1年と少し前に出版した『マンハッタン・ジャズ・カタログ』ですが、その後もいろいろと内容の変化が起こっています。今回は残念な話をふたつほど。
①【Tower Records/タワー・レコーズ】 692 Broadway(At West 4th Street)
グリニッチ・ヴィレッジにいる音楽愛好家の拠点(?)でもあったタワー・レコーズがクローズしていました。10月に行ったときにその気配があったので、どうなったかなぁと思って店にいったところ、中はも抜けの空状態でした。
この店はWest 4th StreetとBroadwayの角にある大きなビルの地下1階と地上2階、それと中2階にも売り場があって、かなりの面積を誇っていました。この店の裏、Lafyette Streetに面したところにもアウトレット店があって、こちらは10月に行ったときは店仕舞いの準備で叩き売りをしていました。メイン・ショップも、このときにほとんどの商品が2割引きで売られるなど、閉店に向けての準備をしている様子でした。
思えば、ぼくが2年の留学を終えて、帰国を4週間後に控えた83年7月初旬(たしか4日の独立記念日前後だったと記憶しています)にマンハッタンで最初のタワー・レコーズとして、ヴィレッジ店がオープンしました。家からすぐのところに出来たので、嬉しくて毎日のように店に足を踏み入れていました。
当時、マンハッタンで一番在庫が豊富だったのはPark Rawといって、シティ・ホールがある南端で店舗展開していたJ&Rでした。そのほかにもSam Goody'sというチェーン店もありましたが、ジャズの在庫がヨーロッパ盤を含めて豊富にあったのがJ&Rでした。
ぞのJ&Rに匹敵する在庫と、なおかつ値段も1ドル平均は安いタワーができたのは、ぼくにとって画期的な出来事でした。しかしもう日本に帰ることになっていたので、あまり意味はなかったのですが。
そのタワーがなくなり、Sam Goody'sもすべてが姿を消し、その後に人気だったWizも消えてしまいました。結局残ったのはJ&Rです。いまはタワーのあとに進出してきたVirginもHMVもありますが、在庫と値段を考えればマンハッタンではJ&Rが上でしょう。これらの店より安いCDショップもいろいろありますが、在庫の点に難があります。
タワーは安売り店の3~4割増しという価格ですし、日本でアメリカ盤を買ったほうが安いケースも多かったので滅多に利用しませんでした。しかしなくなってみると、結構不便です。
安売り店で売っていない新譜なんかは、値段か高くてもほしい場合ならほぼ確実に入手ができますから。今回はニール・ヤングの新譜やシュープリームスのDVDがほしいと思っているのですが、そういうのは安売り店ではいまのところ見かけません。しかたがないので、あとでVirginまで行ってこようかと考えているところです。
②【CBGB/シー・ビー・ジー・ビー】 315 Bowery(At East 1st Street)
もうひとつ、残念なニュースはCBGBがクローズしたことでしょう。パンクのメッカとして、この店でイギー・ポップやデボラ・ハリーのライヴを観たことがあります。ジャズ関係では、アンソニー・ブラクストンがオーケストラを率いて、それは素晴らしく創造的な演奏を聴かせてくれたこともありました。
経営難でしばらく前から閉鎖が伝えられていたんですが、とうとうクローズしてしまいました。現在はなぜかラス・ヴェガスで営業が続けられているようです。ひょっとすると、ニューヨークでもリオープンされるという噂もあるのですが。
ただし、この店のグッズ・ショップは19-23 St.Marks Placeで11月末から営業しています。
CBGBもタワーの近くにあります。ぼくが住んでいたアパートからこちらもすぐのところで、留学中はよくその前を通っていました。現在CBGBの前の通り(二丁目とバワリーの角)は「ジョーイ・ラモーン・プレイス」と命名されていますが。
たった1年のうちに、さまざまな店が消えては新しいスポットが誕生しています。考えようによっては、この新陳代謝こそがマンハッタン文化の原動力かもしれません。とはいっても、ぼくの印象としてはこの1年、さまざまな点でちょっと停滞気味かな? とは思っています。
しかし「明日はどなるかわからない」のがマンハッタンです。だからこそ面白い場所なんでしょう。