S-Project レポート

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カテゴリ:プロジェクトについて( 11 )


2012年 06月 13日

土地の記憶を共有するために

「街路のような建築」というコンセプトについて、別の角度からもう少し考えてみたい。通常、街路は建物の「外」で、建築はその「外」を遮断することで内部を形づくる。特に近代建築は内部と外部を厳密に区分し、内部を均質化することを目指してきたともいえる。本来は「外」である街路を建物のなかに取り込むことは、両者を隔てる壁を低くすることを意味する。
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©Office of Ryue Nishizawa

敷地内にある桜の樹は以前から近隣の人々に親しまれていた。桜の樹をめぐる人々の記憶は土地が持つコンテキストの一部であり、桜の樹を残すことはその記憶を受け継ぐことなのだ。建物が建つ以前に人々が愛でていた風景と同じではなくても、それを喚起でき、しかもそれまでと同じように人々が気軽に訪れることができる場所であること。このような方向性を踏まえると、街に対して開かれたギャラリーを核とした「街路のような建築」は、よりリアルな姿をもって私たちの前に現れてくるように思える。(鈴木布美子)
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photo by Office of Ryue Mishizawa

by S_Project | 2012-06-13 10:40 | プロジェクトについて | Comments(0)
2012年 06月 07日

植物と建築

「S−Project」では建物を貫く桜の樹のほかに、さまざまな草木が建物に個性を与えている。植栽はこの建物を構成するうえで欠かすことのできない要素のひとつだ。
地表部分では桜の樹を囲むように植えられた草木があり、さらに上層階のスラブ上にもパブリックな庭が設けられている。植栽のベルトが下から上へと緩やかに連なることで、「立体的な街路」という建物の基本的なイメージがより明確になる。
また建物の敷地内と敷地外、プライベートゾーンとパブリックゾーンの境界に植物を配することで、両者が隔てられつつも繋がっているような関係性が生まれる。開かれた場としての建築のあり方にとっても植栽は重要な役割を果たしているのだ。(鈴木布美子)
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©Office of Ryue Nishizawa

by S_Project | 2012-06-07 16:30 | プロジェクトについて | Comments(0)
2012年 05月 07日

須田悦弘とのコミッションワーク

今回、コミッションワークを依頼しているアーティストのひとりに須田悦弘がいる。彼が手がけているのは、リアルな彩色を施した原寸大の草花の木彫。東京の原美術館や直島のベネッセハウスには彼の作品が常設展示されている。それらの作品は場所という文脈を注意深く読み解くことで成立している。ある空間内の、うっかりすると見落としてしまいそうな場所に、本来ならそこにあるはずのない草木があたかも自生してるかのように存在する。観る側にとっての空間的な体験となる発見や小さな驚きが、彼の作品をいっそう魅力的なものにしているのだ。(鈴木布美子)
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今回の「S-Project」では植物の選定を含めて作品の制作を依頼。須田はまだ工事が始まる前の建設予定地を訪れ、地面を覆う植物をつぶさに観察し、写真に記録した。こうしたリサーチを経て制作された作品は、完成した建物内のある場所に設置される予定だ。photo by T. Fujiwara

by S_Project | 2012-05-07 10:07 | プロジェクトについて | Comments(0)
2012年 05月 01日

アーティストとの打ち合わせ

「S-Project」では完成した建物内にいくつかの現代アート作品を設置する予定だ。アーティストには建物の概要やコンセプトを説明し、そこに相応しい作品を提案してもらう。このようなコミッションワークでは、あらかじめ作品のサイズや設置場所、設置方法などについて設計サイドと作家が細かく打ち合わせておく必要がある。作品と設置スペースの関係、電源などの事前準備、メンテナンスやセキュリティの問題など、検討しなければならない項目は意外と多い。(鈴木布美子)

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ケリス・ウィン・エヴァンスは言語や知覚をテーマにしたコンセプチュアルな作品で知られるイギリスのアーティスト。来日したケリスに西沢さんが模型を使って建物の概要を説明している。
photo by T. Fujiwara

