ペーパーバックの数が増えていく TEXT+PHOTO by 片岡義男

51 お盆を過ぎて西部劇の三本立て

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 お盆を何日か過ぎたあとの、よく晴れた暑い日の駿河台下で、古書店の店先にルイス・ラムーアのペーパーバックが台に山積みになっているのを、僕は見た。アメリカだけではなく世界じゅうで、その作品がもっとも多く、もっとも熱心に読まれた西部小説作家が、ルイス・ラムーアだと言われている。長編は八十冊を越えている。短編は四百以上ある。八十冊の長編のうち三十一作が、映画になったという。
 店先の台に積んであったルイス・ラムーアを、僕は一冊ずつ見ていった。一九八十年代の前半に、ルイス・ラムーア作品が九十冊ほど、バンタム・ブックスからいっせいに発売されたときのものだ。台の上にある全冊を買っていき、ルイス・ラムーア・コレクションのスタートにする、というアイディアが頭に浮かんだけれど、僕はそれを消去した。コレクションを始めるには遅すぎる。つまりいまここで台の上にあるものをすべて手に入れても、そこから先は少なくとも東京では、どうにもならないだろう。僕が少年の頃から買い続けた西部小説のペーパーバックは、その大部分を何年か前に古書店に引き取ってもらった。そのなかにルイス・ラムーア作品は確かにたくさんあった。
 結局、三冊だけ、僕は買うことにした。写真の被写体にして遊ぶことを考えに入れて、出来るだけ西部小説らしい絵柄となっている表紙のものを、三冊。一冊百円のルイス・ラムーアを袋に入れてもらい、僕は夏の終わりの神保町を歩いた。歩きながら思った。下北沢の古書店で西部小説のペーパーバックをしきりに買っていた子供の頃と、まったくおなじことをいまも自分はおこなっているではないか。「いま手に持っているこの紙袋のなかにあるのも、三冊のウエスタンだよ」と、現在(2005年)の僕は、頭の片隅にいまもいる少年の僕に、呆れながら言ったのだった。
by yoshio-kataoka | 2006-12-22 18:18




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