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2006年 07月 11日
柴田元幸『バレンタイン』ロングインタビュー vol.2
数々の翻訳を手がけてきた柴田元幸さんが、初の小説集を発表。前回に引き続き、本作品についてお話を伺っています。(インタビュー・構成=平林享子)
【お話を伺ったのは】 柴田元幸:しばたもとゆき 1954年東京生まれ。東京大学文学部教授。専攻はアメリカ文学。現代を代表する翻訳家のひとり。エッセイ集に『生半可な學者』『死んでいるかしら』『舶来文学 柴田商店』『猿を探しに』など。訳書は、ポール・オースター、スティーヴ・エリクソン、スティ-ヴン・ミルハウザー、スチュアート・ダイベックなど多数。メルヴィルから現代までのアメリカ文学を論じた『アメリカン・ナルシス』で’05年サントリー学芸賞受賞。 【取り上げた本】『バレンタイン』柴田元幸/新書館、 1,050円 (税込) 「バレンタイン」で始まり「ホワイトデー」で終わる14の短編集。結婚して25年になる妻のロボットが壊れる「妻を直す」。夜中の台所でいつも幽霊に遭遇する「午前三時の形而下学」。ある日突然、時間が昭和に逆戻りする「ホワイトデー」など、リアルとシュール、ホラーとコメディが入り混じった妄想ワールド! >>試し読みもできる新書館の情報サイトはこちら 今の自分は「なにかのまちがい」 ――子供の頃の記憶が主要な題材になっているんですが、それだけではなくて、子供時代と現在、ロンドンに留学していた頃など、いくつかのパラレルワールドがあって、そこでは分身たちの人生が続いていて、それぞれの人生がときどきクロスする感じも繰り返し書かれていますね。 今、51歳の僕の中にも、10歳の自分や20歳の自分がいるし、30歳、40歳の自分もいるし、いろんな自分が同居してるっていう感じはずっと前から持ってるんで、そういう感じを書きたいっていうのはありました。51歳の自分が現実に外に出ているからといって、これが一番リアルかっていうと、そうは思えないんですよね。 ――「卵を逃れて」では、舞台の上にいる「僕」が観客から卵をぶつけられ、「映画館」では刺し殺されたり、とにかく痛い目に遭う話が多いですね。 要するに、自分が生きていることが実感できない、納得できないというのがあって。それは『死んでいるかしら』というエッセイの頃からよく書いてますけど、「君はもう死んでるんだよ」って言われたら、「あ、そうか」って納得するだろうって。今の自分は「なにかのまちがい」だという感覚があって、それと関係あると思うんだけどな。エリクソンの『Xのアーチ』みたいに、エリクソン自身が出てきたと思ったらあっさり殴られて殺されちゃうのは、いいな、リアルだなと思って。そういうふうに終わるのが一番しっくりくるんですよね。 ――以前からエッセイで、人生を棒に振る話が好きだとお書きになっていましたが、それとも関係あるでしょうか? やはり柴田さんの小説も人生棒振り物語が多いですね。 大学の教師になって、東大教授になって、翻訳やエッセイの本を出して、今こうしてインタヴューを受けたりしている自分は、やっぱり「なにかのまちがい」だという気がするんですね。「ホワイトデー」でも書いてるんだけど、自分の働いたお金で家を建てたなんてことも、なんか信じられなくて。ある日、帰ってみたら元の平屋に戻ってたって、そんなに驚かない。「やっぱりな」って思うだろうなと。世界が自分に対して善意で接してくれてるのが、いまだに信じられないんですね。人生の最初の35年くらいは基本的に、世界は自分に対して無関心だったのが、だんだん親切になってきて、仲良くしてくれるようになって、「なんかのまちがいじゃないか」「どこかでツケが回ってくるんじゃないか」という思いがあって、それをこういう形で出すことで、ガス抜きしてるような気持ちがあるんじゃないでしょうかね。 ――厄払いのようなものでしょうか(笑)。もうひとつ感じたのは、もっとも身近にある最大の謎というか、日常に潜むホラー、サイコサスペンスみたいなものとして奥さんの存在は大きいのかな、と。「ウェイクフィールドの微笑」はもちろんそうですが、「妻を直す」も、ホーソーンの「ウェイクフィールド」の柴田さん流の翻案だと思ったんですが、ご両親の描き方を見ても、夫婦の関係というものに関心があるのかなと。 いや、「妻を直す」は、本当に留守番電話が壊れて、ファックスが壊れて、次に何が壊れるかなって思って家の中を見回したら奥さんがいた、っていうだけですから。人間関係にあんまり興味がないんですね。短編で精一杯で、これ以上長いものを書けないのは、人に興味がないからでしょうね。「ウェイクフィールド」も、夫婦の関係よりも、ウェイクフィールドが浮かべた狡猾な微笑は何なのかっていう、男の心理のほうに目が行ってますね。ホーソーンは、僕が一番しっくりくる、自分で書けたことにできるならしたい作品を一番書いている作家。自分がそこにいて生きているという実感を持てなかった人ですよね。 次回のvol.3完結編へ続く。
by books_special
| 2006-07-11 10:10
| インタビュー
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Comments(1)
Commented
by
yumemi
at 2006-07-11 21:17
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柴田さんのファンとしてロングインタビューが読めて嬉しいです。
今日、柴田さんはお誕生日なんですよね。Happy Birthday!
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