はじめて飲食店に「
他店偵察」という行為があることを知ったのは、小学生の頃。漫画『
包丁人味平』を読んだ時だ。
カレーライス専門の屋台を始める主人公の味平が、上着ジャケットの内側に何本もの
牛乳瓶を縫いつけ、あちこちのカレーショップに出向いてはルーをひとさじすくい、
こっそり持ち帰る。そして持ち帰ったルーを焦したり、水やお湯に溶かしたりしながらスパイスの調合を研究する。
このシーンは子供心にショックを受けた。「ちゃんとお金を払ってカレーを頼んだのに、なんでルーを持ち帰るだけでこんなに
必死なの?」。
最初、このシーンの意味が判らなかった。
無知も甚だしいが、周囲に飲食店など一軒もない田舎に住み、外食の機会など年に数回しかなかった僕は、「
隠し味」「
門外不出」などという概念があることを、まったく知らなかったのだ。味平の鬼の執念もさることながら、「料理人が他店の味を研究することは、これほど
命がけのことなんだ」と初めて知ったのである。
成人してタウン誌の編集をやるようになってから、飲食店は「名店と呼ばれる店は必ず他店偵察をやっている」されど「他店から偵察に来られるのは困る」という
二律背反のなかで成り立っている職業だということがわかってきた。
ある焼き鳥屋の大将は、別の焼き鳥屋に入るなり「あなたには、
皮とつくねはお出しできません」と言われたという。同業者にとって、このふたつを食べられてしまうのは
脅威であるらしい(逆に言えば、皮とつくねを頼めば、
その店のレベルが判るということ)。
大将は、こうも言った。「自分が同業者であるということがバレたのは、きっとこの店の主人が
自分の店に偵察に来たからだ」と。なんか、スゴイ世界……。
しかし門外漢ゆえ呑気なことを言わせてもらうと、「他店から偵察に来るってことは、それだけ『
おいしい』
ってことじゃないの?」。だから偵察に来られることは、むしろ喜ぶべきでは。我々ユーザーは、そうやってレベルがあがっていってくれれば、これほど喜ばしいことはないのである。こんなことを言ってお店の人からは「そんな甘いもんじゃない!」と怒られそうだが、
甘味も大事ですよ。
これは我がホームベース『
高円寺』駅前の商店街にある居酒屋。

こんなふうに堂々と「他店偵察」を宣言する店には、好感を抱かずにはいられない。今回は
めずらしく真面目なことを書いてみました(
吉村智樹)
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▲ by yoshimuratomoki | 2006-09-24 23:49 | Trackback | Comments(4)