ヨーナス・センとメゾソプラノのビョーク・カバー。アイスランドでのビョークを知る解説に悶絶?! |
アイスランドから出てくる音楽が本当に面白いなぁと思う大きな要素に、ジャンル分けがゆるいというのがあります。それがポピュラー音楽だと割合わかりやすいけど、クラシックでも起こっていることが、とても愉快! 特にこのアルバムはビョーク・ファンは一聴の価値ありです。 『Langt fyrir utan ystu skoga』 Aggerdur Juniusdottir http://icelandia.shop-pro.jp/?pid=36465108 これはメゾソプラノ歌手のアウスゲルズルと、ビョークのツアーでもお馴染みのキーボード奏者ヨーナス・センによる作品で、アイスランドの音楽に多大な影響を与えた作曲家のカバー曲集。というか、前衛的な試みをしてきた作曲家3名をフィーチュア。 その3名とは、Bjork Gudmundsdottir (平たくはビョーク)、Gunnar Reynir Sveinsson、Magnus Blondal Johanssonで、収録全17曲中の7曲がビョークの作品。 3名ともにそれぞれ影響力が異なるけれど、やっぱり気になるのはビョークですよね。 ビョークの作品は、ヨーナスが彼女のツアーでキーボード奏者をしている間に40曲以上をキーボードでアレンジして、そのアレンジがこのアルバムにも使用されています。 私も武道館で『ヴォルタ』のツアーを見ましたが、確かにヨーナスのキーボードだけで歌った曲がありましたっけ。そういった演奏がこのアルバムにたっぷりと使われているので、ビョークファンは必聴でしょう。 今、これを書きながら「All is Full of Love」を聴いていますが、とてもシンプルで、(ビョークらしからぬ?)可愛らしくロマンチックな音使いが印象的。メゾソプラノも、オペラチックを抑えたもので、ポピュラーファンにも聴きやすく、いつもとは違った角度からビョーク作品の魅力を知ることができます。 ビョークにはいつか、ヨーナスとのアコースティック・ライブをぜひお願いしたいなぁ。このアルバムを聴くにつけ、そんな希望というか願望が刺激されます。 さて、この先から長くなりますが・・・。 私は日頃からアイスランドのあれこれの音楽を聴いているため、あぁ、あのメロディね、という旋律がこのアルバムでも多くあります。ただ、メロディは知っていても作曲家についてはよく知らなくて、解説を読んで「へ〜」と思ったことがいくつか。 そんな中でこの3名の共通点が、ジャンルにとらわれず、革新的なことを試み続けた作曲家であるということ。 クラシックの解説は長くて専門的な話が多く、正直言って退屈して読み飛ばすことも多いけれど(ごめん)、この解説はかなり端的にパキっと書いてあり、その点すごくありがたい。解説はアイスランド語と英語を併記。 そんな中、ビョークの解説がアイスランドならでは!という内容で非常に面白い。面白いというか、アイスランド国外のビョークのファンは、椅子から転がり落ちるような衝撃かもしれません。 例えば、彼女の経歴を紹介した後に出てくる文章は、「アイスランドでのビョークが知られているのは一にも二にも歌手としてであり、最も売れたアルバムは『Gling Glo』。このアルバムはジャズ・スタンダードのカバーアルバムで、ビョーク作曲の作品は一曲も収録されていません」 どひゃぁ〜、マジですかぁ。ね、転けるよね!一番売れたのが『ホモジェニック』でも、『セルマ・ソング』でもなく、『ヴォルタ』でも『ヴェスパタイン』でもなく、『グリン・グロー』かいな?!ーー腰が抜けそうになります。はい。 そして続く解説には、「アイスランドでビョークの曲として最もよく知られているのが、「Bella simamaer!(電話交換手ベラ!)」です」とあります。 またまたどひゃぁ〜、マジで「ハイパーソング」じゃないのぉ?「ヨーガ」でもないのぉ?