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スズキトモユ サイト:アキヤマニヤ ■バックナンバー 【キーワード:メイド】 ・森薫インタビュー第1回 ・森薫インタビュー第2回 ・森薫インタビュー第3回 ・森薫インタビュー第4回 ・森薫インタビュー第5回 ・メイド総括 【キーワード:非モテ】 ・花沢健吾インタビュー第1回 ・花沢健吾インタビュー第2回 ・花沢健吾インタビュー第3回 ・花沢健吾インタビュー第4回 ・非モテ総括 【キーワード:純愛】 ・きらたかしインタビュー第1回 ・きらたかしインタビュー第2回 ・きらたかしインタビュー第3回 ・きらたかしインタビュー第4回 ・純愛総括 以前の記事
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カテゴリ:非モテ
2006年 08月 03日
現代社会を、そしてマンガをキーワードで読み解くコミダス。 2つめのキーワードは「非モテ」。 「非モテ」に「ヘタレ」、人生を傍観し続けた者たちの魂の叫びを描く漫画家・花沢健吾さんに全4回にわたってお話を伺ってきました。 第5回の今回は非モテ総括「田西はタクシードライバーの夢をみるか?」と題し、花沢健吾さんが影響を受けている(だろう)非モテ作品と『ボーイズ・オン・ザ・ラン』の関係について探ってみました。「非モテ」はどっちに向かうのか!? 『ボーイズ・オン・ザ・ラン』(花沢健吾/1巻から3巻まで発売中、表紙画像は3巻のもの/小学館ビッグコミックス)弱小ガチャガチャメーカーの営業マン・田西は一世一代の恋愛チャンスを迎えていた。27歳の誕生日、憧れの後輩・植村ちはるとはじめて話せたのだ。メール交換も始まって、ふたりの仲は進展していくはずだった……のだが? 立ち上がれ! 拳を振り上げろ! 空回るダメ男・田西の遅咲き青春ストーリー。 【田西はタクシードライバーの夢をみるか?】 『ボーイズ・オン・ザ・ラン』の田西は21世紀のトラヴィスである。田西はタクシーを持っていないから、自分の足でばたばた駆けていかなければならない。 『タクシードライバー コレクターズ・エディション』(主演:ロバート・デ・ニーロ/監督:マーティン・スコセッシ/ソニー・ピクチャーズエンタテインメント)夜のニューヨーク。孤独な心を抱えるひとりのタクシードライバーを主人公に、都市に潜む狂気、そして混乱を描きだす。主人公トラヴィスをロバート・デ・ニーロが、家出少女アイリスをジョディ・フォスターが演じた。 マーティン・スコセッシ監督の出世作となった『タクシードライバー』(1976)という映画がある。ロバート・デ・ニーロ演ずる主人公の名前がトラヴィスだ。 田西とトラヴィスの共通性を論ずる前に『タクシードライバー』のストーリーを簡単に紹介しよう。 不眠症に苦しむ青年トラヴィスはタクシー会社に就職する。どうせ夜眠れないのなら夜勤のタクシー運転手にでもなって、金を稼いだほうがマシだと考えたからだ。 夜の街を流すタクシー稼業はトラヴィスの孤独をさらに募らせる。後部座席に乗り込んだ酔客は上機嫌で商売女とイチャつき始める。トラヴィスで無言で車を運転する。空いた時間、トラヴィスはハードコア・ポルノの映画館に通いつめ、食い入るようにスクリーンを見つめる。 トラヴィスは手の届かない場所、たとえばタクシーの後部座席、もしくはスクリーンの向こう側にあるもの、セックスとか愛だとか、そんなふうに呼ばれるものに飢えて飢えて、自分で自分が制御できなくなっているのだ。 ある日トラヴィスは、タクシーの客として拾った女性に一目ぼれする。彼女の名前はベッツィ。前述の大統領候補選挙事務所のスタッフだ。彼女と一緒の時間を過ごすため、トラヴィスは選挙ボランティアとして名乗り出る。ベッツィとの初デートになんとかこぎつけるものの、無自覚なセクハラとストーカーまがいの行動が災いして徹底的に彼女にフラれる。 ひどく落ちこんだトラヴィスは先輩のタクシー運転手に相談を持ちかける。 「女でも抱けばいい」 北方謙三的なアドバイスを一笑に付したトラヴィスは女の代わりに銃を買ってしまう。44マグナム、38口径で武装し、身体を鍛え始めたトラヴィスは言う。 「オレはやっとわかった。オレの人生の目的が」 トラヴィスの行動の理由も、人生の目的も、トラヴィス本人以外にはさっぱりわからない―― 「非モテ」には「モテ」が常態であるというニュアンスが含まれる。「非モテ」は常に孤独である。トラヴィスはどうしようもなく孤独であり、(あえて言い切ってしまうが)病としての「非モテ」が持ちうる全ての症状を呈する、「非モテ」の中の「非モテ」患者である。その病状は田西のそれとどう共通しているだろうか? 【空気を読めずにドン引き】 ベッツィとの初デート。トラヴィスは彼女をポルノ映画館に連れて行く。デートだから場末のいつもの店ではない、ちょっと高級な映画館だ。でもポルノ。憤慨した上映中にベッツィは映画館から飛び出す。悲しいかな、トラヴィスはデートにふさわしいアミューズメント施設がなんなのか、まったくわからなかったのだ。そしてトラヴィスはベッツィが怒った理由も理解できない。 「結局、ベッツィもほかの女どもと同じだ。冷たくてよそよそしい。奴らはまるでつるんでるみたいだ」 「非モテ」の孤独がここにある。 『ボーイズ・オン・ザ・ラン』の田西は酒の席の約束により、可愛らしい後輩女子ちはるにエロDVDを貸す。しかし手違いにより中身は獣姦ものだった(ドン引き)。その後田西は「何もしない」約束でちはるとラブホテルに入り、何もしないはずもなく襲いかかって泣かれてみたりして、空気の読めなさぶりを発揮してみる。田西がトラヴィスほど痛々しくないのは、当のちはるも恋愛初心者であり、それなりに痛い女子だからであろう。 【ナチュラルにストーキング】 トラヴィスの女性へのアプローチは基本的にストーキングである。いい女と見るや、車のスピードを落とし、運転席からじっと見つめる。ほかのやり方を知らないのだ。