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闘病記⑧

8 回復の階段


私が受けた手術は「十二指腸転位術」。
上腸間膜動脈の下にある十二指腸を、動脈の上でつなぎなおすというシンプルなもの。
位置を換えることで、十二指腸が挟まれて通過障害を起こすこともなくなるという理屈だ。
十二指腸の、押し潰されて細くなっていた部分は切ってつないだらしい。


この手術方法については、術前に主治医から説明を受け、
そこに同席していた、文章をまとめる能力がきわめて高く、加えてイラストが天才的にうまい

研修医のドクターがノートしてくれたおかげで、十分に理解していた。

しかし、痛みをはじめとする術後については、まったく考えが及んでいなかった。


痛い。
息をすると痛い。咳をすると痛い。痛くて痰が出せない…
寝返りをすると痛い。起き上がれない。
熱は相変わらず高く、頭はボーっとしたまま頭痛は強くなる一方だった。
まるで自分の身体ではないようで、ただ身動きもせずベッドの上でじっとしているだけ。
開腹手術をいかに甘く考えていたか、認識不足を嫌というほど思い知らされていた。


痛いという訴えに、看護師さんが痛み止めの点滴を持ってきてくれる。
すがるような目で点滴を見つめると、その先の看護師さんが信じられない言葉を発した。

「痛みが薬で止まっているうちに、歩きましょうか」

???

(まだ、いま部屋に帰ってきたところなんですけど…)

「立ち上がる練習をしましょうか」

(痛いのに?苦しいのに?具合悪いのに?)

「ゼッタイ無理です!
言ってはみたものの、12年間陸上部で鍛えた体育会根性が目覚め、なんとなく悔しい。

次の瞬間はまんまと看護師さんの言葉に乗り、立ち上がろうとしていた。


「痛い…っっっっっ!!!!!

痛いのは当たり前である。お腹を縦に13センチ切っているのである。
しかも切ったところはちょうど身体の中心。何をするにしても腹筋は使う。

歯を食いしばりながらベッドからドアまで1往復。これが今日の進歩だ。


不思議なもので、1度無理をすると、必ず次はそれ以上のことができるようになる。
翌日には、何の苦労もなくベッドから起き上がれるようになり、部屋を2往復できるようになった。

おかげで尿の管も抜け、これだけは介助されたくないと思っていたトイレもなんとか自分で行くことができた。

傷の痛みは、毎日必ず少しずつ良くなっていく実感がある。それが救いだ。


それでも、やはり傷はこわい。
消毒のときには全身に緊張が走った。
「少しでも何かが触れたら痛いのではないか」と思うと、身体がこわばって直視できなかった。


一方、一番つらいのは痰を出すこと。

手術後は痰が多くなるとは聞いていたが、これが全く出せないのである。
痰を出すには腹筋を使う。力が入らないので痰が出せないのだ。
鼻から胃に入った管がすでに喉を占拠している。
ただでさえ息苦しいところに痰が絡み、水の中で溺れているような感覚は痛いより辛かった。

さらに傷の痛みももちろんある。


その上、夜中に廊下のトイレから別の患者さんが嘔吐する音が響いてくる。

睡眠導入薬を用いても、一睡もできない夜が続いた。


1週間経てば傷の痛みは治まるから」
主治医の言葉だけを信じて、まさに修羅場の1週間が過ぎていこうとしていた。


by mori-mado | 2011-08-31 14:33 | SMA症候群 闘病記 | Comments(0)

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