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2006年 08月 23日
演劇的なフォトエンターテインメント『マカロニキリシタン』とは
まるで舞台を見ているような錯覚に陥る不思議な写真集が出版された。過激で、荒々しくて、生々しく、だれにも似ていない作品。今なぜ、このような手法で撮影されたのか。作者が訴えかける写真に対するメッセージとは? インタビューで問いかけてみました。
【お話を伺ったのは】 薄井一議:うすいかずよし 1975年東京生まれ。H/PRODUCT’S所属。現在は主に広告写真の分野で活躍中。2005年 日本広告写真家協会「日本の広告写真2005」において最優秀賞を受賞するなど、気鋭の写真家としても注目を集めている。 【取り上げた本】 ![]() 『マカロニキリシタン』薄井一議/美術出版社、 4,410円 (税込) 東京を舞台に非常に演劇的な手法で撮影された「マカロニ キリシタン」と「跳ぶ人」、キューバ、LA、フィリピン、中国などで”個人的記録”として撮られた「モンドトラッショ」の3章からなる写真集。その斬新な手法と表現力で早くも話題の作品集。 「写真」に対する疑問から生まれた作品集 ![]() ――この写真集は制作期間10年ということですが、このようなある種、演劇的ともいえる作品を撮り始めたきっかけは? これらの作品を取り始めたきっかけは、今置かれている写真と言う立場への疑問からです。 僕が思うに、写真の悲しい所は被写体に寄生しているということ。ファッション写真は服に寄生し、風景写真なら自然に寄生し、もちろん広告写真は商品に寄生して行かなくては成り立たない。 その中で写真は記録としてしか成り立たないのだろうか。写真が独立し、写真から発信出来るものがないのだろうかと考えました。 そして、僕は今の東京という素材を、寄生するのではなく利用して写真を創りたいと思いました。それが「マカロニキリシタン」です。 これは、十字架を背負ったキリストをストーリーテラーにし、現代の東京を記録するという“フェイクドキュメンタリー”。キリストはモデルですが、それ以外は生の人々です。新宿のホームレス、原宿でおどり狂うロカビリー、山手線の満員電車のサラリーマン。東京のドキュメンタリーの中に一滴“虚”の要素を垂らすとどう反応するのかという実験でもあるのです。 ――モデル等の協力もあるようですが、薄井さんの作品に共感して参加してくれた人たちというのはどれくらい、いるのでしょうか? また作品を作る際に、台本など作られたりするのでしょうか? 「マカロニキリシタン」に関しては、すべて僕の知人で固めています。キリストは友人のザックドルビーが演じています。 彼はザビエル調の顔をしていて、いつかキリストにして何か創りたいと考えていました。彼はとてもセンスある人間で、僕が1指示すると、10返してくる。良い言葉で言えば天才的で、悪い言葉を使うとコントロールするのが難しい破天荒な人間。だからこそ僕の頭にある以上の写真になり、枠にはまらない力強い写真になった。 また、スタッフも、僕、ザック含めて3人もしくは4人で行ったのですが、楽しかったですね。ぶっ飛んでて。山手線のラッシュアワーの中のキリストを撮影したのですが、あれは僕が網棚の上から撮影しているんです。僕たちクルーは原宿から乗るのですが、もうその時点では、すでにラッシュなんです。で、浜松町で一回きれいに空きます。その時点で僕が網棚に乗って、混むのを待ちます。 一番混みそうな日を狙い、月曜日に撮影したのですが、ビジネスマンの方々に失礼があってはいけないので、僕含めスタッフはもちろんスーツ。池袋あたりから混み始めるのですが、隣の車両はギュウギュウなのに、僕の真下はガラガラなわけです。でも次の駅あたりで僕の真下も人が来て、撮影開始です。でも引きずり降ろされましたね。新宿で。駅員に。その時点では2本撮れていたので写真的には全然問題は無かったです。 ――ゲリラ的な手法を取られていたんですね(笑)。 新宿西口のホームレスの撮影も印象的でした。その撮影に向けて僕は朝4時から一週間リサーチを続けました。それで分かった事は、西口の改札を出て右側と左側とで、派閥がある事。そしてホームレスの世界にも上下関係が存在し、それぞれにボスがいる事です。僕が撮影したボスは京王線側の段ボール据え置き型の派閥のボスで、元やくざの佐々木さんです。佐々木さんはとても男気ある人で僕がこの作品のコンセプトを熱く語ると、彼側の派閥では、どこでも撮影する事ができました。もう一つの派閥ではだめでしたね、金払えの一点張りで。また、週に3回、朝4時に食事の炊き出しに来るのですが、その前に十字架を置き、それに集う人として撮影しました。 ――「跳ぶ人」は、モデルの躍動感もすごいですね。 ![]() 「跳ぶ人」では、トランポリンのオリンピック選手、中田大輔氏に出演してもらいました。