今日は珍しくクラシックのコンサートに行ってきました。と言っても、以前このブログで紹介したクリヤ・マコトさんが絡んでいたからなんですが。コンサートは『山田耕筰・新たな展開 第5回~ニュー・コラボレーション・タイムII」(紀尾井ホール)というもの。山田耕筰が書いた曲の数々を、ジャズとクラシックのひとたちがそれぞれのスタイルで演奏しようという企画です。
出演したのは、クラシック畑から平野公崇(サックス)、和谷泰扶(ハーモニカ)、小森邦彦(マリンバ)、宣谷亮一(パーカッション)、ジャズ畑からクリヤ・マコト(ピアノ)、早川哲也(ベース)の面々。彼らがさまざまな組み合わせで、「箱根八里は」、「この道」、「待ちぼうけ」、「あわて床屋」、「赤とんぼ」、「鐘が鳴ります」といった懐かしい曲を、個性的なアレンジやアプローチで聴かせてくれました。
子供のころに散々歌ったうたが、メロディもわからないほどデフォルメされていたり、かと言えばメロディに忠実だったりと、山田耕筰の書いた曲からいろいろな可能性を引き出してみせたことに、感心しきりの2時間でした。印象に残ったのは、ハーモニカの音色が郷愁を誘う「赤とんぼ」、フリー・ジャズもびっくりの平野さんフィーチャー(アレンジも)の「曼珠沙華(ひがんばな)」、全員で演奏した「ペチカ」です。
ぼくは何年か前に平野さんのアルバムをプロデュースしたことがあって、そのときに共演をお願いしたのがクリヤさんでした。平野さんにとっては2枚目のアルバムで、ジャズのミュージシャンと共演したいという希望から、ぼくのところに話が回ってきたのです。
平野さんの演奏を聴いて、まっさきに思い浮かんだのがクリヤさんでした。ありきたりのリズム・セクションを平野さんにぶつけても面白くありません。平野さんはまともな(?)ジャズ・アルバムを作るつもりでいたのかもしれませんが、ぼくに頼んだのが運の尽きでした。
そもそも平野さんはパリの音楽院で即興演奏を学んできたひとです。それなら即興演奏で勝負してもらおう、と思った次第です。ですから、当然ありきたりのリズム・セクションを集めても意味がありません。クリヤさんの幅広い音楽性なら、平野さんからさまざまな持ち味を引き出してもらえるのでは? と考えたのです。
何度もクリヤさんのお宅で打ち合わせをしたことも懐かしいですね。平野さんは、ジャズのひとたちと本当に一緒に演奏できるのか、随分不安だったようです。でも、最初は打ち合わせだけ。クリヤさんもピアノなど弾きません。徹底的にふたりが考えていることをぶつけ合うことでイメージを膨らませていきました。その間に、平野さんは不安もあったのでしょうが、段々と覚悟ができてきたようです。
そう、ぼくが平野さんに持ってほしかったのが覚悟でした。それも、「自分のスタイルでいくぞ」という覚悟です。ジャズを演奏したって面白くないことは最初からわかっていました。まったくバックグラウンドが違う音楽家の出会いに妥協はいけません。それを言葉で納得するのではなく、覚悟として心に刻み込んでほしかったのです。
そして初めてのリハーサルで、それまでの思いを平野さんはいっきに爆発させてくれました。これを聴いて、レコーディングは絶対に上手くいくと思ったのはクリヤさんとぼくです。平野さんはまだ不安な様子でしたが、手ごたえは強く感じたみたいでした。
平野さんもクリヤさんも創造的な音楽家ですから、レコーディングは納得が行くまで徹底的にやりました。そして完成したのが『ジュラシック』と題されたアルバムでした。
『ジュラシック』とはジャズとクラシックを掛け合わせた平野さんの造語です。そして、これを機に、平野さんはジャズのフィールドにも進出するようになり、クリヤさんともたびたび共演してきました。
ぼくは不義理をして、平野さんの演奏は今日が久しぶりでした。以前に比べると、音色に艶がでてきたようです。フレーズもゆったりとして余裕が感じられました。数年の間に一段と素晴らしいサックス奏者になったようです。よかった、よかった。
ぼくはふたりの出会いをセッティングしただけですが、いい形で共演を育んできた姿を見るのは何とも嬉しいことです。ステージ上のふたりも楽しんでいる様子で、観ているこちらも嬉しくなってきました。
その余韻に浸りながらこの文章を書いていますが、明日は埼玉県の狭山だったかな? で開催されるロック・フェスティヴァル「Hyde Park Festival」に行ってきます。こちらには懐かしの面々も沢山でるので、しばらく前から楽しみにしていたものです。このフェスティヴァルの様子も次に報告しますね。