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2006年 12月 12日
林雄司インタビュー(1)、読書傾向と『やぎの目ゴールデンベスト』編集方針について
絶大な読者数を誇るものの「どう書籍化していいかわからない」(!?)という理由から、まとめられることのなかった「webやぎの目」の「やぎポエム」。ユニークな視点で世界を”傍観”し、引き締まった文体でそれをスケッチするコラムはファンが多いが、これまでの著書『死ぬかと思った』等に見られるわかりやすい企画性はない。しかし、いま一冊の本にまとめられた『やぎの目ゴールデンベスト』を読むと、企画性ではなく「テキスト」こそが何よりも価値があることにあらためて気づかされる。この本に込められた作者と編集者の思い、やや難解ともいえる「こだわり」などについて話を聞いた。
【お話を伺ったのは】 林雄司:はやしゆうじ 1971年生まれ。会社員のかたわら1996年から個人サイト「webやぎの目」を運営。圧倒的な読者数を誇り、サイト内から書籍化された本は『死ぬかと思った』シリーズ、など多数。現在勤務しているニフティ株式会社では今年のWeb of the Yearでエンターテインメント賞の3位に入賞した人気サイト「デイリーポータルZ」のウェブマスターを務めている。 【取り上げた本】 『やぎの目ゴールデンベスト』林雄司/アスキー 1,300円 (税込) 掲載期間8年間、約5000本という膨大な「やぎポエム」の中から、特に面白いものを抜き出したコラム集。200字程度の短くひきしまった文章は、エッセイでもコラムでもない独特のジャンルを拓いている。 林雄司文体のルーツとは ――今日は林雄司さんの特に文体についてお伺いしたいんです。イメージとしてはWeb本の雑誌に連載中の「作家の読書道」みたいに、小さい頃の読んでた本の話とかを語っていただいたり……。 林:『やぎの目』の文体も初期は“ですます調”で、ちょっと今と違うんです。「東京トイレマップ」とか読みかえすと、すごく恥ずかしい。ここは受ける、というポイントは太字にしてあったり。 ――そうなんですか(笑)。 林:本当に消し去りたい。ただ、98年ぐらいからは、今みたいなスタイルですね。1行どうでもいいことを書いて、ハイフンを3つ書いて(---)、次に本文を書くっていう……って、こんなちっちゃな話でいいんですかね。 ――いいんです(笑)。この本は、ジャンルを特定するのが難しいですよね。小説だと超短編といった呼び方ができるけど、ものすごく短いコラムというほかなくて、あんまり類似品がない。 林:穂村弘さんの『にょっ記』のまねをしました。 担当編集杉原(以下、杉原):してないです! その前から書いてるじゃないですか。 林:まぁ、まねはしてないですけど、ネタが短くてもいいんだなって、『にょっ記』には勇気付けられました。あれはいい本です。 ――林さんの文体のルーツというのはあるんでしょうか? 林:まあ、文体は、宮沢章夫とかが大好きなので、彼の影響じゃないでしょうか(笑)。小さいころ読んでいた本といっても……『ドラえもん』とか、中学の頃に、星新一や筒井康隆で……。 ――その頃のショートショート読書経験が心の底に沈殿していて、大人になって短いコラムを書くようになった……って、どう考えても無理矢理こじつけようとしているな(笑)。 林:高校生のときは村上春樹や高橋源一郎読んで、マンガだと吉田戦車や、相原コージ……って、本当に普通だな。 ――文章は書いたりしてました? 林:漫画は描いていて、相原賞に応募したりしてました(笑)。でも同人誌とかミニコミ経験は全然ないですね。 ――ハードボイルドというといい過ぎなんですが、林さんの文体って、ドライというか、結構きりっとしてるって思うんですが。 林:確かにべったりした本はあんまり読まないですね。『ごんぎつね』とか『二十四の瞳』みたいな感動ものとか、心理描写の多い小説って学校の教科書によく載ってて、ちょっと格好悪いなってイメージがありましたね。あんまり好きじゃなかった。教科書に載っているものでは寺田寅彦の随筆みたいなのが好きでしたね。学校といえば、作文とかで「思ったことを書きなさい」というもの嫌いで。 ――思ったことを書くのって大人になっても難しいですよね。 林:大抵の感情はすでに誰かが書いているんですよね。