ベッツィに手ひどくフラれてからも彼女に何回も何回も電話をかけ、しまいには職場に押しかける。相手の気持ちに頓着せず、自分の思うがままに行動する。 しほとのあれやこれやでちはるにフラれた田西は、夜の秋葉原でアダルトショップに入ったちはると青山(らしきふたり)を見かけるや否や、矢も楯もなく後をつけてみる(その後、自らのストーキング行為をちはるに告白する! というオマケつき)。相手がどう思うかはまったく関係なく、自らの心のおもむくままに行動するのが「非モテ」流である。 【空回る闘争心】 トラヴィスは身を切るような孤独を憎しみに転化させる。ベッツィにフラれた後、彼は銃を買い、自らの肉体を鍛え始める。トラヴィスが妄想する「人生の目的」はきちんと語られることがない。トラヴィスが何をしたいのか、何を求めているのか、映画の観客にはさっぱりわからない。孤独から心を病んだ人間の姿がそこにあるだけだ。バランタイン大統領候補を狙う理由も、ヒモに売春婦をさせられている家出少女を救い出さなければならない理由も特にはない。夜の街を流すトラヴィスにいちどは助けを求めた家出少女アイリスだったが、「あの時はラリってたから」と後の会話で行動は否定されている。また、アイリスがヒモに一方的に食い物にされているわけでもない。利害関係を伴った男と女の関係があるだけだ。「非モテ」であるトラヴィスにはそれが理解できない―― 一方、田西は「傷ものにされた」ちはるのため、青山に決闘を申し込む。しかしその決闘はちはるの望むものではない。青山の本命(ちはるは遊び相手)である長谷川の言うとおり、青山とちはるの関係の外で部外者である田西が勝手に空回っているだけだ。トラヴィスは行き場のない孤独を暴力として噴出させたが、田西は「モテ」に対する複雑な感情を闘争心として爆発させる。あくまで「モテへの」複雑な感情であり、ちはるへの愛情(も多少はあるだろうが)とはまた別であることは「決闘は迷惑」という当人ちはるの感情を度外視して決闘に臨んでいることからも確かである。トラヴィスも田西も、自らの行動を客観視することなく、主観世界に生きているのは同じである。 バランタイン大統領候補を暗殺に向かうトラヴィスは、何を思ったか頭をモヒカン刈にする。モヒカンは戦闘開始の合図だ。あまりにも怪しすぎる風体に、あっという間に大統領候補のSPに目をつけられる。射撃の訓練、完全武装、すべてが一瞬で水泡に帰した。何をしたいのかさっぱり意味がわからない。 青山との闘いに臨む田西も、気合を入れるためトラヴィス同様、頭をモヒカン刈にする。はたして田西と青山の決闘は無事に行われるのだろうか? トラヴィス同様、頭をモヒカンにする田西。タクシーはないので自分で走っていく。 ![]() 【田西の向かう先に光はあるか?】 「非モテ」の抑圧された感情が爆発するという点において『タクシードライバー』と『ボーイズ・オン・ザ・ラン』は共通である。しかし、田西はトラヴィスほど孤独ではない。出口なしに突き進んでいくトラヴィスと、田西が向かおうとする先はやはり別の方向のように思える。たしかに田西は多くの点でトラヴィスだが、作者である花沢健吾は田西をトラヴィスにしようとは考えていないはずである。田西はトラヴィスとは違う場所に着地することができるのだろうか? 同じ「非モテ」の暴走、空回りを扱った作品として、田西の向かう先には興味が尽きない。 【新コミダスワードは「純愛」】 次回からのキーワードは「純愛」。『赤灯えれじい』(週刊ヤングマガジン連載中)、『単車野郎』のきらたかしさんに、「純愛」について、いろいろとお話をうかがってきました。お楽しみに! 2006年 07月 27日
現代社会を、そしてマンガをキーワードで読み解くコミダス。 2つめのキーワードは「非モテ」。 「非モテ」に「ヘタレ」、人生を傍観し続けた者たちの魂の叫びを描く漫画家・花沢健吾さんにいろいろとお話を伺ってきました。 これさえ読めば、非モテについてはもう万全? 花沢健吾インタビューその4(最終回) 非モテは衰退する!? ![]() 花沢健吾: 1974年生まれ。アシスタントを経て、2004年に『ルサンチマン』を発表。バーチャル世界と現実を交錯させながら、非モテ青年の恋愛を描いた本作は話題を呼んだ。2005年、本田透『電波男』の表紙イラストを担当する。同年発表の連載第2作『ボーイズ・オン・ザ・ラン』は非モテ青年・田西が現実世界で抗う話……? 『ルサンチマン』(花沢健吾/全4巻/小学館ビッグコミックス)坂本拓郎(たくろー)、印刷会社勤務、素人童貞。実りのない毎日を鬱々としてすごしていた坂本は、友人・越後のすすめでバーチャルゲーム「アンリアル」を体験する。それは禁断の扉だった……。「本日をもって(現実の)女をあきらめましたっ!!」 たくろーはバーチャル美少女・月子との恋愛にのめりこんでいく。 仮想現実と現実が交錯する、あまりに遅すぎる30代思春期ラブストーリー! 【遅れてきた恋愛】 ――『電波男』の前の『電車男』しかり、十代くらいで経験していてもおかしくない恋愛体験を10年ぐらい上に持ち越してしまってるというのがあります。『ルサンチマン』しかり、『ボーイズ・オン・ザ・ラン』しかり、花沢さんの作品は、そのような状況について描いていると思うのですが。 花沢:ずっと描き続けるかどうかは、自分自身の変化によると思いますが、わりとその、自分自身の十代はどん底、暗ーい人生だったんです。高校時代、共学だったんですが、卒業するまでに女子と喋った時間が合計3分くらい、そんな状況だったので……。 ――クラスでもやっぱり……。 花沢:そうですね、最下層の……いるけど存在しない人間ですね……。そういう人間でいたんで……10年ぐらい時間のズレというのは、ぼく自身がほんとにそういう状態だからです。 ――『ルサンチマン』のアンリアルで学園編もあったんですが、現実パート、印刷所の描写はものすごくリアルだった反面、学園編のリアルじゃないことといったらはなはだしくて……。 花沢:それはもう、なんというか……自分の中から何も出てこなかったですねえ。自分の学園生活があまりにもなさすぎたんで、学園編を描こうと思っても描く事がなくて……。