旅先に魂の一部を置き忘れてきたのか
人格の抜け殻のような1週間を送ってしまいました。
リハビリに、誰のためにもならない旅行記を書こうと思います。

金田一温泉でのザシキワラシ取材を終え
青い森鉄道で八戸へ。そこから本八戸へJRで2駅。
駅前に「素泊まり3000円」の旅館を見つけ、迷う。
とりあえず宿を決めるのは後回しにすることにし、中心街へ。
最初に目についたビジネスホテルのフロントで
「シングルの一番安い部屋はおいくらですか」と聞くと「6000円です」と。
ちょっと高いけどまぁこんなもんかなと思い、「じゃあお願いします」と言うと
「ただいま6000円の部屋は全部ふさがっておりまして
6800円のお部屋になりますが」と。
むむむ。論理的には矛盾はないが。苦笑いしながらチェックイン。
懐具合もかえりみずこの宿に決めたのは
目の前に八戸市唯一の映画館があるからだ。
「八戸フォーラム」というこのシネコン、オープンは5年前。
聞いた話では、一昔前の八戸は文字通り“映画の街”だったらしい。
大きな映画館がいくつも立ち並び、それを中心に街が構成されているようだったと
知り合いのライターさんが言っていたのだ。
(実は彼の親戚がここの興行主であったそうで)
覚悟はしていたが、まぁ今の日本、田舎へ行けば行くほどシネコンの天下。
しかしこの八戸フォーラム、看板に「市民の映画館」と謳ってあるように
なかなかアットホームな雰囲気である。
ロビーの壁にコルクボードがかかっており
一般客が映画の感想を書いた紙がそこにピンで留めてある。
「ジョーカー超怖かった~!バットポッド乗りたい!」
みたいな見るからに頭の悪い中学生の書き込みに混じって
「『赤い風船』に50年ぶりに再会できて感激。やはり素晴らしかったです」
という達筆のメモを発見。(『白い馬』と同時上映でかかってた。偉い)
映画の時間まで3時間ほどあったので、街をぶらぶらする。
が、すぐ飽きてふらふらとパチンコ屋へ。
そもそも私は、旅というものが苦手である。
どこそこへ行く、という目的があればまだいいのだが
「何をしてもいい」と言われると、急に不安になるのだ。
(以前行った別所温泉では、一人でいるのがどうにもいたたまれなくなり
温泉街の小さな本屋で宮沢りえの写真集を買った前科がある。)
「冬のソナタ2」の1000回転回ってる台を見つけ、大ハマリ。
熱くなっているうちに、気がつくと手持ちの金が3000円になっていた。
(ちなみに私はキャッシュカードもクレジットカードも持っていない)
家から100キロ以上離れた場所にいるにしては、かなり心許ない金額である。

暗澹たる気分でシネコンへ戻る。
映画は『ハンコック』である。
『グーグーだって猫である』とどちらにしようか迷ったが
青森くんだりまで来て吉祥寺の風景を見るというのはさすがにどうかと思い
ウィル・スミスのオレ様映画に賭けたのであった。
コーラとポップコーンを買うかどうかで10分悩む。
(1時間前の私、死んでくだちゃい…)
結局「市民の映画館」に貢献するという名目で、血のにじむ思いでスナックを購入。
旅情のかけらもない映画を複雑な気分で鑑賞したのだった。
終映後、まっすぐ帰るのもつまらないので(なんせ宿が目の前)
牛丼(400円)食べた後、モスバーガーでコーヒーを飲む。
パチンコやって、映画見て、安くてまずいもん食って、カフェのコーヒー。
完全に自宅にいるときと同じ行動パターンである。旅する意味まるでなし。
時間は23時過ぎ、モスバーガーにいた客は私のほかに
隅に座った10代と思しき女の子一人。
何をするでもなく、ぼーっと窓の外を眺めている。
「この子をホテルの部屋に誘ったらどうなるだろう」
みたいな想像をついしている自分に驚く。
東京(埼玉だけど)にいるときは
こういう“現実的な妄想”はほとんど起こらない。
私の妄想は、もっとエクストリームな方向へ向かうのが常なので。
旅が人をエロくさせるのか、人が旅にエロを求めるのか…。
つげ義春のマンガにそういう展開が多い理由がわかったような気がする。
明けて翌日、行きたい場所は特にない。
帰りの新幹線は17時なのでまる一日フリー。
青森ときてすぐ頭に浮かんだのが「斜陽館」なのだが
津軽までは電車で3時間はかかるという。青森は広い県なのだ。
今年オープンした「十和田市現代美術館」や「寺山修二記念館」も考えたが
金もない上、よく考えたらこの日は月曜日。
美術館や博物館のたぐいはすべて休館日である。
しかたなく、港をちょっとぶらぶらしたあと
「櫛引八幡宮」という神社へ行ってみることにする。
バス代をケチって八戸駅から歩いたら
炎天下のもと1時間近くかかり、激しく体力を消耗。
「南部藩総鎮守」というだけあって、なかなか立派な社である。
人っ子一人いない境内のベンチに座り、休憩。
持ち金も尽き、夕方まで時間を潰す当てもまったくないので
すべてをあきらめ、持ってきたハリー・ポッター最終巻を読み始める。
「青森くんだりまで来て自分はいったい何をやっているんだろう」という虚しさを
魔法の力で退ける。「エクスペクト・パトローナム」である。
結局、煙草1箱と缶コーヒー1本で、このベンチに3時間粘った。
途中、読んでいる本の端に、赤トンボがとまる。
少なくともトンボには嫌われていないような気がして
少しだけ心が休まる。
まぁ馬鹿にされているのかもしれないが。

新幹線に乗り、4時間かけて帰宅。
出かける前に机の上に置きっぱなしだった
飲みかけのカフェオレを無意識に飲んだら、酸っぱかった。
今回の結論。
世の中には旅向きの人間と
そうでない人間がいる。明日はどっちだ!
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