だから、別に僕が書かなくてもいいかなって。 編集方針は「サブカルコーナーに置かれない本」 ――今回収録されたコラムは、過去8年間のデータから選ばれたんですよね。どうでした? 膨大な量の自分の文章を読み返してみて。 林:すごくつらかったです。ああ、いきがってこんなことを書いちゃってとか、よく吐いているなぁとか、そんな自分の歴史が辛い(笑)。最近、お酒が弱くなったなぁって思ってたけど、いま読み返してみたら強い時期なんかなかった。あと、同じことが何回も書いてあってがっかりしました。携帯をお尻に入れといたらメールが送られてたとか、2~3回繰り返していて。 ――そんなことが浮き彫りになったと(笑)。 林:でも、自分で読んでみて、コラムが一番面白かったのは2000年ごろですね。その後は下降線をたどっている(笑)。あの頃は、ちゃんと普通の会社員らしい仕事をしていて、そのストレスがいい感じに出ている気がします。 ――掲載は日付順でもテーマ別でもなく、わりとランダムに並べられている印象ですが、このあたりの配置でこだわった点はありますか? 杉原:面白い順じゃなくて、面白いコラムが適度な頻度で出てくるように編集しましたが、特に法則はないんですよ。一応、ラストは終わり感が出るようなしみじみとしたネタにはしてるんですけど。 ――編集期間はどれぐらいだったんですか。 林:ぼくが8年分のコラムを読む作業を全然やらなくて、申し訳ないと思うぐらい遅れたんです。何しろ5000本くらいあって……。 ――5,000本! そのうち何本抽出されたんですか。 林:250ぐらいだったと思うんですけど。 ――林さんの本にしては、イラストが意外と入っていないですね。 林:僕はすぐ全部のコラムにイラストで注釈付けようとか言っちゃうんですけど、杉原さんが全てその辺は「やめよう」と。そんなことすると、よくある林が書いた本みたいな感じになって、サブカルコーナーに置かれちゃうからって。 杉原:この本はいわゆる「イロモノ」ではなくて、本当に内容だけで勝負してる作家の本なんだという体裁は崩したくなかったんです。企画ものとか、ブログ本みたいな扱いをされる内容ではないという気持ちが強かった。ただ、社内では反対意見もありましたよ。やっぱりネット発の人なんだから、その実績を全面に出してみればという、ごもっともな指摘もされました。 林:でも、結局サブカルコーナーに置かれていますけど(笑)。ここ数年、デイリーポータルみたいな表向きには役に立つサイトとか、企画性の高いことをしなきゃみたいなことを思ってたんですけれど、杉原さんはわりと意味がなくても文章の面白いものをのせようと言ってくれて。僕はつい豆知識みたいなのをやりがちなんです。そういうのがないと不安で。 ――企画性がなきゃいけないムードってブログの世界にも漂ってますよね。人気ブログを作ろうマニュアルも必ず「テーマをしっかり」みたいなことが載っているし。ずーっと鳥の話を書けばいいみたいな感じで。 林:よく考えたら、僕らが子どものころ読んだ本って、企画性がない本っていっぱいあったはずなのに。ただ、別にあのコラムはテーマなしでいこうと思って書いてわけではなく、『やぎの目』のほかのコーナーが「死ぬかと思った」とか、「寝てる人」とか明確な企画にのっとって作られているので、そこからこぼれるようなことを書いていただけなんです。 ――今回の本は、叙情派な林さんの部分が全体的に結構強く感じられましたね。ちょっと遠い視線というか。そのあたりも編集方針のせいかもしれません。タイトルについては結構悩んだのでしょうか? 林:全然(笑)。 杉原:ベストヒットみたいな感じで、と私が言ったら、じゃあゴールデンってつけようって林さんが……。 林:確か家にあった野口五郎のCDが「ゴールデンベスト」っていうタイトルだったんで、それをただそのまま言ったんじゃないかな。やっぱり僕が考えるとサブカルっぽくなっちゃうんですけど、なんかダサい感じで、ヒットスタジオとかミュージックフェアみたいな、感じがいいと思って。 ――それって編集者さんが狙った作家性とは…… 林:ちょっと違うんですけどね(笑)。 >第二回に続きます。
by books_special
| 2006-12-12 13:01
| インタビュー
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