本当にもう、うわべだけのものになっちゃって。現実問題として、何も体験してこなかったんで……。 ――学内恋愛とか、そういうものへの憧れは。 花沢:憧れはあったんですけど、第三者として遠くから見ているだけで、現場で生の体験をしていないから、どうしてもうわべだけのものになってしまう。 ――恋愛に関する夢みたいなものを作品を通して描いている? 花沢:あ、それはもちろん。そうなんですけど……(考えこむ)……うーむ……(考えこむ)……。自分の好みをいうと、きれいな子、世間一般でもてはやされているような女の子がいいかというとそうでもなくて、フィーリングですよね、ふたりっきりで一時間くらいいて、緊張せずに話せるかとか。それをかなりの部分重視してて……。 【三十代の焦り】 ――『ボーイズ・オン・ザ・ラン』の田西ってすごく青臭いですよね。『ルサンチマン』のたくろーの場合は青春回顧というか、バーチャル世界でやり直そうとしています。三十という年齢の区切りで焦りがみえるっていうことを描こうとしているのでしょうか? 花沢:そうですねえ。自分自身、二十代、いや十代からずっと暗黒期を過ごしてきたので……。二十代前半もほとんどアシスタントをやって、ようやくなんというのか、(三十代を迎えて)いろいろ開けてきたというか、自分の考えたものが作品として出せるようになってきて、いろいろと問題はあるにせよ、自信みたいなものが出てきまして、自分の人生の中では明るい時期にいるのかな、青春時代にいるのかな、という気がしてまして……。 ――二十代と三十代だと恋愛に対して使えるパワーが変わってくるというのはあるんでしょうか? 花沢:僕自身は使うべきパワーを使わずに生きてきて、そのパワーも衰えてきてしまってる感じなんですけど……(考えこむ)……自分から積極的にはいかなくて、まず一目ぼれというのがない。まずしばらく話をしてみて、話がしやすいかどうか、会ってしばらくしてそういう感じになるんで、そして自分から押していくこともなく……。 ――それはご自身の作品のキャラに反映されてますか? 花沢:そうですねえ……。『ルサンチマン』に関しては女の人が一方的に来ていたんで、その構図は当てはまるんですが、『ボーイズ・オン・ザ・ラン』の場合は、主人公自身が動いていくという方向になると思うんで……。 ――田西にご自身の恋愛観を投影されてるんですか? 花沢:田西は、恋愛に関しては純情で、ぼくと比較すれば歪みが少ないですよね……。田西にもそれなりに暗い過去はあるはずなんですけど、わりと曲がらずに生きてきたというのがあって……。 ――花沢さんご自身はわりと屈折されている? 花沢:そうですねえ。自分なりに分析してみると、すごく屈折してるといえば屈折しているんですけど、でも単純だったりして、これだという柱が見えてこないんですよね。わりとぼく自身は流されるタイプだと思います。 【非モテは衰退する?】 ――本田透さんの『電波男』で表紙イラストを担当されてますけど、本田さんの提唱する二次元世界への逃避という考えは、花沢さんとしてはいかがですか? 花沢:正直、現実に期待があるわけです、どうしても。そっちが上手くいけば、当然そっちに行きたいわけで、その、なんだろう、本田さんのように現実世界から解脱して、とかそんな領域にはいけない、足りないですね。 今のゲーム技術では単純にまだそこにはいけないな、というのもありまして、現在のギャルゲーの場合、文章が並んでいて、それを選択していくという形式のものなんで、結局作った誰かの顔が浮かんでしまうんですね。そこにのめりこんでいくっていう勇気はそんなになくて……。 ――「非モテ」への注目については。 花沢:残念ながら「非モテ」というのは一時的なブームでしかない。モテない人はやっぱりモテないんで。一時的に脚光は浴びてるけど、いずれは元の場所に戻ります。 ――「非モテ」は衰退する? 花沢:衰退、じゃなくて、そのまま残るだけで。衰退するのはブームです。一瞬だけスポットライトが当たっただけですから、ブーム自体は今年にでも終わってしまうんじゃないでしょうか。まあ、わからないですけど(笑)モテない人はモテないだけの資質を持ってるわけですからね。そこから偶然脱出できる人もほんのわずかいるのかもしれませんけど。 ――「非モテ」は必ず一定の割合いるわけで、彼らに共感される物語を描けば需要があるのでは? 花沢:『ルサンチマン』描いてた時もそこらへんについては考えていたんですね。それで秋葉原とかにも重点的に置いてもらったりして反応を見たんですが、ダメなんですよ。やはりモテない人間が出てくる漫画は読みたくないみたいで。 ――本当にモテない人はリアルでなくファンタジーを好む。非モテの物語ではなく、モテ・ファンタジーを……。 花沢:これは想像でしかないんですけど、やっぱりモテない人はモテない漫画は読みたくないんでしょうねえ……(しみじみ)……鏡を見てる感じになるんでしょうかねえ……。 【非モテにも光明が!?】 ――現在連載中の『ボーイズ・オン・ザ・ラン』、だいたいどんな人が読者なんでしょうか。 花沢:『ルサンチマン』と比べたら『ボーイズ・オン・ザ・ラン』のほうが幅は広いと思っていて、そう想定して描いてはいるんですが。非モテと呼ばれる人たちとモテる人々との中間に位置しているような人たちではないかと……。 ――反応はいかがですか? 花沢:田西が落ちこめば読者も落ちこむし、田西が怒れば読者も怒る。シンクロしている感じです。田西に感情移入している人がほとんどでしょうか。 これまでの人生がよっぽどうまくいきすぎているやつ以外は、なんらかの自分はダメだなあという部分とか、これって田西じゃないか、と思えるような状況をみんないちどは経験あるだろうと思うんですよね。現時点での田西の状況は、まだちょっと闇の中という感じなんですけど、いずれは爽快感を味わえると思うんで。 ――いずれ光明が見えるわけですか? 花沢:自分の中でもそういう方向で行きたいんで。最終段階でどうなっているかはわからないんですけど、なるべく光の当たる場所に立てるように、『ボーイズ・オン・ザ・ラン』というタイトルどおり走っていければ、その様子を読者の方に見ていただけたら、と、そう思います。 ![]() 2006年6月6日 小学館スピリッツ編集部にて 花沢健吾インタビューも今回で最終回。次回、第5回は「非モテ」総括と題して、非モテをテーマにしたあんな作品やこんな作品をとりあげてみます。お楽しみに! 2006年 07月 20日
