ペーパーバックの数が増えていく TEXT+PHOTO by 片岡義男

44 気になるペーパーバック 2

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 一九六一年に出版されたウォーカー・パーシーの処女作が、一九六二年にポピュラー・ライブラリーからペーパーバックになったものが、写真の左にある。これを僕が手に入れたのは、一九六二年あるいはその次の年だった。それ以来ずっと、このペーパーバックが気になっている。そしてこれもまだ読んではいない。
『ザ・ムーヴィー・ゴーアー』という題名にも惹かれるものは強くある。映画へいく人、つまり映画を見る人だ。一九六二年度ナショナル・ブック・アウォードの、小説部門での入選作だということだが、そのことはあまり気にならない。気になる理由の最大のものは、デザインとそれが生み出す雰囲気だろう。デザインが外見だとすると、雰囲気とは明らかに内面だ。デザインという外見から想像する内面、とでも言えばいいか。
 主人公のビンクス・ボリングという男性の現実は、映画のなかにある。映画館へ通っては、何本もの映画を次々に見るのが、彼の現実だ。スクリーンという平面に映写される光と影と色彩のなかに、彼は生きている。その彼の日常のなかに、美人の従妹ケイトが、かかえている問題とともに、ある日のこと突然に、割り込んでくる。彼女との関係という、彼にとってはまったく新たな現実のなかで、ふたりはともにいくつもの変化をくぐり抜け、最後のクライマックスでは、彼と彼女のどちらにとっても、救済のように作用する地点へと到達する、というような内容であるようだ。物語の展開する場所はニューオルリンズだ。
 写真のなかで右側にあるのは、このおなじ作品が、一九八二年にエイヴォンからペーパーバックとして再刊されたときのものだ。「南部作家シリーズ」のなかの一冊だった。表紙絵のなかには、映画館の前に立つ男性ひとり、描かれている。主人公の絵解きだと思っていいだろう。一九六二年のウォーカー・パーシーにとっては、『映画へいく人』が唯一の作品だったが、エイヴォンの版が出版されたときには、『映画へいく人』の他に三つの作品が、その裏表紙に記載してあった。その三冊とも、エイヴォンからペーパーバックになっているという。僕は持っているだろうか。探さなくてはいけない。
# by yoshio-kataoka | 2006-11-06 19:28

43 気になるペーパーバック 1

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 僕が持っているペーパーバックの山のなかに、見るたびに気になるペーパーバックが、何冊もある。作家が作品を書き、それがペーパーバックというかたちになっているのだから、本来なら、気になる作家、と言わなくてはいけないのだろう。しかしいったん作品になれば、それは書き手を離れて独立するのだから、気になる作品、という言いかたがもっとも正しいはずだ。そしてその作品は、いまこでは仮にペーパーバックになっているのだから、気になるペーパーバック、ということになる。
 デイヴィス・グラッブという作家の、仮に翻訳するとして『狩人の夜』という、背丈の低いデル・ブックの、一九六三年の新版。そしてクレスト・ブックで一九六二年にペーパーバックとなった、『ザ・ウォッチマン』という作品。山のなかに見落としているほかの作品が、さらに一冊くらいはあるかもしれないが、デイヴィス・グラッブの気になるペーパーバックは、いまのところこの二冊だ。
 表紙や裏表紙に印刷してある書評の引用や宣伝文句によると、どちらの作品も、戦慄に身が震える、恐怖に心が凍てつく、といったすさまじいサスペンス小説であるようだ。ただし、単なるよく出来たサスペンス小説ではなく、戦慄や恐怖にはただならぬ深みが用意されていて、その深みの底ではグロテスクなものと真実とが、渾然と一体になって悪を体現している、というような小説世界なのではないか。
 それほど気になるなら読めばいいのだが、読まないままにこうして気にしては、写真に撮ったりしているという読書も、あるのではないか。
# by yoshio-kataoka | 2006-11-01 12:27





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