「イゾベル」でも、オリンピックに使われた「オーシャニア」でもなく、「ベレベラベラベラ♪シンママエル♪」かいな・・・ その感覚が私にはわかんなすぎて、気が抜けてしまいました。文化差とはいえ、ビョークのファンの方、いかがでしょう?アイスランド人にしか書けない解説文!! アイスランドで感じるのは「ビョークは外人受けする商品」であること。そしてアイスランド国内の音楽評論家も「ビョークは異端。国内で本当にビョークを理解してる音楽ファンは一握り」と言い放ちます。はい、アイスランド国内でのビョークの人気というのは、国際的な人気に比例していないのが実情です。 我々(外人)は、ビョークは最先端を試みる、真に芸術的なことをやっている一流の、本物のアーティストだと見ますが、一般のアイスランド人から見るビョークは、訳が分からないことをやる変わった人。 もちろんこの解説ではそうは書いていませんが、そういうアイスランドの一般人のビョーク観を、この解説文がよく表しているなぁと思うのです。 で、解説の続きは「しかしビョークは単なるシンガー以上の存在です」と ビョークを正しく評価しようと試みます。 「一般のアイスランド人がビョークの曲を知らないのは、ほとんどの場合、それが決まったカテゴリーには属せず、音楽の世界で起こっている異なる動きの境目にあるからなのでしょう。彼女の歌の多くはエレクトロニック・サウンドと、遠い国からのアコースティック楽器を組み合わせ、一風変わった魅力を持つ音の世界で特徴付けられます。その中には実験的な曲もあり、シュトックハウセン、メシアン等の現代音楽の先駆者の影響を聴くこともあるでしょう。そのような音楽は、すぐにリスナーを虜にするというものではありません」 なーるほど。 「ビョークの音楽は一般のポピュラー音楽よりも複雑で、メロディ・ラインが歌を包む楽器のみで奏でられることもあります」etc というような感じで、解説が続きます。 アイスランド人が勇んで飛びつかないのと同じ理由で、 国際的には音楽ファンがビョークに飛びついてるんですけどね。 で、それはそれでいいのですが、よく考えてみるとこのアルバムも、メゾソプラノというクラシック歌唱のアルバムにしては異端。クラシックでもないし、アイスランドの伝統音楽でもないし、ポピュラーでもないし、所属場所の定まらない作品で、ジャンルなし。つまりは、メゾソプラノ歌手としては、取りあげた作曲家に負けず劣らず異端の作品なのでは。 が、これは彼女の初めての試みではなく、以前にも『私の世界とあなたの世界/Minn heimur og þinn』http://icelandia.shop-pro.jp/?pid=438904という企画をやって、これがとても評判がよかったので、その続編でもあることでしょう。ん?この企画って・・・。 この作品の主役であるメゾソプラノのアウスゲルズルは、ビョークが11歳の時に始めて書いたという『Kjarval』という曲にこのアルバムで詩をつけたションの奥様のはず。ちなみにKjarval(キャルヴァル)というのはアイスランドの美術の父。私も大好きな画家です。 2008年10月の経済崩壊時に、なぜか私は奇妙なランチに呼ばれ、そこにいた人のひとりがションでした。それで彼が私に「妻が音楽家で、素晴らしい企画のアルバムがあるので紹介したい」と言っていたのが奥様の前作のアルバム。・・・というのを何だか思い出した。これがそれに関するブログ。 話が飛んで長くなりましたが、要はこのアルバム、いろいろな角度から楽しめます。解説を読まなくても、音楽だけでも充分に素敵です。それから、ビョークのファンはマジに聞いておいた方がいいですよ。ヨーナス・センのこのアレンジで、いつかビョーク姐御がこういった歌を披露するかもしれないし。(小倉悠加/ Yuka Ogura) ビョークのTシャツ等アイスランド土産を放出中!↓ |
by icelandia
| 2011-11-02 23:53
| アイスランド音楽名盤紹介
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