自分のベースの演奏者としての実力も思い知った。
なにより、素人ドラマーとは言え、初めて生ドラムを聴いた。
初めて生でエレキのアドリブソロを間近で見た。
初めてバンド演奏をした。
初めてハードロックの演奏を体験した・・・。
初めての練習経験で、ロックが「観賞用の娯楽・趣味」の音楽から僕にとっては「表現する為の掛け替えの無いもの」へと代わった。
結局、このバンドはあっという間に消滅した。
一回きりの練習バンドだった。
ロンゲのN君にはその後二度と会うこともなかった。
ドラマーであるのっぽのA君はいつの間にか学校にも来なくなった。
バンドは消滅したものの、学校では僕とシャラはいつもつるんでいた。
ロックの夢を語っていると時間を忘れた。
そしていつのまにか、あの「軽音クラブ」で気のあった仲間5人で放課後に楽器演奏をするようになった。
当時、上之宮高校には所謂「軽音クラブ」なるものは存在してはいなかったが、僕たちが有志で同好会的に発足をさせて、音楽のS先生が顧問になってくれた。
先輩も後輩もいない、僕らだけの「軽音クラブ」だった。
編成はドラム、ベース、ギター、ギター、ベース、そしてヴォーカルだ。
この軽音クラブのバンド名、みんなイノシシ年なのでWILD BOARにした、よく考えたら僕だけねずみ年だったのだけれど・・・。
シャラはWILD BOARの中でもダントツに上手く、他のメンバーは僕と大して変わらないへたくそ加減だった。
シャラが高校生にしては飛びぬけて上手いギタープレイヤーだったと言うことだ。
放課後の練習は楽しかった、大爆笑をしながら学校から追い出されるまで演奏した。
そしてバンドの当面の目標を「文化祭」にした。
僕は始めて「ヴォーカル」を担当することになった。
何故ヴォーカルだったのか理由は分からないけど、ベースを弾きたいと言うN君がいたからだろう。
このバンドメンバー5人は大の仲良しになって、みんなで輸入レコード屋さんへ行ったり、楽器屋さんへ行ったり、喫茶店へ行ったり・・・・。
程なく学校側から音がでか過ぎると言う事でクレームが付いた。
顧問の先生から「ウクレレとか、もっとアコースティックな楽器にしなさい」と注意を受けた。
結局、学校で演奏練習できなくなって、貸し練習スタジオでリハーサルすることになった。
「文化祭」での曲を決めることにした。
主導権はほぼ100%シャラにあって、メンバーは一目置くシャラの言うことを聞いた。
楽曲は
DEEP PURPLE, BTO,KISS,UFO,SCORPIONSが中心だった。
ある日の放課後、WILD BOARのメンバーで上本町にある練習スタジオへ行った。
既に僕は1度だけだけど、練習スタジオの経験があったのでちょっと余裕があった。
「さぁーほなボチボチやろか?」シャラの掛け声で演奏が始まった。
ある程度学校で予備練習をしていたので演奏が崩壊するようなことは無かった。
SCORPIONSのANOTHER PIECE OF MEATだ!
(実はANOTHER PIECE OF MEATではなくて、Catch your trainである可能性が大です!!すんません!)
ドラマーの掛け声と共にバンドは火を噴いたようにイントロを演奏した。
今まで、学校でショボイ機材で音を小さくして演奏していたから、この爆音が本物のサウンドだと思った。
僕はこのロックの音に身震がした、興奮した、魂が踊り狂っているような気がした。
(おぉ~~!!凄い!!レコードより凄いんちゃうか?ロックは凄いぞ)
僕は生まれて初めてマイクを握り締め、ありったけの力で叫んだ!歌った!
(歌詞削除)
その瞬間、演奏しているメンバーが一斉に僕を見た。
僕の叫びに皆が驚愕していた。
シャラも笑ってはいたけれど僕の声に驚いていた。
僕の歌と共に演奏は益々熱くなった。
演奏が終わった時皆が叫んだ、「うぉ~~~~!!!!」
みんな異常な興奮状態だった。
この時、16歳高校生ロックバンドはまさに「ロック」していた。
僕は「歌う」ことの快感を感じた。
僕の中の何かが弾けた。
僕と「歌」が始めて出会った瞬間である。