現代社会を、そしてマンガをキーワードで読み解くコミダス。 2つめのキーワードは「非モテ」。 「非モテ」に「ヘタレ」、人生を傍観し続けた者たちの魂の叫びを描く漫画家・花沢健吾さんにいろいろとお話を伺ってきました。 これさえ読めば、非モテについてはもう万全? 花沢健吾インタビューその3 漫画家になったワケ ![]() 花沢健吾: 1974年生まれ。アシスタントを経て、2004年に『ルサンチマン』を発表。バーチャル世界と現実を交錯させながら、非モテ青年の恋愛を描いた本作は話題を呼んだ。2005年、本田透『電波男』の表紙イラストを担当する。同年発表の連載第2作『ボーイズ・オン・ザ・ラン』は非モテ青年・田西が現実世界で抗う話……? 『ボーイズ・オン・ザ・ラン』(花沢健吾/1巻から3巻まで発売中、画像は発売されたばかりの3巻より/小学館ビッグコミックス)弱小ガチャガチャメーカーの営業マン・田西は一世一代の恋愛チャンスを迎えていた。27歳の誕生日、憧れの後輩・植村ちはるとはじめて話せたのだ。メール交換も始まって、ふたりの仲は進展していくはずだった……のだが? 立ち上がれ! 拳を振り上げろ! 空回るダメ男・田西の遅咲き青春ストーリー。 【漫画家を志したキッカケ】 ――漫画家を志されたのは? 花沢:けっこう早いです。まだ小学校の時、高学年ぐらいからぼちぼちなりたいな、ってのは思ってました。当時、ぼくはバリバリジャンプ世代で……。 ――その頃の少年ジャンプって、なに連載してました? 花沢:やっぱり『キン肉マン』、『北斗の拳』……。『Dr.スランプ』も終わりに近くて、『ドラゴンボール』が始まったくらいでしょうか。いちばん好きだったのは『ハイスクール奇面組』でした。雑誌は買わない派の人間だったので、ジャンプは友達から見せてもらったりして、単行本では『ハイスクール奇面組』だけを買ってました。 ――中学高校と、ずっと漫画家になろうと? 花沢:それもひそかに考えていただけで、当然人に言えるような、投稿するようなレベルでもなかった。家でイラストをただ闇雲に描いてる感じですね。兄貴がいるんですよ、兄貴がすごく漫画家になりたい人間で、ものすごく模写が上手かったんですね。みんな同じようにそっくり描けて……。ぼくはもう、ぜんぜん下手で……。下手なりにいろいろやってるうちに逆に自分のキャラクタを描かざるを得なくなって……。 ――たとえば美術部で漫画を描いたりとかは? 花沢:そういうのは全然なくて。そうですねえ、当時は漫画を描いてるってことが恥ずかしくて言えなかったんですよ。せいぜいイラストを描くといってもレベル的にはぜんぜんたいしたことない。上手い人は腐るほどいたし……。美術部も高校の時には一応たしか、在籍はしてたと思うんですけど、帰宅部で。早めに家に帰って、途中の中学生の友達の家に入り浸って、漫画読んで……。 ――高校時代はどんな漫画を? 花沢:当時はヤンマガで『ゴリラーマン』が全盛の頃で、やっぱりジャンプからヤンマガに移って、そういう流れで徐々にスピリッツとか読み始めて。『ビーバップ』みたいなバリバリのヤンキー漫画よりは『ゴリラーマン』みたいな共学で、ちょっとライトなものが好きで。それから江川達也さんの『Be Free!』とか本当に好きで、あとはなんだろう、『Akira』とか。 青年誌を読み始めてから視野が広がって、それまではSFファンタジーみたいなものを考えていたんですけど、あ、こういうのを描いてもいいんだ、もっと現実的な話を描けたら面白いだろうな、自分が描くならば少年誌じゃなくて青年誌のほうかな、とずっと思っていました。 ――一本の作品として漫画を描いたのはいつですか? 花沢:それが結構遅くてですね。高校卒業後、専門学校に行って、また暗い人生を歩みまして……。コンピュータ関係の専門学校なんですよ。そこでプログラムの勉強をしてまして。 ――『ルサンチマン』のたくろーが就職先とぜんぜんちがう専門学校行って、というのはご自身のエピソードなんですね。 花沢:その頃すでに家族そろって東京に引っ越していたんですが、家に印刷会社からいきなり電話がかかってきまして、面接しませんか、って。行ったら受かってしまって印刷工です。でもやっぱり単純作業でだんだん辛くなってきて……。家で描いてるのもイラストばっかりなんですよね。多少はペン入れの真似事みたいなこともするんですが、ぜんぜん本気じゃなくて、何ページか描いたらもう放っちゃう感じで。 ――当時、漫画家志望のご友人なんかは? 花沢:いや、ぜんぜん誰もいないです。ずっとひとりで。そんなこと続けてたら精神的にも参っちゃって。辞めなかったらこれはヤバいんじゃないか? と思って、ちょうど3年、丸3年で会社を辞めました。 ――辞めてアシスタントに? 花沢:ええ。先のことなんかまったく考えてないまま、とりあえずアシスタントになろうと。何人かの作家さんのところでアシスタントを募集してたんで応募して、『家裁の人』の魚戸おさむ先生のところで雇ってくれるということになったんです。ところがいざ面接に行ってみると、募集は一応かけてるんだけど、今ちょっと人数が足りてて今の段階では雇えない、でも、せっかく時間があるんだったら漫画描いて持ってきてみてよ、と。 ――で、作品を仕上げたわけですか? 花沢:なんとか作品を仕上げて、2ヶ月くらいして先生に見せに行ったら、キミ、誰だっけ? そんなこと俺言った?(笑)、そんな感じで。でもまあ読んでいただいて、知り合いの編集さんに回すよ、みたいな感じになって、ちょうどその時アシスタントさんがひとり辞める直前で、だったらついでに入れば? と、わりとトントン拍子でした。