機能より、新しさやステータスシンボルの意味合いが大きいため、デザインが多少不調和(と、考えるのはこれまたバウハウス的デザイン教育の名残)であっても、その時々に最新で良いと感じられる気分や、装飾性が重んじられる、とも言われる。

だが、経済成長が過去ほどではなくなっている日本はどうか?
持っている物がステータスシンボルという意味は、他アジア諸国に比べればかなり薄い。だが、その時々に最新で良いと感じられる気分で買っている、選んでいることには変わりなさそうだ。

話が逸れるが、私は実家に戻る時、げんなりしてしまうことがしばしばある。
私のマンションにあるユニットバスよりもお金が掛かっているであろうバスルームは、基調色はアイボリーで、改装した当初は美しかった。だが、そこにピンクの湯桶が置かれ、黄色のスポンジが置かれ、表がピンクで裏が水色のスポンジっぽい樹脂製のマットが置かれ、シャンプーとコンディショナーとボディソープには油性ペンで「シャンプー」「リンス」「ボディーソープ」と手書きされている。
キッチンのディテールは省こう。あまりにも生々しい話になってしまいそうだ。

ドイツ人デザイナーでウルム造形大学の創始者の1人であったオトル・アイヒャーは、生前、サインデザインは文字情報がなくなり、アイコン/ピクトグラムだけで示せるようになるべきである、と唱えた。
アイヒャーの予測は当たり、ヨーロッパ(特に北部)の空港は文字情報が非常に減ってきている。アイコン/ピクトグラムと数字(+ABCなど番号代わりに使われるアルファベット)に取って変わり、さらには自国の文字はほとんど出さず、英語だけの表示にしている場も多い。

アジアの空港はどうか。
成田、羽田、ソウル、シンガポール、クアラルンプール、バンコクなど、ここ数年で見た空港では、文字情報が減るどころか、むしろ多言語化(現地語、英語、中国語は基本で、たまに日本語)してきている。
これはアイコン/ピクトグラムよりも言語のほうが、即座に理解され、誘導しやすい現状を反映してのことだが、ひょっとすると、この多言語標記はいつまでも続くかもしれない。
というのは、そもそもアジア人は規格化されすぎると居心地よく感じないのではないか、と考えているからである。

ミニマル、シンプル、規格化、ドイツ/スイスデザインに好感を覚えている私なのだが、最近ウィーンに行った際、
ドイツの入浴剤tetesept と
アジアのメンタリティに則したデザインのありかた_b0141474_1958045.jpg


スイスのヘアケア用品Rausch
アジアのメンタリティに則したデザインのありかた_b0141474_19581389.png


を買い込み、バスルームに並べて見たところ……なんだか寒々しい。
バスルームなので暖かいのだが、視覚的に整然としすぎて、寒い。
実家に倣って、油性ペンで「バスソルト」「シャンプー」とか書きたい気分だ。
by dezagen | 2013-04-14 20:02 | プロダクト・パッケージ
『これ、誰がデザインしたの? 続(2)』
渡部千春著、デザインの現場編集部編
美術出版社刊
04年以降の連載記事をまとめた2冊目の書籍。連載で紹介したアイテムのほか、名作ロゴやパッケージ、デザインケータイなどを紹介。
 
これ、誰が書いているの?
 
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