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ミラノ在住の廣瀬智央はアルテ・ポーヴェラの流れを汲むアーティストで、日常的なモノを素材に知覚と詩的なコンセプトが織りなす作品を数多く発表している。「S-Project」では透明なアクリルを使った立体作品を製作する予定だ。西沢事務所との打ち合わせにはギャラリストの小山登美夫も参加。
photo by T. Fujiwara

by S_Project | 2012-05-01 11:23 | プロジェクトについて | Comments(0)
2012年 03月 30日

斜めの建築

「S-Project」の設計案を最初に目にしたとき、まず驚いたのはスラブに水平ではない部分があることだった。動線の一部が一定の斜度のスロープになっている建物というのは、ル・コルビュジエのサヴォア邸やライトのグッゲンハイム美術館のような例を思い出せば、経験的に理解できる範囲内だ。しかしスラブの一部が不定形の斜面になっている内部空間となると、体感的にはなかなかイメージしにくい。おそらくそれはもはやスロープというよりは、起伏を伴った地形のようなものとして体感されるはずだ。そうした建築のなかに身を置くとは、いったいどのような経験なのだろう。

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©Office of Ryue Nishizawa

こうした疑問に対してひとつの回答を与えてくれたのが、SANAAの手掛けたロレックス・ラーニングセンターだった。これはローザンヌのスイス連邦工科大学ローザンヌ校の敷地内にある学生会館、図書館、食堂などを兼ねた施設だ。竣工から間もない2010年の秋に現地を訪れてみると、そこには想像していたよりもはるかに素晴らしい空間があった。斜いた床のあちらこちらで、座ったり、寝転んだりしながら、それぞれの時間を過ごす学生たち。一般的には斜面は登るものか降りるものとしてイメージされるが、ここではむしろ「滞留する場」として使われているのが新鮮だった。

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Photo by T.Fujiwara

フランスの建築家クロード・パランが書いた「斜めにのびる建築」は、 斜面の持つ建築的な可能性を論じた先駆的な論文(発表は1970年)だ。ポール・ヴィリリオの盟友でもあるパランは斜面に硬直したモダニズムからの開放の可能性を見いだした。斜面は人の身体感覚を覚醒し、空間に対する認識を変容させる。そして斜面の活用という建築的形態の冒険は、資本主義的な均質空間(=モダニズム)の専制に対するアンチテーゼとして位置づけられた。

パランの時代には技術的ユートピアの域に留まっていた斜めの建築は、 その後のテクノロジーの急速な進歩によって実現可能なものとなった。しかし皮肉なことに、現代の斜めの建築はグロバリゼーションの時代を迎えた新しい資本主義を象徴するものになっている。今の時代において、斜面を内包した空間の典型はショッピングモールなのだ。確かにそこでのスロープは人々の身体と意識に覚醒を促す。「立ち止まってはいけません。前に進みなさい。そしてもっと消費しなさい」と。こうした斜面の持つ性格を露悪的に誇張してみせたのがコールハースだとも言えるが、SANAAのローザンヌはそれとはまったく別の可能性を感じさせてくれる。移動のための斜面が効率性と消費のメタファーだとすれば、滞留する斜面はそれらには還元できない体験の質を生み出しているのだ。それが新しい文化の孵化器として機能したとき、私たちの「S-Project」は成功したと言えるのかもしれない。(鈴木布美子)

by S_Project | 2012-03-30 09:38 | プロジェクトについて | Comments(0)
2012年 03月 12日

構造設計家・佐々木睦朗さんとの共同作業(その2)

構造に関して西沢事務所は設計当初、鉄板の耐震壁の可能性も考えていた。しかし佐々木さん(佐々木睦朗構造計画事務所)との最初の打ち合わせで、ランダムに配置されたRC壁とRCのフラットスラブという構成が決まり、可能なかぎり薄くしたスラブを最小限の構造体で支えるために鉄骨柱をあわせて用いることになった。

西沢事務所と佐々木事務所によるスタディでは、まず最初に模型と図面で全体のイメージを共有し、RC壁や鉄骨柱の位置や大きさを協議していった。例えばRCの耐震壁については佐々木事務所からX方向、Y方向にそれぞれ、どのくらいの大きさの壁が何枚必要、といった指示があり、その条件を西沢事務所がプランにおとし込む。そしてそれを両者で細かく調整をしていく、というのが基本的な流れだ。