魚戸先生のアシスタントになって、その後作品がヤングサンデーの月例賞を取って、担当さんがついて、それが23歳の時ですね。 ――月例賞をとった作品というのは? 花沢:『墓穴』という話で。暗いというか、高校の夏休みに美術部の三人の男が、男子便所から女子便所に穴を開けて、というくだらない話でした。 【参考にしてるモノ】 ――作品を描く上で何か参考にしている物はありますか? 花沢:人物に関していえば、時間があれば背景のサブキャラというかモブシーンがしっかり描ければいいなと思って、「Tokyo graffiti」か、ああいう一般の人たちの写真がたくさん載ってる本を見て、お爺ちゃんの顔とかを参考にしたりして……。 ――どういう人なのかを想像したりとか? 花沢:まあ自分が描きたいなってイメージの人をそうやって探して、描いたりとか、そういうことはしますね。あと部屋の中を描くのが自分は好きなんですよ。『賃貸宇宙』っていう写真集があるんですが、それを見て、リアルで生活感のある部屋を参考にしますね。好きなんです、部屋が。部屋はもう、その人そのものよりもはっきりと性格が出るものなんですよ。 「Tokyo graffiti」グラフィティマガジンズが発行している月刊誌。→公式サイト タレントやアイドルではなく、普通の人々の普通の日常を写真によって切り取る。東京の街を行くカップルの写真集「TOKYO CUPLES PHOTO」、いろんな部屋を公開する「ひとり暮らし写真集」など、登場する人数は毎号なんと1000人! 『賃貸宇宙 ― UNIVERSE for RENT』写真家・都築 響一が1993年から2001年までの9年間に出会った、300人近い普通の人たちのあまり普通でないライフスタイル。廃墟を改造した部屋、服に埋もれた部屋、赤一色に染めた部屋、土足でないと危険な部屋などなど、大阪と東京、京都を中心としたほとんどありえない賃貸生活が紹介されている。圧巻のボリュームは827ページ、お値段も9975円! お求め安くなった文庫版も上巻/下巻2分冊で発売されてます。 ――ほかの作家さんの作品で、これがオススメ、というのはありますか? 花沢:現在連載中の作品では、きらたかしさんの『赤灯えれじぃ』、瀧波ユカリさんの『臨死!! 江古田ちゃん』に注目しています。 『赤灯えれじぃ』(きらたかし/6巻~/ヤングマガジンコミックス)ヘタレなフリーター・サトシは、道路工事の誘導員バイトで知り合った金髪ヤンキー少女・チーコに一目ぼれしてしまう……。奥手なふたりの心がすこしずつ接近していく様子をていねいに描いた青春ラブストーリー。なんというのか、いまどきめずらしい。(チーコには妙な既視感が) 『臨死!! 江古田ちゃん』(瀧波ユカリ/1巻~/アフタヌーンKC)部屋では全裸のフリーター、江古田ちゃんが毒を吐く。その猛毒の牙に怯えるな! 狙った男は逃さない、ブリっ子進化系ギャル「猛禽類」のほうが実は恐ろしいかもしれないぞ! ――漫画以外、たとえば映画では? 花沢:邦画がけっこう好きで……わりとこう恋愛ものの静かな作品が……比較的最近の作品では『ジョゼと虎と魚たち』。少し前の作品では市川準監督の『つぐみ』とか。昔の作品になりますが、大林さんの『転校生』も。そういう作品が好きです。 ――ストーリーを考えるうえで参考にされたりするんですか? 花沢:わりと静かで淡々とした物語が好きなんですが、自分で描くと騒がしいというか、滑稽になっちゃうんで、静かなそういう作品もいつか描きたいな、ってのがありますね。 ――ご自身の作風をどんなものだとお考えですか? 花沢:悲しい話を悲しいままに描くのは好きじゃないんです。 善悪についても一方的に断言ができないというか、結論付けられない、ってのがあるんだと思います。自分としては物事を一方向からだけからしか描かないというのはしたくないな、と。 女性の話もそうなんですね。一方的な話になりすぎちゃって、そこに何か疑問を感じてしまう。なるべく多面的に捉えるような、そう見えるようなものを描ければいいと思ってます。 ![]() 2006年6月6日 小学館スピリッツ編集部にて 次回、花沢健吾インタビューその4は、キーワード「非モテ」について、いろいろお訊きしてみます。核心を突く発言も飛び出すかも。お楽しみに! 2006年 07月 13日
現代社会を、そしてマンガをキーワードで読み解くコミダス。 2つめのキーワードは「非モテ」。 「非モテ」に「ヘタレ」、人生を傍観し続けた者たちの魂の叫びを描く漫画家・花沢健吾さんにいろいろとお話を伺ってきました。 これさえ読めば、非モテについてはもう万全? 花沢健吾インタビューその2 非モテはバーチャルを夢見る『ルサンチマン』 インタビューその1はこちら ![]() 花沢健吾: 1974年生まれ。アシスタントを経て、2004年に『ルサンチマン』を発表。バーチャル世界と現実を交錯させながら、非モテ青年の恋愛を描いた本作は話題を呼んだ。2005年、本田透『電波男』の表紙イラストを担当する。同年発表の連載第2作『ボーイズ・オン・ザ・ラン』は非モテ青年・田西が現実世界で抗う話……? 『ルサンチマン』(花沢健吾/全4巻/小学館ビッグコミックス)坂本拓郎(たくろー)、印刷会社勤務、素人童貞。実りのない毎日を鬱々としてすごしていた坂本は、友人・越後のすすめでバーチャルゲーム「アンリアル」を体験する。それは禁断の扉だった……。「本日をもって(現実の)女をあきらめましたっ!!」 たくろーはバーチャル美少女・月子との恋愛にのめりこんでいく。 仮想現実と現実が交錯する、あまりに遅すぎる30代思春期ラブストーリー! 【現実と仮想現実(アンリアル)のギャップ】 ――前作『ルサンチマン』の連載が始まったとき、花沢さんご自身はおいくつでしたか? 花沢:二十九歳でした。二十九でようやく連載デビューというのは、遅咲きのほうだと思うんですよね。焦りを感じていて、正直三十までに芽が出なかったら何か考えなきゃな、と追い詰められていたところがありました。現実逃避したいという気持ちがあって、『ルサンチマン』はそういうところから出てきた発想なんじゃないかと思います。 