S-Project レポート

blog.excite.co.jp/S-Project
ブログトップ | ログイン
2012年 03月 30日

斜めの建築

「S-Project」の設計案を最初に目にしたとき、まず驚いたのはスラブに水平ではない部分があることだった。動線の一部が一定の斜度のスロープになっている建物というのは、ル・コルビュジエのサヴォア邸やライトのグッゲンハイム美術館のような例を思い出せば、経験的に理解できる範囲内だ。しかしスラブの一部が不定形の斜面になっている内部空間となると、体感的にはなかなかイメージしにくい。おそらくそれはもはやスロープというよりは、起伏を伴った地形のようなものとして体感されるはずだ。そうした建築のなかに身を置くとは、いったいどのような経験なのだろう。

斜めの建築_c0231905_923127.jpg
©Office of Ryue Nishizawa

こうした疑問に対してひとつの回答を与えてくれたのが、SANAAの手掛けたロレックス・ラーニングセンターだった。これはローザンヌのスイス連邦工科大学ローザンヌ校の敷地内にある学生会館、図書館、食堂などを兼ねた施設だ。竣工から間もない2010年の秋に現地を訪れてみると、そこには想像していたよりもはるかに素晴らしい空間があった。斜いた床のあちらこちらで、座ったり、寝転んだりしながら、それぞれの時間を過ごす学生たち。一般的には斜面は登るものか降りるものとしてイメージされるが、ここではむしろ「滞留する場」として使われているのが新鮮だった。

斜めの建築_c0231905_924563.jpg
Photo by T.Fujiwara

フランスの建築家クロード・パランが書いた「斜めにのびる建築」は、 斜面の持つ建築的な可能性を論じた先駆的な論文(発表は1970年)だ。ポール・ヴィリリオの盟友でもあるパランは斜面に硬直したモダニズムからの開放の可能性を見いだした。斜面は人の身体感覚を覚醒し、空間に対する認識を変容させる。そして斜面の活用という建築的形態の冒険は、資本主義的な均質空間(=モダニズム)の専制に対するアンチテーゼとして位置づけられた。

パランの時代には技術的ユートピアの域に留まっていた斜めの建築は、 その後のテクノロジーの急速な進歩によって実現可能なものとなった。しかし皮肉なことに、現代の斜めの建築はグロバリゼーションの時代を迎えた新しい資本主義を象徴するものになっている。今の時代において、斜面を内包した空間の典型はショッピングモールなのだ。確かにそこでのスロープは人々の身体と意識に覚醒を促す。「立ち止まってはいけません。前に進みなさい。そしてもっと消費しなさい」と。こうした斜面の持つ性格を露悪的に誇張してみせたのがコールハースだとも言えるが、SANAAのローザンヌはそれとはまったく別の可能性を感じさせてくれる。移動のための斜面が効率性と消費のメタファーだとすれば、滞留する斜面はそれらには還元できない体験の質を生み出しているのだ。それが新しい文化の孵化器として機能したとき、私たちの「S-Project」は成功したと言えるのかもしれない。(鈴木布美子)

by S_Project | 2012-03-30 09:38 | プロジェクトについて | Comments(0)


<< 基礎配筋      講演会のお知らせ >>