その調整だが、意匠サイドがクライアントや設備設計との打ち合わせなどを踏まえてプランを変更すると、その都度、構造サイドによる調整が必要となる。またプランだけではどうしても解決できないところは、構造サイドに他の方法を考えてもらう。このように両者がキャッチボールのように話し合いを重ねながら、着地点を探していくわけだ。そして形態がある程度まで決まると、今度は3次元CADによるモデルをもとにした詳細な構造解析が行われ、その結果が再び意匠設計にフィードバックされる。

全体的に寸法がとてもシビアな建物のため、こうした調整には煩雑な検討作業が避けて通れない。柱の位置ひとつをとってみても、構造上必要とされる位置が、デザイン上でも問題がないとは限らないのだ。なかでも大変だったのは1階のギャラリー。最大約8メートルのスパンの空間だが、ここを柱を落とさないための梁と構造壁の検討には多くの時間が費やされた。

最終的には詳細な構造解析を何度も行ってもらいつつ、構造と意匠、設備を調整して、全体を統合していく。軽やかに見える建物のイメージを支えているのは、地道で実践的な作業の繰り返しなのだ。(鈴木布美子+松井元靖/西沢立衛建築設計事務所)

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ギャラリーに柱をおとさないための梁と周辺の構造壁を検討中の模型写真。この段階では、2階に梁を出した場合を検討している。©Office of Ryue Nishizawa

by S_Project | 2012-03-12 10:00 | プロジェクトについて | Comments(0)
2012年 03月 06日

建築構造家・佐々木睦朗さんとの共同作業

建物を構造的に成立させるためには構造エンジニアの協力が不可欠だ。「S-PROJECT」では佐々木睦朗さんに構造設計をお願いした。西沢さんと私たちが合意したスタディ模型は、構造的にはまだ成り立っていないものだ。次のフェーズでは、この模型を出発点に、佐々木さんと西沢事務所が、構造スタディを繰り返すことになった。

佐々木さんは西沢さんやSANAAとこれまでも数多くの仕事を共にしてきている。そのため西沢さんがやりたいことを理解したうえで、構造的な提案を行っている。特に「S-PROJECT」では「豊島美術館」のようにひとつの原理的な構造によって建物全体や空間のイメージが決まるのではなく、構造計画によって具体的なデザインにどれだけの自由度が与えられるかに力点が置かれている。

「S-PROJECT」の構造は、鉄筋コンクリートの壁と鉄骨柱の混構造だ。もともとスラブと細い柱を基本要素として発想された建物なので、地震力に耐える壁は構造計算を踏まえた必要最小限の量になっている。当初の建物のイメージにはない「壁」をどの程度まで西沢さんが許容するのか。佐々木事務所は長年の経験をもとに壁の大きさや場所を決めていったという。(鈴木布美子)

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西沢事務所が佐々木さんとの最初の打合せ前に送った模型写真。建物の透明なイメージが強調されているが、構造的にはまったく成り立っていない。©Office of Ryue Nishizawa

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佐々木事務所との1回目の打合せの際に用意した模型。西沢事務所のほうで平面計画をもとに壁をランダムにいれている。©Office of Ryue Nishizawa

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佐々木さんとの打合せ後すぐに、打合せ内容を反映させてつくった模型。全体のバランスを考慮して壁が配置され、上下階で連続したものになっている。©Office of Ryue Nishizawa

by S_Project | 2012-03-06 11:27 | プロジェクトについて | Comments(0)
2012年 02月 28日

スロープの建築

建物の具体的なデザインがほぼ確定したのは2010年の初夏。この段階では構造的な整合性はまだ完全ではなく、この後に細かな修正・変更を繰り返して最終的な基本設計案に到達した。

桜の樹を囲むスラブが傾きながら連続的に積層し、スラブはスロープや階段で結ばれる。そしてスラブの間に挟まるようにさまざまなかたちのスペースが設置され、それらがギャラリーや多目的室、住居などになる。