坂本拓郎(たくろー)もうすぐ30。人生に絶望中。 ![]() ――たくろーはかなり自己投影されたキャラですか? 花沢:中身に関してはかなりそうかなという気がしますけど、完全に自分というわけではありません。(『ルサンチマン』の)設定を考えるとき、オンラインゲームを題材にした漫画なりアニメなりを何点か参考にしたんですが、登場人物が、仮想現実のキャラもカッコよければ、現実のキャラもカッコいい。(外見が)たいして変わらなかったんですね。そこに何の意味があるんだろう? と、反発があったんです。そのギャップを生かすため、たくろーというキャラを用意しました。 仮想現実(アンリアル)で馬を駆るたくろーとラインハルト(越後)。 ![]() 現実ではこうなっている。 ![]() ――仮想現実と現実のギャップが大きくなければ、作品として意味がない? 花沢:そうですね。意味がなかったと思います。それに関してはたぶん、正しいとは思ったんですけどね。ただ、やっぱり……(『ルサンチマン』を読み返しながら)ひどすぎた……。 ――実際にネットゲームなどやられた経験は? 花沢:ネットゲームはほとんどしません。はまり込むまで時間がかかるので飽きてしまうのだと思います。2ちゃんねるは毎日見ていますが、最近は怖くて自分のスレッドについては見られません。100褒められても1けなされるだけで、しばらく凹んでしまうんです。ダイレクトに遠慮の無い意見が聞ける場所はほかにないので重宝してもいるんですが……。 ――将来的にアンリアル*のようなシステムが実現したとして、その中での恋愛はアリだと思われますか? 花沢:逃げ道のひとつとしてはあってもいいんじゃないでしょうか。僕自身、こういうのがあったら確実に逃げるだろうなと思ってアイデアを考えていたんで。だから……、まあ、本当にそうですね、今後こういうのができたらやってみたいと思うでしょうね。 ――アンリアルというバーチャル世界が完全に悪だとは描かれていないけれど、だからといってそこに逃げ込む事が完全に幸せというわけでもないわけで……。 花沢:自分の中には勧善懲悪という発想はないんです。たとえば一般に悪だと見なされている人も目線を変えればちがうものが見えてくるし、一概に決めつける事はできない。そんな感覚が無意識に出てしまうのだと思います。だから『ルサンチマン』の中には絶対悪と呼べる存在は出てこないんです。 * 『ルサンチマン』の世界で大人気の仮想現実ネットゲーム。大ハマリの挙句、多額の借金をし自己破産に陥るケースや、現実に帰れなくなりそのまま餓死に至るなど、社会問題化している。 【月子と長尾】 左:月子 たくろーが購入したバーチャル彼女。伝説のソフトウェア「ムーン」との噂も……。右:長尾 ウオト印刷営業にして、たくろーの同期。姉御肌だが、じつはツンデレ。 ![]() ――『ルサンチマン』を連載されていた頃は月子が理想のキャラだったんでしょうか? 花沢:そうですね。わりとかなり、当時の自分の理想像だったですね……。バーチャルの典型キャラがちょっとおかしな方向にいっている、いうか……。 ――月子って、女性視点から見ると現実味がない…… 花沢:たぶんそうで、女性から見るとムカつくキャラなんじゃないかと思います。男性というか、僕の中での理想像みたいものを最初は考えていたんです。従順で、みたいのを。 長尾については、こういう女性が現実にいたらいいだろな、っていうのを考えて、どちらがいいか、好きかっていうのは一概にはいえないんですけど。現在の状況では長尾さん的キャラに傾きつつある……ずっとロリコンだったんですけど、やっと卒業できたというか……。 ――現実世界の存在、長尾ですが、どうしてこのようなキャラにしようと思ったんですか? 花沢:当時の担当編集の方と打ち合わせしているうち、現実の世界にも女性を出したほうがいいよね、という話になって、描くんだったらヒロインと対抗できるキャラがいいよね、と。わりと二種類、好きなタイプがいて、本当にばりばりロリコンチックな、ショートカットな、無垢な感じの女の子と、そういう大人っぽい女性と、そのころはどっちも好きで、そのふたりをちょっとこう、出して……(考え込む)。 ――バーチャル世界の月子というキャラに対して、長尾がきちんと張り合うところも面白いですね。バーチャル世界のキャラだといって、現実にいる自分の存在よりも下に見ない。 花沢:長尾はそういった意味ではいちばん現実も仮想現実もなく、バーチャルの住人と接することができたと思うんですよね。 ――女性キャラを描くにあたって、何か気をつけていることはありますか? 花沢:なるべく女性の心理描写は描かないようにしてるんですね。やっぱりわからないんで。行動だけをみせるような感じにして、内面は正直、自分が描けば描くほどたぶん嘘っぽくなってしまうので、そこはちょっと、まあ今もそうなんですけど、注意してやってる感じですね。 【究極キャラ・越後】 ラインハルト・ウォルフガング・シュナウファー: 「アンリアル」における越後。この世界では一目おかれた存在。現在は5人の女性とともに隠遁生活を送っている。 ![]() 越後大作: たくろーの高校時代の友人。無職、真性童貞。この世は悪夢で、早く目が覚めないかなあと思っている。じつはいいやつ。 ![]() ――越後というキャラは結構人気があったんじゃないかと思うのですが。 花沢:そうですね。僕的にはかなり最高のサブキャラクタでした。モデルにした人間がとくにいるわけじゃなくて、なんというか、その……自分の中で勝手に妄想している、現実にこんなヤツがいたらヤダな、っていうそういうキャラです(笑) ――作品の中でいちばん一貫しているのは越後ですね。 花沢:うーん……確かに、これだけ貫き通している人間ですし、こいつが現実で普通に、普通の顔を持ってたら本当にモテたんじゃないか。だから、外見で判断する女性憎し、みたいな(笑)そういう暗い思いも越後には込められているんですよね。 