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サクランボと Luna
サクランボを買いに寄った農園の反対側に、私の書体 ITC Luna(ルナ)を使った看板が。
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この書体は1998年につくりました。アールデコっぽいのでアメリカでけっこう買われてました。
# by type_director | 2009-06-30 20:48 | 小林章の欧文書体 | Comments(0)
合字(3)
宮里さんのブログでも 合字のこと をとりあげてくれました。そう、ct 合字、st 合字なんてのもあるんです。これは私の書体 Clifford に入っているct 合字、st 合字。
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これは宮里さんも紹介していた Adobe Caslon(カスロン)のもの。
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装飾的な意味合いが強いので、通常の本文組版では滅多にお目にかかりませんが、私が定期的に購読しているこの『Matrix』では、本文をすべて Monotype Caslon(金属活字)で組んでいます。

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ct は合字を使っているけど、最後の行の「constant」で st 合字を使っていない。ざっと見ても、この金属活字書体には st 合字が無いみたい。

Monotype Caslon のモデルとなったカスロンの18世紀の活字書体はどうなんでしょう。私の本棚にある1771年の出版物に、カスロン鋳造所の書体見本が綴じ込まれています。その中には、「短い s」と t の st 合字が出てきません。本文2行目、疑問符の前の単語「nostra」の形に注目。

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この当時は、「f」に見えてしまいそうな「長い s」と「短い s」とを使い分けてました。「短い s」は単語のおしまいに使います。そんなわけで、合字も当然「長い s」と t の st 合字なんです。ちなみに、この本はすべてカスロンの活字で組んであります。この「instructed」なんて、一つの単語に2回合字が出てくる。
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つまり、もともとはこの書体には「短い s」と t の st 合字は無かった。

「長い s」は19世紀終わりにほとんどなくなりました。Adobe Caslon には、「長い s」とその合字も入っています。
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ノスタルジックな感じを演出するには良いかもしれませんが、読み間違われる危険性は大きいでしょうね。イギリス人だったらみんな知ってるかというと、そうでもない。オックスフォード辞典編纂チームの出した本にも「長い s」について「f ではありません」なんて解説しているページがあります。
# by type_director | 2009-06-30 19:26 | Comments(0)
合字(2)
英語圏、仏語圏では、たとえば fi や fl の組み合わせが出てきたら合字にする、というふうに f が最初に来る合字はきっちり例外無しに使うんですが、ドイツ語圏はちょっと違います。これは金属活字書体の Aldus(アルダス)ですが、組版工がきちっと使い分けてます。
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「Oberfläche」では合字を使うけど、「Auflagen」では別々の f と l で組んであります。ドイツの組版には決まりがあって、「Auflagen」は auf と lagen という別の単語の合成でできた単語だから、その部分は f と l が隣り合っても合字にしないんです。

この話をドイツの熟練活版組版工とすると、例外無しに止まりません。
# by type_director | 2009-06-26 06:16 | Comments(10)
合字(1)
うっかりしている間に、姉妹サイト 「これ、誰がデザインしたの?」に先を越されていました! イギリスのドリンクがなんでコンビニエンスストアで買えるの? 日本って、何でも手に入るんだなー。

ところで、合字(ごうじ)って知ってます? この「ff」なんか合字です。よく見ると、ふたつの f が重なっているだけじゃないということに気づかれると思います。
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合字は、二文字以上がひとつの文字記号としてデザインされているものです。本文用ローマン体では、たいていは文字どうしがどこかでつながっています。サンセリフ体(日本風に言えば角ゴシック体)では、つながっていないものもあります。

合字を使わないとこんな風になる。イヤでしょ、この fi や fl の黒いかたまり。
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合字の目的は、頭と頭とがぶつかってしまう組み合わせをスマートに処理して、本文中に見苦しい黒い固まりをつくらないこと。またそれがわざとらしくなく、スッと本文に溶け込むこと。これが合字。
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私の本でも書きましたが、欧文組版をする際の「プロとしての最低条件」です。特に英語圏では、これを使っていないのは素人の仕事と見られます(注)。アメリカで、あるコンテストの審査に私が呼ばれた時に審査委員長から最初に言われたのがそれです。ああ厳しいんだなって感心した。

