アイスランド音楽名盤:ビョークもはまったメガス |
今回は硬派というか音楽マニアック話です。どうも音楽をイメージ先行で扱えないため、売り方が下手だと言われるけど、音楽がいかにファッショナブルであるとか癒されるとか(結果的にそうであることは構いませんが)、そういう聴き方が苦手なもので・・・。 アイスランドの歴史的名盤20枚の第三位に、Megas & Spilverk Thjodanna のs『A Bleikum Nattkjolum』が入っている。首位がシガー・ロス、二位がビョーク。本来は二位のビョークの話が先かもしなけれど、ビョーク前にメガスのことを取りあげます。 ------ アイスランドの外に出てしまうと全く知られていないアイスランドの二大名アーティストが今日のお題であるメガスとブッビ・モルテンズだ。別の表現をすれば、ビョークやシガーロスを知らないアイスランド人がいても特別に珍しくもないけれど、アイスランド人でメガスやブッビを知らない人に会ったら、私はたまげる。 彼らはそれだけ大きな功績があり、社会的に衝撃を与えた文字通り偉大なアーティストなのだ。ではなぜ彼らが国外で知られることがないのかといえば、それはとても単純なことで、海外に出て活動しないのと、アイスランド語以外では決して歌おうとしないからだ。 メガスがいかに偉大かということは、アイスランド語が理解できないと真には理解できないらしい。なにせ、ノーベル文学賞を受賞したアイスランド人作家ラクスネスの次に、文学的に素晴らしいと絶賛されるほどだし、その内容もまた非常に過激であるとか。 メガスの信望者は数多くその代表がビョークでもある。ビョークがいかにメガスに心酔していたかといえば、彼女はメガスのバックボーカリストだった。シュガー・キューブスで大活躍し始めた後も、とにかくメガスの仕事だけは極力続けた。それも妹のインガと共に。バック・ヴォーカルを務めるビョークが入っているMegasのアルバムは3枚存在する。それからあくまでも噂ではあるけれど、ロック歌手のご多分に漏れずドラッグとアルコールで廃人のようになってしまったメガスに、アパートを買い与えたのが彼女であったとか・・・。 また、ブッビ・モルテンズもメガスを師匠と慕い、歌詞を書くとメガスに見て貰い、彼の意見を求めるという。私はメガスにサインを貰ったことがあり、アイスランド語を理解する友人に見せたところ、私の名前のユーカに、飛ぶという単語のフルーガという言葉をかけ、非常に巧みな言葉遊びでサインをしてくれたという。 ここでいきなりボブ・ディランの話をしなければならない。私は特にディラン・ファンというのではないけれど、ディランがいかに偉大なアーティストであるかを嗅ぎ取ったのは、確か高校生の頃だった。私はメインストリームのアメリカン・ポップスが大好きで、カーペンターズの解説を全部書いていることでもお分かりの通り、正直なところポップス一辺倒だった。西海岸系はマニアックに追っていたけれど、それもメインストリーム・ポップの延長上のお勉強にすぎなかった。 ディランは60年代に一世を風靡したアーティストであり、私がポップスを聴き始めた頃のディランは小休止状態だったと言ってもいい。でも、彼の初来日が決定した。あれは78年頃だったろうか。カレン・カーペンターの歌声が命だった私に、ディランのだみ声は「どこが音楽?」という印象ではあったけれど、そのだみ声の中に異様なほどの迫力と威力を感じたことも確かだった。手放しで好きな系統の音楽ではなかったものの、向学心が出て、武道館で彼を見ることにした。そこで予習として、当時話題になっていたアルバムを何枚か聴いた。確か『欲望』と『Hard Rain』だったかと思う。あのダミ声に慣れる必用はあったし、カーペンターズのように口当たりがいいものとは全く異質でも、その中に詰まっていた感情は、言葉の理解力に欠けていたとはいえ、当時の私の胸を打った。 商業的な成功を見据えて工業製品のように作り出された音楽というのは、その場ではよくても、結局はどことなく虚しく感じるようになる。お手軽なハンバーガー屋のように、急場しのぎにはなるけれど、本当の満足感が得られない。 表現は旨くないが、ディランには母親がにぎってくれた塩ニギリのような、充実感があった。 メガスを最初に聴いた時、「アイスランドのディランだ!」と思った。こういう感想がアーティスト本人にとって良いか悪いかは別として、実際、歌い方や節回しがディランっぽい。本人は真似たつもりはないらしいが、言葉の力に頼ると、万国共通あのような歌い方になるのかもしれない。 言語が理解できず本当に残念だが、以来私はメガス・ファンだ。音楽的にディランほど冒険をすることはないが、メガスの声が持つ魅力はディランと比べられて当然と思われるところがある。これはもう、実際に聴いてもらうしかないのだが。 1977年に発表されたこのアルバムは、メガスとフォーク・ロック・グループのスピルヴェルク・ヒョウダナのコラボで、アルバムのタイトルは『ピンクのガウンを着て』というものであるという。ギターを中心としたアコースティックな響きのサウンドの中に、メガス特有の節回しに彩られたヴォーカルが光る。現在のメガスのシンギング・スタイルが固まる前のものであり、ある種のさわやかさが漂うヴォーカルで、その響きだけを聴くのも私は好きだ。 60年代後半から70年代にかけて、アメリカの西や東のシンガーソングライター系を丹念に聴いていた音楽ファンであれば、特にこのアルバムでのメガスはたちまち気に入ることだろう(=私自身がそのひとり)。特に歴史的名盤の第三位に選ばれたこのアルバムは、全般的に軽いアコースティックで口当たりも良く、時々音楽的に面白いヒネリがあって聴き応えがあり、「名盤」と太鼓判を押されるだけの内容の濃さと普遍性がある。 現在、CDで復刻された盤には、アウトテイクスが10曲も入ったお得なアルバムで、アイスランド人でもなければメガスのアルバムを20枚も集める必用はないけれど、このアルバムはぜひ逃してほしくない。復刻アルバムは現在入手可能。いくら名盤とはいえ、ずっとこれが入手できるとは限らないので(アイスランド国内諸事情により)、ピン!ときた人は、早めに入手することをお勧めします。 このアルバムが発売当時から世界に出ていたなら、復刻が続く70年代のAOR系名盤と同等かそれ以上の扱いを受けるべき作品であり、アイスランドという小さな国の中だけにその評判がとどまっていたことが残念だ。アイスランドが誇るべきにして誇るアーティストの名盤中の名盤で、こういった名作が少しでも日本の耳の肥えた音楽ファンに届いてくれることを心から願ってやまない。 (小倉悠加) アイスランドの名盤で未知の音楽体験を↓バナーをクリック! |
by icelandia
| 2006-07-17 18:48
| アイスランド音楽名盤紹介
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