越後の最期に関しては、不幸なのか、幸福なのかわからないですけど、どちらにしても破滅の方向にいかざるを得ないだろう、いわば越後にとっては最高の晴れ舞台だったわけで、『ルサンチマン』の中でいちばんカッコいいのは越後だったと思っています。 ――主人公のたくろーについては揺れまくりブレまくりのキャラで、月子ひとすじかと思えば、あっさり長尾に流れたりとか。 花沢:(嘆息)……なんか、こう、ダメなんだよね……。 【物語ラストの意味】 ![]() ――『ルサンチマン』4巻の表紙の意味なんですが、現実世界で生まれた月子がたくろーの弁当屋で働いているというのはどういうことなんでしょうか。 花沢:それはもう本当に、そのままでとってもらってかまわないです。 ――彼女は、自分がどんな存在だかわからないままにかかわるんでしょうか。 花沢:かなりハッピーエンドで考えてしまったんですけど、詳しくはご想像にお任せしますという感じで。自分としては最終的には、くっつくのかなあ、と思ってたんですけど、それはちょっと出来すぎかな。 長尾が月子の生まれ変わりをたくろーのお弁当屋さんに連れて行ったのも、とりあえず、約束を果たそうということであったかな、と思います。 ――最後に、デビュー作である『ルサンチマン』をいま振り返ってみて、いかがですか? 花沢:そうですねえ……まあ……完全とはいえないですけど、当時の自分についてはある程度出せていると思うんですけど、まあ、いろいろとまた……技術的な問題もあるし……いろいろな問題もあって……まだちょっと自分でも冷静に読めないというか、振り返っては読めないところがあります。 ![]() 2006年6月6日 小学館スピリッツ編集部にて 次回、インタビュー第3回は、花沢健吾さんが漫画家としてデビューするまでの軌跡にスポットを当てていろいろお話を伺います。お楽しみに! 2006年 07月 06日
現代社会を、そしてマンガをキーワードで読み解くコミダス。 2つめのキーワードは「非モテ」。 「非モテ」に「ヘタレ」、人生を傍観し続けた者たちの魂の叫びを描く漫画家・花沢健吾さんにいろいろとお話を伺ってきました。 これさえ読めば、非モテについてはもう万全? 花沢健吾インタビューその1 非モテよ立ち上がれ!『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 ![]() 花沢健吾: 1974年生まれ。アシスタントを経て、2004年に『ルサンチマン』を発表。バーチャル世界と現実を交錯させながら、非モテ青年の恋愛を描いた本作は話題を呼んだ。2005年、本田透『電波男』の表紙イラストを担当する。同年発表の連載第2作『ボーイズ・オン・ザ・ラン』は非モテ青年・田西が現実世界で抗う話……? 『ボーイズ・オン・ザ・ラン』(花沢健吾/1巻から3巻まで発売中、画像は発売されたばかりの3巻より/小学館ビッグコミックス)弱小ガチャガチャメーカーの営業マン・田西は一世一代の恋愛チャンスを迎えていた。27歳の誕生日、憧れの後輩・植村ちはるとはじめて話せたのだ。メール交換も始まって、ふたりの仲は進展していくはずだった……のだが? 立ち上がれ! 拳を振り上げろ! 空回るダメ男・田西の遅咲き青春ストーリー。 【第1話は実体験?】 ――いきなりですが、この第1話、ヒドいですよね……。 花沢:ああ、でも現実にいたんですよね……(暗い表情)。これはほとんど、8割くらい実話なんですわ。実際もっとヒドい話なんですけど、本当に引く話なんで……。実際にこういう女性がいたのは確かなんですね。 27歳の誕生日、テレクラの待ち合わせにやってきたのは……。 ![]() 田西、満面の微妙な笑顔。 ![]() ――花沢さんの場合は田西と比べて、どのような……? 花沢:ええと、この女性にではないんですが、眼鏡を割られるのは確かなんですよ。眼鏡を割られて、ちょっと軽く、美人局ティックな……。恐喝、ですね。 ――なんか出てきちゃった、みたいな。 花沢:出てきはしなかったんですけど、脅しですね。いるよ、って言われて、下にいるからね、って言われて、ちょっとお金出して、みたいな。呼ぶようなことを言われて、ちょっと……。まあ、そんなことがあって……。それが去年の春ごろ、ネームを切る前段階で。いやあ、怖いなあ、と思いましたね……。恐ろしいなあ……と思って……。 ――場所は、新宿? 花沢:池袋です。まんまです。走ったルートから何から……。 ――その体験がきっかけになって『ボーイズ・オン・ザ・ラン』が生み出された? 花沢:物語の骨格みたいなものはあったんですが、導入部のネタをどうしよう、と考えてたところでした。……せっかくそういう体験したんで、これはぜひ入れていこうと。 【真のヒロインはちはるじゃなかった!】 ――最新の3巻ですが、まさに激動の展開で、田西とちはるはこの先どうなってしまうんだ? とビックリしたんですが。 花沢:えーと……、実はちはるはヒロインではないんです。これはもうちょっと早い段階でハッキリさせる予定だったんですが。物語の真のヒロインというべきキャラは、第1話のラストに登場した格闘少女なんです。 第1話ラストに登場する格闘少女。彼女を追っ手と勘違いして襲いかかる田西を反射的にノックアウトさせる。 ![]() 田西の後輩社員・植村ちはる。当初は田西と彼女の不器用な恋愛話になるのかと思われたが……。 ![]() ――えっ、そうなんですか! ほとんどの読者が田西とちはるの不器用な恋愛話だと思ってるのでは。たしかに、ヒロインにしてはちはるの扱いはヒドすぎると思ってましたが……。 花沢:なんでだろう。なんでだろうなあ……。可愛さ余って憎さ百倍というか、最近この手のタイプの女性がすごく嫌いなんですよ。以前はすごく好きだったんですけど……。それでですねえ、そういう女をやっつけたいと。 ――やっつけたい? 花沢:苛めたい。できればもうちょっと追い込んでいきたいなとは思うんですが……。まだまだ甘いな、と。 ――ちはるをこういうキャラにすることは連載前の時点で決めていたんでしょうか? 花沢:嫌なキャラというか……。勘違いさせる女性がいたんですね。