書体デザイナーにとっては、デザイン的に魅力的な形なので、たいていの書体デザイナーは力を入れてつくってる気がします。私がそうだから。腕の見せ所!って思っちゃうし、本を読むときは内容よりそっちに目がいく。ちなみに、この本は私の書体 Clifford(クリフォード)で組まれています。画面やや右の「fl」、「fi」、「ffi」が分かりますか?
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「ff」、「fi」だけが合字じゃない。「gy」合字なんてのがあって、昔は金属活字書体でよく入っていたんだけど、最近あまり見なくなった。Clifford Italic には入れました。上が合字でない組み合わせ、下が合字。
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だから、こんなふうに使ってくれる人がいるとうれしいんです。つくり手を喜ばせてくれる使い方。
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もちろん、ビジネス用の文書とかで合字を使わないと読めないとか恥をかく、みたいなことはありません。これはプロの領域。落ち着いてじっくり読むための組版に使ってください。

「これ誰」にのっていたボトルのデザインも、合字を使いたくてそういうネーミングにしたんじゃないか?って思うくらい、合字の造形的な魅力を引き出してますね。

注:なんで「特に英語圏」? それについて、続きを書きます。
# by type_director | 2009-06-24 21:54 | Comments(4)
フォントの違法コピー撲滅(笑)キャンペーン
『Mr.タイポと失われた文字』というタイトル(原題『Mr. Typo and The Lost Letters』)の小冊子ができました。たぶん非売品。
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ペーパーバックのコミックの体裁で、ライノタイプ誕生120年記念にあの「ライノタイプの笑える社史」(正しいタイトルは『A Line of Type』)を書いたヤン・ミデンドープ(作)とアレッシオ・レオナルディ(画)の名コンビ復活です。

「笑える啓蒙書」になっていて、フォントの違法コピーをやめてくださいという内容なんですが、筋書きがメチャクチャです。

【あらすじ】
22世紀にタイムスリップした Mr.タイポがたどり着いたのは、フォントの違法コピーが横行する世界。食べて行かれなくなった書体デザイナーたちがみんな仕事を辞めてしまったため、世界から文字がなくなっていく。看板や宣伝、書籍組版がままならなくなって困っている人たちを見た我らのヒーロー Mr.タイポが立ち上がった。彼は世界を救うことができるのか... Mr. Kobayashi も端役で出演。

ベルリンでのイベント用にあわせてつくった T シャツも。この他に2パターンあります。
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「ちゃんとライセンスしたフォントってセクシー」って... もう理屈とかじゃなくなってる... 理屈を並べても違法コピーがなくならないことに気づいたから笑うしかないと。

フルティガーさん、ツァップさんをはじめとする私たち書体デザインの業界は、フォントをきちんとライセンス(購入)してくれる方たちが払ってくれる料金で成り立っています。この前の記事の動画をご覧になった人はお気づきだと思いますが、フルティガーさんは豪邸に住んでいるわけじゃない。2008年に奥さんを亡くされて、いまはひとりでごく普通の老人ホームに入っている、優しいおじいさんです。部屋の大きさは日本風に言えば10畳ないかな。

別のインタビューでフルティガーさんは言っています。「書体カタログを見ると、Frutiger に別の名前をつけて『Frutiger に似た』と脇に書いてあったりするのがあるけど、とんでもない話だ。」 そうです、「Frutiger に似た」書体がいくら売れてもフルティガーさんには一銭も入りません。もちろんライノタイプにも。本当にいい書体をつくるには、ときに数年かかりますが、コピーは1秒です...

ちなみに『A Line of Type』の中身が こちら でちょこっと見られます。最後のページ、右下の人物は私です。
# by type_director | 2009-06-18 19:21 | Comments(4)