闘病記④
第4章 迷い ~何が “最善の治療” なのか~
本腰を入れて治療しなければまともな生活を取り戻せなくなる。
休業しての治療を決心したものの、
「高カロリー輸液を入れて体重を増やし、それによって内臓脂肪が増えるであろう」
という中心静脈栄養療法の理屈は、どうも釈然としないものがあった。
理論の上では確かにそうかもしれない。
しかし、もともと病的に痩せている訳ではない私の身体に内臓脂肪がないということは、
「そもそも内臓脂肪が付きにくい体質なのではないか」と考えた。
もちろん医学を学んだことのない素人の発想に過ぎないが。
仕事を休めるのは最大1ヶ月と試算する。
「ならば、いっそ手術をしてしまったほうがいいのではないか」
これまた素人の発想だが、同じ賭けに出るのであれば、“より確かな治療”を選択したかった。
主治医である消化器内科のドクターは大反対。
「お腹を切ることがどれだけリスクをともなうことかわかっているのか…」
「手術は、内科的な治療ではどうにもならない場合の最後の手段なのだから…」
何度も何度も言い聞かされた。
このとき、なぜ私がそんなに手術にこだわったのかは、現在でもわからない。
ただ、焦って結果を急いでいたということと、
開腹手術というものをバカみたいに甘く考えていたのは確かだ。
このころ、治療と平行し、主治医の了解を得た上でセカンドオピニオンを受けていた。
ここでも「上腸間膜動脈症候群」という稀な病名が診断されるまで、
何度も「まさか…」と疑われ、その度に様々な検査を受けてきた。
改めて受けたCTで、放射線科のドクターも消化器内科のドクターも
上腸間膜動脈症候群であると診断し、
最終的には胃・食道外科というところで十二指腸造影をしてもらい、
やはりそうであろうという結論に達した。
私はここでも外科のドクターに懇願する。
「中心静脈栄養をせずに、いきなり手術をしてもらえないか」
1ヶ月の休業をなるべく合理的に使いたかったのだ。
当然、答えは「NO」だった。
丁寧に、そして明確に治療の選択肢とメリットデメリットを説明したうえで、
「お腹を切らずに済むのであれば、切らないほうが患者も医者もハッピーでしょ」
と、私をやさしく諭した。
これまで、誰もが一方的に中心静脈栄養療法を勧める中、
初めて手術についてきちんと説明を受けたことで、ようやく気持ちの整理がついた。
「まず、中心静脈栄養で体重を増やす治療をしてみよう」
ここまでの長い迷いは、
ドクターも私も、まさか入院するほどのことでもないだろうと考えていたこと、
対症療法をしているうちに、痛みはいつか無くなるのではないかと考えていたこと、
そして、尋常ではない食生活に痩せていく危機感を持ちながらも、
人生最大の体重にして内臓脂肪を付けるという「フォアグラ療法」が、
私の中の“狂った美意識”を納得させることが難しかったことが理由だ。
人前に出る仕事ゆえ
「太ることは悪いこと」という潜在的な価値観に支配され、
治療に踏み切ることができなかったのだと思う。
上腸間膜動脈症候群とはじめて診断されてから4ヶ月、
長い道のりを経て、ようやく治療のスタートラインに立った。
by mori-mado | 2011-08-31 14:21 | SMA症候群 闘病記 | Comments(0)