ペーパーバックの数が増えていく TEXT+PHOTO by 片岡義男

6 桟橋の突端にて

6 桟橋の突端にて_b0071709_14575615.jpg 一九九三年の、バランタイン・ブックスのペーパーバックだ。かつてバランタイン・ブックスは単独の出版社であり、ペーパーバックのブランドのひとつとして、バランタインはよく知られて評価も高かった。いまではランダム・ハウスの一部門であるようだ。
『桟橋の突端』という題名が気になって買った。読んでみた動機も、おなじくそこにあった。マーサ・グライムズには十冊を越える作品がある。これはそのなかのひとつで、ミステリーと呼んでいいだろうか。アメリカ的としか言いようのない悲惨な人間関係が、いくつも起きる殺人事件に共通する主題となっている。ひとりの人物が実行した連続殺人事件だから、主題は共通して当然だろう。
 離婚して子供を捨て、家庭を壊してなお、底辺をさまようかのように生きる女性を、幼くして自分も母親に捨てられた体験を深く持つ男性が、ひとりずつ殺していく。離婚や子供を捨てる行為にはまだいたってはいなくても、遠からずかならずやそうする、と思われる女性をも殺してしまうところが、工夫と言えば工夫だろうか。
 いくつもの殺人事件という謎が、ひとりの人の捜査努力によって少しずつ解かれていく過程を、客観的に描いていくという書きかたとは、まるで別のところに成立する文体と展開だから、そこを読んでいく小説かとも思う。湖に向けて突き出ている桟橋のこちら側と、対岸にある富裕層の別荘地域とそこに集まる人々との対比が、主題のしめくくりの部分で効果を上げなくてはいけないはずだ、と僕という読者は思った。しかし富裕層の人物の造形には、明らかに破綻がある。こちら側と対岸とにまたがるひとりの青年の、物語のなかで果たすべき役割が、不充分だからだろう。
by yoshio-kataoka | 2006-05-19 22:20




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