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NPO法人アンチエイジングネットワーク理事長が、『アンチエイジングな日々』を
軽快な筆致でつづります。 どうぞお気軽にコメントをお寄せください。 |
僕がアメリカ留学を終え、形成外科医として日本に戻ってきたとき、直面したのは跳梁跋扈する悪徳美容外科医の群れだった。
その頃まともな形成外科医は十指にも満たず、必死に形成外科の確立に努力いる彼らの足を引っ張っているのが、いわゆる“美容整形医”のでたらめな手術とその被害者の存在であった。 この図式は今もまだあまり変わりはない。 ちょうどその頃、豊胸術による死亡が話題となった。ある福島の女性が、日比谷の某クリニックで豊胸のためにパラフィンの注入を受け、それが静脈に間違って入り、肺に飛んで呼吸困難で死亡したのである。 今問題になっている下肢の静脈血栓が肺を詰まらせる、エコノミー症候群と同じ現象である。 その頃注入物質としてシリコンが使われ始め、すでにそのトラブルが問題視されていたとき、それよりはるかに劣悪なパラフィンを人体に注入すること自体犯罪行為であった。 その後、鼻の美容整形と称して、大切な鼻の軟骨を皆抜かれ、救いようのないつぶれた鼻に泣く女性。 下眼瞼の皺をとりすぎて生じたアカンベー。更には誇大宣伝で有名な某クリニックでは、脂肪吸引と称して腹部の内臓に穴を開けて、患者を死なせてしまう。 まさに魑魅魍魎の世界である。 何故このようなことが許されるのか。 まず、法律的には医師免許さえあれば、誰でも今日からでも何科を開業してもかまわない。たとえば僕が明日から産婦人科を名乗っても一向に構わない、ただ、僕にその勇気がないのと、どうせ患者も来ないことも確かである。 今の保険で締め付けられた日本の医療の中で、美容外科は唯一保険の効かない、自由診療の分野である。つまり、安い報酬と過酷な労働を強いられる保険制度に嫌気がさした医師にとって、言い方は悪いが唯一“うまみのある分野”である。そしてみな、メスを手にしたことのない医師まで、美容外科にシフトして行く。 反面、医師の広告規制は厳しく、つい最近まで、自分が専門医であることすら広告できなかった。これは美容外科に関しては今も変わらない。 更に美容外科の世界では、お忍びで手術を受けるがるため、患者の“口コミ”が期待できない。 したがって唯一の判断基準として、“テレビの露出度”が高いほどいい医者と、一般の人は信じ込む。 もちろん正しい啓蒙番組なら大歓迎だが、マスコミのスタンスは、イヤー美容はイカガワシイのでちょっとまだ、としり込みするくせに、その同じ局でワイドショウ的に、またお笑い番組で美容外科を面白おかしく取り上げ、そのイカガワシサをあおっている。 では安心できる美容外科医の選択基準は? ①形成外科の専門医であること(これは必要最低条件と考えて欲しい) ②その上で美容外科のトレーニングを積んでいること ③誇大宣伝に走らないこと。テレビのモニター手術など言語道断である。美容外科も立派な医療の一つ。お笑いの対象にすべきものではない。 ④悩みをよく聞いて、説明を十分にし、手術を受けるかどうかの決定は患者にゆだね、決して手術を売り込まない。 ⑤そしてもちろん腕が確かなこと。 だが、この条件を満たす医師は数が少ないんですな。 今は金と宣伝で“悪貨が良貨を駆逐せん”としている。 じゃどうすればいいの? 具体的に良貨の名前を提示する以外にないですな、考えて見ましょう。
by n_shioya
| 2008-01-15 17:05
| 手術
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Comments(10)
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小倉悠加@ICELANDia
at 2008-01-15 20:57
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後学のために『美人延命』(宇津木龍一著)を読みました。それによれば、私は「お直し」適齢期のただ中。そしてお直し適齢期の我々は、おっしゃる通り、10代の頃から数々の悪徳美容整形外科医の醜行を見聞きした世代です。だから整形に興味はあるけれど、美容整形=インチキと刷り込みされていて、足が向かない。
テレビもイカガワシイし、週刊誌の記事は記事広告である場合が多く、単行本も雑誌の記事広告と同じく活字神話を利用する広告代わりの自費出版の可能性もあり・・・懐疑的になると四面楚歌になりますね。でも、上記のメディアを尽く否定しているわけではありません。記事広告や自費出版だからこその、良質の内容が出てこないとも限りません。 良心的な医師を具体的に提示していただくのは有り難いとはいえ、そんなことをして、裏でもめやしないか、という心配も。どちらにしても、医師の立場からいろいろな啓蒙をしてくださるのは非常に有り難いことです。
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n_shioya at 2008-01-15 22:14
確かに悪徳医師を名指しで告発するのは危険を伴い、防弾チョッキも必要でしょう。