「跳ぶ人」のアイデアは、東京の空から人が降ってくると言うイメージから生まれたので、それを表現する方法論として最終的に、トランポリンに行き着きました。 しかし、それには実際、街の中で高く跳ばなくてはなりません。また、街中では地面も斜めだったり、安定していない所も多く、安全にかつ、上手く跳べる人でなくてはなりませんでした。そこで、日本トランポリン協会の協力を得、トランポリン全国大会にモデル探しに出かけたのです。その大会で一番高く、美しく跳んでいたのが中田さんでした。彼の跳びは別格なほどダントツでしたね。実際撮影の時は、やはり中田さんは美しく跳んでしまうので、あえて形をくずして、落ちて来た感じを出して撮影しています。 心象風景ではない、エンターテインメントを求めて ――「マカロニキリシタン」と「跳ぶ人」は東京を舞台に撮影されています。ここで薄井さんが表現したかった東京とはどのようなものでしょうか? 両作品とも、現代の東京をそのまま表現したかった。 「跳ぶ人」では街のたたずまい、建築物を記録したかった。その前を人が降ってきていると言うフェイクの世界が展開されていますが、20年後30年後には、90年代の東京という街の記録になっていると思います。 「マカロニキリシタン」に関しては、撮影をして作品が出来てから分かったのですが、街にいる人々が、いわゆるアウトサイダーとされる人の方が生き生きしている。感情が伝わってくる表情をしていますね。一般の人々の方が目に生気が無い感じがしました。それが今の東京なのかなぁ、とも思います。 ![]() ――「モンドトラッショ」では、「異物」としてのご自身を投下されていますが、その手法を思い立った経緯は? またそれによって実現した表現とはどのようなものだとお考えですか? 「マカロニキリシタン」「跳ぶ人」が東京だったのに対して、世界に幅が広がったのが「モンドトラッショ」です。先の二つの作品は入念に計算されていますが、こちらは、世界の国々に立ったその場での空気感で即興で撮影しています。 撮影した国は、キューバ、LA、フィリピン、中国。それぞれの国、土地に、代々息づく生活があります。その中に“異物”としての僕が一滴、入る事によってまた、写真に化学反応が起きるわけです。 なので、これまでの作品の“フェイクドキュメンタリー”という考え方は変わっていません。でも、その場での即興という手法を取っている事で、僕自身も緊張しながら、自身を試し、より自分のクリエイティブの範疇を超えた物を引き出そうとしています。 写真家は“計算された偶然性”と言うものを、より上手くコントロールできるかだと思います。 ――「写真」という概念におさまらない作品が多いのですが、ご自身が特に影響されたアートについて教えてください。 僕の写真に一番影響を与えているのは、音楽です。音楽はクリエイティブの“間”の取り方を教えてくれます。 僕はクリエイティブとはプラスとマイナスのバランスがすごく大切だと考えています。 カッコ良すぎるものは、ある程度、度を超すとダサくなります。一歩引ける余裕が必要だと思うのです。 良い音楽にはそれがあります。最近は”Gotan Project”を良く聴いているんですけど、これは伝統的なタンゴにエレクトロを加える加減のセンスが好きですね。”DJ Shadow”の「Organ Donor」の様にオルガンのダークで儀式的なイメージを、少しスクラッチを入れる事で、威厳を保ちつつ、ストリート感を出している所はこの写真集を作る上で相当影響を受けています。それと、初期の“Massive Attack”のダークなんだけどヒップホップの要素がある所とか好きですね。『マカロニキリシタン』の装丁をしてくれた森本千絵さんには、このCDを渡して、「こんな感じでお願いします」ってオーダーしました。 ――では、最後に、薄井さんが写真という手段を使って表現することの大きな目的や達成したいことは何でしょうか? 僕は写真をエンターテイメントの一つだと考えています。音楽や映画と並ぶ存在だと思うのです。気分が落ち込んだ時に、音楽を聴いたり、映画を観る様に心の動くものが、写真にも、もっと有っても良いと思うのです。 今の多くの写真には、作家の心象風景みたいなワンウェイのアウトプットが多すぎる。青くて淡い写真が流行れば、みんながそちらに行ってしまう。音楽や映画の中に数多くのジャンルが有る様に、写真の中にも観る人への選択肢がもっと有っても良いと思うのです。今回の僕の写真集は男が創る、男の為の写真かもしれない。この写真集を観て心を振るい立たせてくれる人が出て来たら嬉しいですね。 (2006年8月)
by books_special
| 2006-08-23 11:36
| インタビュー
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