この案を最初に提示されたとき、まず驚いたのはスロープの大胆な使い方だった。ある意味、これはル・コルビュジエから始まる「スロープの建築」の21世紀版なのではないか。そんな想いが脳裏をよぎった(鈴木布美子)

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基本設計の最終案に近い模型。各スペースの配置や構造、設備などの全体の計画を検討している。©Office of Ryue Nishizawa

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真横から見ると、スラブが水平でないことがよくわかる。©Office of Ryue Nishizawa

by S_Project | 2012-02-28 00:14 | プロジェクトについて | Comments(0)
2012年 02月 14日

100個を超えたスタディ模型

土地の購入は2008年の夏で着工は昨年末。その間の3年半近い時間の大半は基本設計に費やされている。最終的な決定案に至るまでのプロセスは試行錯誤の連続だ。膨大な量のスタディを繰り返し、与えられた条件に対してどのような建物が考えられるかを徹底的に精査していくのだ。

スタディは桜の樹と建物の関係(桜をよける/取り込む)、建物のボリューム感(ボリューム感を出す/出さない)、スラブの積層のバリエーション、居室の内外の連続性など、実にさまざまなファクターについて行われた。いったん基本設計が完了して実施設計に入っても、よりよいアイディアが見つかれば、基本設計に逆戻りしてスタディをやり直すこともあった。

この段階でスタッフが制作したスタディ模型の総数は優に100個を超えるという。今回はそのなかから6個の模型を西沢事務所に選んでもらった。(鈴木布美子)

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桜の樹をよけて、一体感のある山形のボリュームをつくる案。この模型では、山形をどのように分割できるかも検討している。©Office of Ryue Nishizawa

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山形ボリューム案の発展形。メッシュを外壁に用い、半屋外のような場所をつくる。©Office of Ryue Nishizawa

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これも桜の樹をよける案。ギャラリーを分棟にして、それとは別にタワー状のボリュームを建てる。©Office of Ryue Nishizawa

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ギャラリーを低層部にもってきたタワー案。各住戸のためのにわ(温室)を建物の中につくる。四角いボリュームの中に、ギャラリー、住戸、にわを配置していく。©Office of Ryue Nishizawa

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さまざまな形や大きさのプレ―トが散らばりながら積層する案。プレートと関係なく部屋が配置され、上下階が連続的に繋がることで部屋ができあがっていく。屋外のにわの配置の仕方や仕上げのバリエーションもスタディしている。©Office of Ryue Nishizawa

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最終案のバリエーションのひとつ。スラブに開けた大きな孔で桜の樹を建物に取り込む。いくつもの孔の開いたスラブが傾きながら積層し、街路のように連続していく。©Office of Ryue Nishizawa

by S_Project | 2012-02-14 13:31 | プロジェクトについて | Comments(0)
2012年 02月 04日

街とつながる建築をつくる

西沢さんは、今回の建物のプログラムに、集合住宅的な部分を持ちながら、集合住宅を超えたものになる可能性を感じたという。近所の人々に愛されている大きな桜、そして一般に開かれるギャラリーがあり、パブリックアート的なコミッションワークの作品展示も予定されている。そこから、いわば公園のような、ある種の穏やかな公共性を持った空間が生まれるのではないか、というのが西沢さんの考えだった。

こうして生まれたのが、スラブをスパイラル状に積層させるという設計案だ。桜の樹を取り囲むように、ほぼ敷地いっぱいに孔のあいたスラブが積み重なる。そして各スラブはところどころで階段やスロープによって繋がり、空間全体がスパイラル状に立体的にのびていく。この緩やかなスパイラルに沿って、ギャラリーや住居、オフィス、多目的スペースなどが、桜の樹を巻き込みながらプロムナード的に連続していく。とても開放的で、桜の樹と建築、周囲の環境がひとつのものして感じられるような案だ。

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建物のイメージ図。 スラブがスロープ状に連続する。 ©Office of Ryue Nishizawa

街と建物が分断されるのでなく、ひとつながりのものとして感じられる建築をつくるという発想は、十和田市現代美術館などにも見られた。今回はそれをスラブの積層というまったく違う表現のなかで実現させるわけだ。

by S_Project | 2012-02-04 08:43 | プロジェクトについて | Comments(0)