今考えているのは、僕が信頼して紹介してきた医師を、本人のご了解を得て公表したらどうかな、という考えです。 ただ美容外科手術は、そしてこれは形成外科一般に言えることですが、本人がそのことで悩んでいるとき、医学的にはこれこれが可能ですよ、ただそれを受けるかどうかはご自分でお決めください、というスタンスであるべきで、本人が気にしているということが前提で、はたでどうこう言うべきでないというのが僕の考えです。 それが昨今は、化粧品の販売のように、不安をあおって手術を売りつける傾向がエスカレートしているを憂えているのです。
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オリーブ
at 2008-01-17 12:55
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こんにちは。最近は以前より美容外科の敷居が低くなっている気がするので、先生の御意見、とても興味深く読んでおります。
私も以前は、美容外科に対し、『一般の人には遠い存在』と感じ、少々怖ささえも感じていました。けれども、年を重ねるにつれ、人は見た目ではないと、一概に言い切れないことを実感しています。特にQOLという見地から、本人自身の気持ちに及ぼす影響は大きいと思います。 ところで、メスを使わない治療に関しては、リスクが低い、つまり、ロウリスク・ロウリターンのものは、気軽に治療を受けやすいものの、メスを使った治療となると、なかなか勇気が必要となってきます。できれば、先生のお墨つきとなる塩谷先生のご紹介が欲しいところです。もちろん、100パーセント大成功ということは、どなたにも無いことだと思いますが。
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n_shioya at 2008-01-17 21:28
オリーブさん:
僕の場合、メスを使った治療の必要な方は、このブログにも登場していただいている帝国ホテルの宇津木先生か、聖路加病院の大竹先生にお願いしています。 僕のブログで見たとおっしゃって結構ですから、遠慮なくご相談ください。
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n_shioya at 2008-01-18 09:09
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at 2009-04-19 17:52
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ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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n_shioya at 2009-04-19 22:09
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at 2009-04-20 21:24
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ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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at 2009-04-21 17:59
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ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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at 2013-01-31 12:07
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ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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塩谷信幸
1931年生まれ
東京大学医学部卒業 北里大学名誉教授 北里研究所病院形成外科・美容外科客員部長 AACクリニック銀座 名誉院長 NPO法人アンチエイジングネットワーク理事長 見た目のアンチエイジング研究会代表世話人 東京米軍病院でのインターン修了後、1956年フルブライト留学生としてアメリカに渡り、オルバニー大学で外科を学ぶうちに形成外科に魅了される。数年の修業の後、外科および形成外科の専門医の資格を取得。 1964年に帰国後、東京大学形成外科勤務を経て、1968年より横浜市立大学形成外科講師。1973年より北里大学形成外科教授。 1996年に定年退職後も、国際形成外科学会副理事長、日本美容外科学会理事として、形成外科、美容外科の発展に尽力している。 現在は、北里研究所病院美容医学センター、AACクリニック銀座において診療・研究に従事している。 >>アンチエイジングネットワーク >>NPO法人創傷治癒センター >>医療崩壊 >> 過去のブログはこちら(2005年5月26日~2006年5月26日)
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