それはまあ、自分の、本当、単純な勘違いなんで、その女性にはまったく罪はないんですけど、それでも、なんか……なんだろうなあ、まあ……悔しいというか……。 ――無自覚に周囲をかき回す、みたいな? 花沢:まあその、八方美人というか。誰にでも好感を持たれるような、人が……いまして……(無言)……(無言)……。 ――ちはるって女の子はそれまでに男性経験がなくて、恋愛の経験値でいえば低いわけですよね。 花沢:それがねえ……なんでしょう、だから……どういうのが経験値が高いっていうかわからないんですけど、なんだかなあ、無自覚なんですけど、うーん……、男を自在に振り回せるというか……。 ――ここまで激動の展開になるとは予想できる人はいなかったと思うのですが……。 花沢:(小声で)いやあ、実はですねえ……。これぐらいまでの話が1巻まで、の予定だったんですけど、まだまだページの読みが甘いっちゅうか……。甘さがあるというか……。ずるずるといってしまって……。 【やっつけたいのは女?】 ――(初登場の青山を見て)あ、なんだか、いいやつっぽいですね。 花沢:青山は基本的には悪いやつじゃないと思ってますね。男友達としてならそうとう面白いやつなんじゃないかと。ただ、女性に対してはドライに、冷酷に、とかそんな接し方しかできない。そういう男はいるんじゃないでしょうか。 ライバルメーカー営業マン・青山。最近すっかり悪役だが初登場時はこんなに爽やか。 ![]() ――青山って、わかりやすく敵役、悪役だと思うんですが。 花沢:たしかに悪役というポジションにいるキャラではありますが、物語全体を通してみて、たとえば田西の生涯のライバルになるとか、そんな感じではないと思っています。 わりと俺的には、敵は女であるというか。なんだろう、なんていうかな……、都合がいい女性をやっつけたいというものすごい暗ーいものがまず根底にあったんですね。 ――女性に対する不信が根底にあるんですか? 花沢:これもまた表裏一体で……、どこかこう、信用できないんじゃなくて、理不尽なものを感じることがあるんですよね。なんだろな……女性……専用車両とかね。最近、北海道で女性専用スパゲッティ店ができたって話があって*、男性は何時から何時まで入店できません、って……。なんかねえ、そういうのを、すごく……。 ――理由がわからない。女性専用車両ならば、痴漢防止かな、と思うんですけれども。スパゲッティを食べる男を見るのが不快なんでしょうか。 花沢:そういうこととしか思えないですよね。ものすごく理不尽なものを感じてしまって……。 ――『ボーイズ・オン・ザ・ラン』が闘う対象は女性なんでしょうか? 花沢:(考えこむ)なんだろうなあ……。あからさまにそうなっていくかはまだわからないですけど、せっかくなので女性批判はしていきたいと思っています。自分の中にいろいろな憎しみとか、暴力衝動とか、そういうものが、あるんですよね。そういうのをまず描いていこう、その対象になるものは何かと考えると、いろいろとあるんですけど、身近に何があるかと考えると、そういう不条理だったり理不尽だったりするんですよね。 * JR函館駅にオープンした女性専用パスタ店「ブォン・ヴィアッジョ」のこと。午前11時~午後8時までの営業時間のうち、午後4時までは女性専用。午後4時以降は女性同伴の場合に限り男性も入れる。(→参考URL) 【『ルサンチマン』と『ボーイズ・オン・ザ・ラン』】 ――前作『ルサンチマン』はカルト要素の強い作品だと感じましたが、この『ボーイズ・オン・ザ・ラン』はメジャーに向けてという意識はあったんでしょうか? 花沢:多少それは……ありましたね。画に関してもそうですし、『ルサンチマン』についてはブサイクキャラでいって、それが読者には引かれてしまったし…… ――もう尻は描かないようにしようとか。あ、描いてるか。 花沢:いや、やっぱりそういうの好きなんで(笑)なかなかキレイには描けないんですけど。一般の商業誌で連載するからには単純に自己満足だけではダメなんだというのは、『ルサンチマン』の連載終了後に自分でも考えて、読者をまず満足させることを優先しつつ、その中でさらに自分でも納得ができるもの、両方を求めていかないとダメなんだろうな、と思いました。 ――物語の最終地点は見えているのでしょうか? 花沢:前作『ルサンチマン』については描く前からはっきりとラストを決めていたんですが、この作品については、自分でも正直まだはっきりとは決まっていません。 『ボーイズ・オン・ザ・ラン』は成長物語で、僕自身が成長していければ、それなりにストーリーも変わっていくはず……、なんですが、正直、1年後にどうなってるのか、自分がどうなってるのかわからないし、漫画のほうもどうなっているのかわからない(笑)かなりもう、漠然としています。 ――二十代を漠然とすごしてきてしまった人間が、バーチャル世界で失われてきたものを取り戻そうとする物語が『ルサンチマン』で、現実世界で抗う物語が『ボーイズ・オン・ザ・ラン』なのかな、とぼくは感じました。 花沢:『ルサンチマン』の場合、きわめて短絡的なアンリアルという逃げ道が用意されていて、そこでどうなるかって話なんですけど、『ボーイズ・オンザ・ラン』については現実の中でしか存在できない、要は逃げ場がない状態ですね。自分が変わらざるを得ない、逃げ道はもうないんで、そういうことを考えたんですね。 ――受身のまま終わってるのが『ルサンチマン』で、そこから先に行くのが『ボーイズ・オン・ザ・ラン』。 花沢:そうですね。自分自身で変化していくって方向ですね。そこではっきりと違いを出したいな、と。田西は空回りキャラなんですが、いつかは空回りじゃなく、きちんと回り始めればいいな、そう思ってます。 ![]() 2006年6月6日 小学館スピリッツ編集部にて 次回、花沢健吾インタビューその2は、花沢健吾の名を世に知らしめた前作『ルサンチマン』について、いろいろお訊きしてみます。お楽しみに! < 前のページ次のページ >
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